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しおりを挟む「直樹ってあれだね、ツンデレ」
「ツン………そう?」
人目を避けようと敢えて遠くのドラッグストアまで走る愛車の中で、ほわんとアニメチックなキャラクターが浮かんで長岡は口を歪ませる。
「うん、懐いちゃったらもうデレデレ♡でも気を抜かないでね、私をちゃんと引き付けておいて」
「釣った魚に餌をやらない的なやつか…難しいな。そもそも、俺はハルカに好かれることしてねぇんだもん」
好意を持たれようと励ましたわけでもないし助けたわけでもない。長岡はいつだって自分の目的と気の赴くままに行動していたに過ぎないのだ。
結果的にそれが遥に合っていたのは双方にラッキーなことで、長岡に至っては交際経験が無いのだから女性の喜ばせ方など知る由も無かった。
「それを言っちゃうと、私だって直樹に好かれることしてないよ。ねぇ、私のどこが好き?」
「んー…んー……んー…」
「ちょっとぉ!」
「…気心知れてて…ってのが一番の要因だろうなぁ…俺、人見知りだし…決定的な理由は…悪い、よく分かんねぇわ」
恋の始まりを厳しく定義付けて取り締まっていた長岡において好きなポイントが不明瞭なのにあぁまで愛し合えたのは言ってみれば大きな革新、遥は今回の「分かんねぇ」を良い方向に捉えてすんなり腹へ落とす。
大抵のカップルが「なんとなく」とかフィーリングで繋がっているのだろうし『痘痕も靨』と言うし。好意を持ってしまえばまるっとその人が好きになる、それで充分だと思うのだった。
「……まぁ…いいけどぉー…浮気せず私だけ見てくれるなら…」
「浮気はまずしねぇ。相手がいねぇ」
「いたらするの?」
「いや、しねぇ」
「うん……それでまとまったのが凄いよねぇ、相性かな。変に意識したら…空回っちゃいそう」
「かもな、キザなことも言えねぇし、洒落たプレゼントも望めねぇぞ。レストランディナーは…まぁ記念日くらいなら連れてってやってもいい」
ほらその言葉選びと言い方がやっぱりツンデレじゃない、遥は長岡の横顔をニマニマ見つめて
「わぁい」
と控えめに喜んでおく。
「…カップルらしいことは…教えてくれよ、あれが欲しいとかこれして欲しいとか…言われなきゃ気付けねぇからよ」
「うん…直樹も言ってね、カップルとか関係無く…気持ち良く暮らしたいから」
「んー……とりあえず…」
「うん?」
「毎日ハルカの料理が食いてぇな」
「いいよ、任せて」
「裸エプロンで頼むわ」
「えー……いいけど」
「断れよ、馬鹿」
あはは、と続けて笑う無邪気な目の上でくりくりの前髪が揺れる。
彼が試し行為をしなくて済むくらいの信頼関係を築いていけたらいいな、遥はそんな想いで
「私、直樹のこと好きだからやっちゃうよ」
と返した。
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