馬鹿でミーハーな女の添い寝フレンドになってしまった俺の話。

茜琉ぴーたん

文字の大きさ
35 / 56
8

35

しおりを挟む

 自宅から西へ3キロ弱。
 遥の軽自動車が停まる駐車場の来客用スペースへ車を入れて、長岡は彼女を伴いシェアハウスへと入った。
 玄関と大きな台所とテレビを置いたリビングは共用、遥は廊下を真っ直ぐ進んで自室の扉を開ける。
「…へぇ…手ごろな大きさだな」
「光熱費も込みだから楽で……あった、お財布…」
「一応中も見とけよ、身分証明書とかあるか?」
「大丈夫…うん…」
「どれ運んだらいい?指示して」
遥は仕事用の服や化粧道具を入れたドレッサー、衣装ケースに入った冬服などを指して長岡に運ばせた。
「小さいもんは軽に、さっさと済ませようぜ」
「うん、なんか夜逃げみたいね」
「夜逃げだよ」
 運んでは連れ立って戻り、物音で住人が何事かと覗きに来たが作業着の長岡が睨めばそそくさと隠れていく。

「あとは…退去前の確認とか管理会社としたりすんだろ、その日も呼べよ。俺が無理なら会社の整備士寄越すから…屈強な奴をさ」
「うん…ありがとう」
「よし…レンタル倉庫経由して…うちまで運転できるか?」
「大丈夫……あ、」
「なに、」
遥の目線の先に長岡が振り返れば、共用リビングから若い男がこちらの様子を窺っているのが見えた。
「…まさかあれ?」
「うん…押し入って来たひと…早く帰ろ、」
「おう」
長岡は顔が強張った遥の肩を抱き、そのリビングの前を通って玄関へ歩く。
 遥に先に靴を履かせて待っていると、長岡の背中に小さく
「チッ…ブスが…」
と吐き捨てる声が聞こえた。
「あぁ⁉︎」
 ケルホイといいコイツといい、背が高いだけの男にビビるようなヤワな奴が遥をコケにして気分が悪い。そうか遥は男運が悪いんだったな、長岡はくくとわらってリビングの男へぬるりと近寄る。
 先日のケルホイに詰め寄った時は駐車場で暗かったから不審な恐さを醸していたが、蛍光灯の下では長岡はひょろひょろのもやしっ子…しかしくりくりの前髪から覗いた鋭い眼差しに男はひるみ固まっていた。
「お前、誰の女に手ぇ出してんだよ、ハルカは俺んだ。あとな、ブスじゃねぇ。ハルカは中の上だ」
「ちょっと、前より下がってる‼︎」
「ん、帰ろーぜ…ハルカ、帰ったらいっぱい抱いてやるからな」
「きゃ♡」
方便と分かっていても、遥は長岡の土壇場のおすみにキュンとときめく。
 そしてぽかんとしている男や「なんだなんだ」と部屋から出てきた住人の視線を感じつつ長岡は靴を履き、
「お前らはぁ!せいぜいここでぇ!いかがわしいパーティーでもぉ!してろよ!みなさーん、ここのシェアハウスはぁ!乱交が日常化してるそうでーす‼︎ヤりたい放題ですってよー‼︎」
とほとんど寝静まった住宅街へ向けて大声を放った。
「AVみたいなこと!してるんですってよぉー‼︎もう建物名は『パコパコハウス』とかにしたらどうですかねぇー‼︎……ふー…ハルカ…なに、泣いてんの?」
「恥ずかしい、早く帰ろ‼︎」
「ん、じゃあなぁ‼︎パコパコハウスのみなさーん‼︎」
「直樹ぃ‼︎」

 二人はそれぞれの車に乗り込んで、長岡はまた必要以上にエンジンをふかして悠々と、遥は逃げるようにして車道へと出る。
 その後レンタル倉庫にて落ち合ったら長岡は遥からめちゃくちゃに怒られ、しかし泣いて「ありがとう」と言われいい気分になった。


 この日から二人は同居を開始、とりあえず期間は3ヶ月…めぼしい物件が見つからない遥は引っ越しシーズンが落ち着いてから改めて部屋を探すことにする。
 家賃は折半で料理は遥が、その他の家事…主に掃除は長岡が取り仕切って上手くやっていた。
 遥はこうなっても手を出されないので女性としての魅力を疑ってしまうも、美味しそうにご飯を食べて感想を伝えてくれて、まるで何年もこうしていたかの様な居心地の良さにどっぷりハマってしまっている。
 キス、ハグ、長岡から許可が貰えればたまに飲酒してフェラチオなどして、もはや「ときめき」など思考の彼方へ追いやること2ヶ月…二人の生活は堂に入り、彼は遥の保護者の心持ちで過ごすことが増えた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜

来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。 望んでいたわけじゃない。 けれど、逃げられなかった。 生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。 親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。 無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。 それでも――彼だけは違った。 優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。 形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。 これは束縛? それとも、本当の愛? 穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

黒瀬部長は部下を溺愛したい

桐生桜
恋愛
イケメン上司の黒瀬部長は営業部のエース。 人にも自分にも厳しくちょっぴり怖い……けど! 好きな人にはとことん尽くして甘やかしたい、愛でたい……の溺愛体質。 部下である白石莉央はその溺愛を一心に受け、とことん愛される。 スパダリ鬼上司×新人OLのイチャラブストーリーを一話ショートに。

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

【完結済】25億で極道に売られた女。姐になります!

satomi
恋愛
昼夜問わずに働く18才の主人公南ユキ。 働けども働けどもその収入は両親に搾取されるだけ…。睡眠時間だって2時間程度しかないのに、それでもまだ働き口を増やせと言う両親。 早朝のバイトで頭は朦朧としていたけれど、そんな時にうちにやってきたのは白虎商事CEOの白川大雄さん。ポーンっと25億で私を買っていった。 そんな大雄さん、白虎商事のCEOとは別に白虎組組長の顔を持っていて、私に『姐』になれとのこと。 大丈夫なのかなぁ?

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

クラスのマドンナがなぜか俺のメイドになっていた件について

沢田美
恋愛
名家の御曹司として何不自由ない生活を送りながらも、内気で陰気な性格のせいで孤独に生きてきた裕貴真一郎(ゆうき しんいちろう)。 かつてのいじめが原因で、彼は1年間も学校から遠ざかっていた。 しかし、久しぶりに登校したその日――彼は運命の出会いを果たす。 現れたのは、まるで絵から飛び出してきたかのような美少女。 その瞳にはどこかミステリアスな輝きが宿り、真一郎の心をかき乱していく。 「今日から私、あなたのメイドになります!」 なんと彼女は、突然メイドとして彼の家で働くことに!? 謎めいた美少女と陰キャ御曹司の、予測不能な主従ラブコメが幕を開ける! カクヨム、小説家になろうの方でも連載しています!

会社のイケメン先輩がなぜか夜な夜な私のアパートにやって来る件について(※付き合っていません)

久留茶
恋愛
地味で陰キャでぽっちゃり体型の小森菜乃(24)は、会社の飲み会で女子一番人気のイケメン社員・五十嵐大和(26)を、ひょんなことから自分のアパートに泊めることに。 しかし五十嵐は表の顔とは別に、腹黒でひと癖もふた癖もある男だった。 「お前は俺の恋愛対象外。ヤル気も全く起きない安全地帯」 ――酷い言葉に、菜乃は呆然。二度と関わるまいと決める。 なのに、それを境に彼は夜な夜な菜乃のもとへ現れるようになり……? 溺愛×性格に難ありの執着男子 × 冴えない自分から変身する健気ヒロイン。 王道と刺激が詰まったオフィスラブコメディ! *全28話完結 *辛口で過激な発言あり。苦手な方はご注意ください。 *他誌にも掲載中です。

巨乳すぎる新入社員が社内で〇〇されちゃった件

ナッツアーモンド
恋愛
中高生の時から巨乳すぎることがコンプレックスで悩んでいる、相模S子。新入社員として入った会社でS子を待ち受ける運命とは....。

処理中です...