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信頼を吹っ飛ばしたのはキミ

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「(…つかれた)」

 二人で来た道を、独りで帰る。

 頬は痛くないけど熱が残っている感じ、診断書を取るべきかなと思ったり。

 駅の電灯の下で写真だけ撮ってはみたものの、明るさが足りずいまいち本来の状態が写り込まない。

 もう忘れてしまえということかしら、自撮りを繰り返すのも変なので諦めることにした。


 どうせサークルでしか会わないのだし、もう向こうも話し掛けては来ないだろう。

 交際期間が短くて助かったな、しかしサークル仲間に別れた報告をしたら周りに気を遣わせてしまうだろうか。

 まったく浮かれて吹聴した自分が愚かしい。

 過去に戻れるものなら告白する前まで戻って説得を試みる。

 まぁ恋する自分は「そいつ、DV男だよ」なんて進言されても信じはしないだろうから同じことか。

 ふわふわイケメンはマッチョな危険思想家だなんて、予想できないし想像できないし。


「(あーあ……むなしー…)」

 『イケメン彼氏にホテルでビンタされた』なんて引きのあるエピソード、これを笑いながら話せるのは何年後のことだろうか。

 叩かれたのは頬だけど、彼から受けた人格攻撃がじわじわ効いていて胸が痛い。

 ミーハーとか自我の無い量産型とか言われた気がする。

 そう見せていたし作っていたのだから言い得てはいるけども…「空っぽだからどう扱っても良い」と軽んじられたのが地味に苦しい。

 せっかくできた彼氏だから離さないように可愛く振る舞っただけなのに、誰でも良いどころか踏み台にされかけて。

 これからは素の自分を異性にも見せていこうかな、そしてありのままを受け入れてくれる感性の似たパートナーを探そう。


「(これでよし、)」

メッセージアプリで彼をブロックして、今朝までほのぼのしていたトークルームを削除した。

 もしも私が大人しそうな見た目で実際大人しかったら本命にしてくれたのだろうか。

 あのビンタで床に倒れてしくしく泣いて、そのまま抱かれて彼の男らしさにキュンとしたのだろうか。

「(いや、ないない。叩かれてキュンとはなんないって。計画が杜撰ずさん過ぎるのよ…未熟、お粗末、童貞ドリーム)」

 僅かに残る未練を打ち消すのはやはり頬の熱、自分の判断は間違ってないのだと胸を張る。



 この日は少し気分が落ちてしまったけれど、お風呂に入って家族とご飯を食べれば回復した。

 力任せのビンタは肌の奥までは届いていなかったようで、夜には腫れもすっかり消えていたし家族にも怪しまれなかった。

 対して私の腰を入れた正拳突きは彼の臓まで揺さぶったろうから、アザになっているかもしれない。

「(正当防衛、だもん)」

 
 もう要らないことを考えないよう、いつもよりも早めに就寝した。
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