馬鹿でミーハーな女の添い寝フレンドになってしまった俺の話。

茜琉ぴーたん

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「んなこと…できるわけねぇだろ…」
「……直樹、割り切ったら……できる?」
「は…いや、だからお前は同僚で」
「お金、払ったら…割り切れるんじゃないの?」
お前を買えということか…長岡は軽蔑の目で遥を見遣った。
 そんな契約はできないしなによりそうまで欲求不満でもない。
 知った人間と深く交わる気まずさに比べればプロにお金を落とした方が幾分も気が楽である。店で練習することだってできるのだし、遥に金を積んで抱くメリットが感じられない。
「………………馬鹿なの?なんで…そうまでしてお前を抱かなきゃいけねぇんだよ」
「私はエッチしたい、直樹もシたい、目的は一致してるじゃん」
「してねぇよ、馬鹿!」
「ディナー代、」
「あ?」
「ディナー用にしてた2万円、私に使ってよ、私を買って」
「…馬鹿、そこまで馬鹿だとは……んあ!」
ならば返金しよう、長岡がテレビ台へ置いた財布を取ろうと腰を上げるも、スウェットの裾を引っ張られて四つん這いになる。
 そして遥はそこに馬乗りに…お馬さんごっこのように跨って
「直樹がお世話になってる女の人だってそうでしょ、お金を払ってるから責任とか考えずにエッチしてるんでしょ」
と羽交締めにした。
「そうだよ、でもお前は同僚だから…降りろ、」
「ねぇ、もうフェラもしてるんだよ。テレHもしちゃった、おっぱい舐めたでしょ、ストッキングも破ったでしょ、あれは私が頼んだことじゃないよ、直樹主体でいろいろしてるんだよ…直樹が望んでしたんだよ」
「……」
それを言われればもうぐうの音も出ない。
 最初から傍観だけしていれば良かったのに慰めてしまい軽々しく手をつけ下心が出てしまったのだ。
 彼女の言う通り情は湧いているし、ひとつ間違えばセックスに持ち込めるほどに彼女は魅力的である。今も背中にぐにぐにと押し付けられている乳房にだって本当は興奮する、フェラチオの流れがなければギンギンにたぎっていたことだろう。
「………いや、だって……に、妊娠とか…」
「大丈夫な日だよ、不安ならもっと安全な日にしてもいい、ねぇ、シよ、」
「………馬鹿、」
「直樹、シよ」
 耳元でそっと囁かれる名前、駄目押しの吐息は長岡の背筋から足先までを電流のように走って震わせ…
「……降りてくれ…」
男は静かにうずくまった。
「超えられねぇラインってのがあんだよ…」
「んー…デートもしたしフェラもしたよ?」
「だから…俺は一般人となら恋愛がしてぇんだ…」
「きゃ♡」
 久方ぶりの甘い言葉に遥は喜ぶも、
「勘違いすんな、エッチするなら躊躇ためらいなく風俗に行けるんだ俺は、でもその代用にお前を使うような…ケチな男になりたくねぇんだよ。当然金も要らねぇ、返す」
と冷静に言われ大人しく長岡の背中から降りて風呂場の方へ体を向ける。
「ん、分かった…でも直樹、私のこと…嫌いじゃないよね?」
「嫌いなら…とっくに追い出してるし…そもそも家に入れねぇわ…」
「うん……ソフレ続行かな…ふふ、エッチな関係♡独りぼっちじゃなければいいや、どこかに属してたいの」
 とりあえず遥は安心して、
「…お風呂済ましてくるね。お金は、居候の光熱費だと思って納めてよ、お願い」
と両手を合わせた。
「分かった」
二人は背を向けたまま話をつけ、長岡はすぐさま財布から2万円を抜いて貯金箱代わりのクリアファイルへと挿して収める。


 この後、風呂から上がった遥を長岡はベッドへ迎え入れ、柔らかく温かい体をふにふにと揉み回しながらなんちゃってピロートークを始めた。
「…実際な、恋する気持ち…みたいのがどんなのか分かんねぇ」
「んー…ドキドキしたりしない?」
「するけど、それが性欲のドキドキと違うのかどうかが分かんねぇ」
「えぇ…」
こんなに情熱的に触ってくれるのに?と遥は若干引き気味に、しかし体は逃げずに大人しく長岡の玩具になる。
「ドラマとか嘘くせぇし身内はろくな目に遭ってねぇし…なんだろうな、人として何かが欠落してんのかもな」
「…そんな卑屈になんないでよ…」
「お前とカップルになったところでよ、その気持ちが継続していくかどうか…怖ぇんだ…うん…」
「大切にしたいとか、独占したいとか思ったりしない?」
「分かんね」
長岡はここ最近の異性との触れ合い…ほぼ遥とのことを思い浮かべては「恋には該当せず」と却下印をポンポンと押していった。
「…可愛いなぁとかは?」
「それはある。セックス中の女は可愛い」
「んー…」
彼の「セックス」相手はプロの女性のみ、そりゃあ可愛いだろうと遥はいよいよ呆れかえる。
「お前も、照れたり感じたりしてる時は可愛いよ」
「あ、そう…?」
「今日のデート中も…化粧も違ったからか?可愛かった……昔の人もさ、なんとなく見合いしたり親の決めた相手と結婚したりしてたんだろ?俺みたいにドキドキはしない人も多かったと思うんだよな…でもな…時代が違うわな、俺ひとりじゃ養えねぇし共働きで協力していかねぇとだから…どうでもいい相手とは暮らせねぇな」
 詰まるところ女性への誠意、どちらも或いはどちらかだけでも相手を慕っていないと不平が生まれて立ち行かなくなるだろう。「辛くても貧しくても耐えられる」なんてのは愛があればこその話、ただのルームシェアとは訳が違うのだ。
「うん…直樹、私はいつでもウェルカムだからね♡」
「ん…」
 長岡は手を柔らかな胸に当てたまま低いいびきをかき始め、遥はその手をそっと剥がして体勢を整えてまぶたを閉じた。

 そしてぽつりと
「…ふとした時に抱き締めたくなったりさ、悲しい顔してると自分も辛かったりさ、他の人と仲良くしてたらムカムカしたりさ、そういう感覚…本当に分かんないのかなぁ…?」
隣の寝息に紛れて溢し、ため息をつく。
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