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 年が明けて少しして、長岡ながおかは自宅のポストに不審な郵便物が投函されていることに気がつく。

「……?これ…ん?」

 入っていたのは化粧品メーカーからの新年セールと割引のお知らせ。

 当然覚えのない長岡は封書をひっくり返すと宛名は『清洲きよすはるか様』となっていた。

 しかもその上に貼られているのはここの住所と期限が印字されたシール、これは旧住所宛の郵便物を新住所へと転送するサービス用のもの…どうやら家主が知らぬ間にここは宿り木にされているようだ。

 長岡が呆然ぼうぜんとしていると玄関のドアノブが回り、しかし施錠していたのでガチャガチャと扉と枠が打ち合って物々しい音が部屋の内外に響く。

「……おい、ハルカか」

「あ、直樹なおき、開けて…寒い…」

 ドアスコープのレンズの向こうには知った顔…長岡は扉から離れて外の遥へと質問した。

「おい、なんでうちにお前宛の郵便が来るんだよ」

「…バレたかぁ…入れてよ」

「お前、ここに住むつもりかよ」

「違う違う、聞いてよ。シェアハウスは出る予定なんだけど、とりあえずの居住地と郵便の転送先をここにさせてもらったの…あ、お疲れ様」

 扉を開ければ寒さで頬を真っ赤にした遥が立っていて、

「入れよ」

と言うより先に中へとずかずか上がって行く。

「…シェアハウス、やっぱ何かあったの?」

「うん…どうも男性陣が馴れ馴れしいというか変な感じでね、私も恋愛はしたいけど好みってものがあるからさぁ……家に帰るのが苦痛になっててね」

「だからうちに頻繁に来てたのか」

「うん…極力滞在時間を減らしたり…住みづらいから引っ越しは考えてたんだけどね、それで準備してたんだけど…ひとりの人にすごい粘着されちゃって…さっき、部屋にまで押し入られて………叫んだら他の人も来てくれたんだけどかばってくれなくてね…なんか、他の人たち…なんて言うの、こう…」

「…ハルカ以外はカップルだったの?」

「それよりもっと…んー…みんなで、みたいなことしてたらしいの」

 彼女は上着を脱いで、冷えた手でごちゃごちゃとした何かをジェスチャーで伝えようとした。

「…スワッピング、乱交…みたいなこと?」

「うん…私は外泊が多かったからたまたま目にする機会が無かったみたい…『お前が入れば偶数なんだぞ』って…気持ち悪い」

「あー、ひとりあぶれてた訳か。いや、AVじゃねぇんだから…」


 またまた不幸を提供してくれるなと長岡はニヤついて遥の隣へ腰を下ろすも、がくがくと震える彼女を見れば打ち抜かれたように掴まれたように心が痛み出す。

 気がつけば長岡は遥を横から抱き締めていて、大きな手で乱れた頭をわしわしと撫でていた。

「……直樹?」

「ん…怖かったな…なんか胸が痛んだわ…兄弟が虐められて帰ってきたみたいな気分だな」

「ふふっ……ありがと…ねぇ、キスして」

「ん、」

 震える唇はいつものようにベタつくリップグロスも付いていなくて、カサカサと長岡のそれを掠っては恥ずかしそうに離れていく。

「お前…冷え過ぎじゃねぇ?車だろ?」

「…急いで飛び出したらお財布を部屋に置いてて…免許証もその中だから…車も置いて来ちゃった」

「は…あ、歩いたのか⁉︎」

「でも3キロ無いくらいだよ、学生の頃はこれくらい歩いてたし…余裕だよ」

 小学生だってこんな寒空をヒールの靴で歩くなんてしないだろう。

 長岡は再度ぎうと抱き締めて

「……馬鹿だな…」

と呟いた。

「うん…でも直樹見たら安心しちゃった…今日はデリちゃんとか来ない?」

「来ねぇよ…とりあえず風呂、あったまってこいよ」

「ん…珍しいね、直樹が優しい♡」

「……落ち着いたら今後の対策立てようぜ」

「うん」

 自ら同意の上で抱かれて捨てられたケルホイの時とは訳が違う。

 無理やり犯されるとかただれた集会に参加させられるなんて気色の悪いこと…長岡はニヤついた自分を恥ずかしく思いため息をつく。

 遥は添い寝フレンドとはいえ一番身近で親しい女性、こうしたトラブルでまず心配してやらねばならなかったのにできなかった。

 彼は今一度自分の欠陥具合を自覚した。

「(…乗り込んで…ハルカの荷物を取って……向こうも変なパーティーは表沙汰にしたくねぇだろうし…ふん…)」

最悪の場合は警察の介入もありか、長岡はカップ麺用の湯を沸かしながら考える。

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