52 / 86
8
52
しおりを挟む年が明けて少しして、長岡は自宅のポストに不審な郵便物が投函されていることに気がつく。
「……?これ…ん?」
入っていたのは化粧品メーカーからの新年セールと割引のお知らせ。
当然覚えのない長岡は封書をひっくり返すと宛名は『清洲遥様』となっていた。
しかもその上に貼られているのはここの住所と期限が印字されたシール、これは旧住所宛の郵便物を新住所へと転送するサービス用のもの…どうやら家主が知らぬ間にここは宿り木にされているようだ。
長岡が呆然としていると玄関のドアノブが回り、しかし施錠していたのでガチャガチャと扉と枠が打ち合って物々しい音が部屋の内外に響く。
「……おい、ハルカか」
「あ、直樹、開けて…寒い…」
ドアスコープのレンズの向こうには知った顔…長岡は扉から離れて外の遥へと質問した。
「おい、なんでうちにお前宛の郵便が来るんだよ」
「…バレたかぁ…入れてよ」
「お前、ここに住むつもりかよ」
「違う違う、聞いてよ。シェアハウスは出る予定なんだけど、とりあえずの居住地と郵便の転送先をここにさせてもらったの…あ、お疲れ様」
扉を開ければ寒さで頬を真っ赤にした遥が立っていて、
「入れよ」
と言うより先に中へとずかずか上がって行く。
「…シェアハウス、やっぱ何かあったの?」
「うん…どうも男性陣が馴れ馴れしいというか変な感じでね、私も恋愛はしたいけど好みってものがあるからさぁ……家に帰るのが苦痛になっててね」
「だからうちに頻繁に来てたのか」
「うん…極力滞在時間を減らしたり…住みづらいから引っ越しは考えてたんだけどね、それで準備してたんだけど…ひとりの人にすごい粘着されちゃって…さっき、部屋にまで押し入られて………叫んだら他の人も来てくれたんだけど庇ってくれなくてね…なんか、他の人たち…なんて言うの、こう…」
「…ハルカ以外はカップルだったの?」
「それよりもっと…んー…みんなで、みたいなことしてたらしいの」
彼女は上着を脱いで、冷えた手でごちゃごちゃとした何かをジェスチャーで伝えようとした。
「…スワッピング、乱交…みたいなこと?」
「うん…私は外泊が多かったからたまたま目にする機会が無かったみたい…『お前が入れば偶数なんだぞ』って…気持ち悪い」
「あー、ひとりあぶれてた訳か。いや、AVじゃねぇんだから…」
またまた不幸を提供してくれるなと長岡はニヤついて遥の隣へ腰を下ろすも、がくがくと震える彼女を見れば打ち抜かれたように掴まれたように心が痛み出す。
気がつけば長岡は遥を横から抱き締めていて、大きな手で乱れた頭をわしわしと撫でていた。
「……直樹?」
「ん…怖かったな…なんか胸が痛んだわ…兄弟が虐められて帰ってきたみたいな気分だな」
「ふふっ……ありがと…ねぇ、キスして」
「ん、」
震える唇はいつものようにベタつくリップグロスも付いていなくて、カサカサと長岡のそれを掠っては恥ずかしそうに離れていく。
「お前…冷え過ぎじゃねぇ?車だろ?」
「…急いで飛び出したらお財布を部屋に置いてて…免許証もその中だから…車も置いて来ちゃった」
「は…あ、歩いたのか⁉︎」
「でも3キロ無いくらいだよ、学生の頃はこれくらい歩いてたし…余裕だよ」
小学生だってこんな寒空をヒールの靴で歩くなんてしないだろう。
長岡は再度ぎうと抱き締めて
「……馬鹿だな…」
と呟いた。
「うん…でも直樹見たら安心しちゃった…今日はデリちゃんとか来ない?」
「来ねぇよ…とりあえず風呂、あったまってこいよ」
「ん…珍しいね、直樹が優しい♡」
「……落ち着いたら今後の対策立てようぜ」
「うん」
自ら同意の上で抱かれて捨てられたケルホイの時とは訳が違う。
無理やり犯されるとか爛れた集会に参加させられるなんて気色の悪いこと…長岡はニヤついた自分を恥ずかしく思いため息をつく。
遥は添い寝フレンドとはいえ一番身近で親しい女性、こうしたトラブルでまず心配してやらねばならなかったのにできなかった。
彼は今一度自分の欠陥具合を自覚した。
「(…乗り込んで…ハルカの荷物を取って……向こうも変なパーティーは表沙汰にしたくねぇだろうし…ふん…)」
最悪の場合は警察の介入もありか、長岡はカップ麺用の湯を沸かしながら考える。
0
お気に入りに追加
12
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ほつれた心も縫い留めて ~三十路の女王は紳士な針子にぬいぐるみごと愛でられる~
穂祥 舞
恋愛
亜希(あき)はチェーンスーパーの店舗事務でチーフを務める。その威圧感から職場では「女王」と呼ばれ、30歳に手が届いた現在、彼氏なし。そんな彼女の趣味は、うさぎのぬいぐるみを撮影し、SNSにアップすることだ。
ある日の朝、公園で撮影をしていた亜希は、自分と年齢の近い男性にその現場を目撃され、逃げ帰る。その日の夕刻、店長の代わりに弁当をぬいぐるみ病院に配達した亜希は、公園で出会った男性・千種(ちぐさ)がその病院の「医師」であることを知る。
ぬいぐるみを大切にする人を馬鹿にしない千種に、亜希は好印象を抱く。ぬいぐるみの修理を千種に依頼しようとする亜希だが、その1ヶ月の間、預けた子の代わりに自分がなろうと、千種が奇妙な提案をしてきて……。
☆この物語はフィクションです。実在する人物・団体とは、何の関係もありません。★エブリスタにも掲載しています。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
僕が美少女になったせいで幼馴染が百合に目覚めた
楠富 つかさ
恋愛
ある朝、目覚めたら女の子になっていた主人公と主人公に恋をしていたが、女の子になって主人公を見て百合に目覚めたヒロインのドタバタした日常。
この作品はハーメルン様でも掲載しています。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
二人の恋愛ストラテジー
香夜みなと
恋愛
ライバルで仲間で戦友――。
IT企業アルカトラズに同日入社した今野亜美と宮川滉。
二人は仕事で言い合いをしながらも同期として良い関係を築いていた。
30歳を目前にして周りは結婚ラッシュになり、亜美も焦り始める。
それを聞いた滉から「それなら試してみる?」と誘われて……。
*イベントで発行した本の再録となります
*全9話になります(*がついてる話数は性描写含みます)
*毎日18時更新となります
*ムーンライトノベルズにも投稿しております
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる