わかりあえない、わかれたい・4

茜琉ぴーたん

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信頼を吹っ飛ばしたのはキミ

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 翌日、放課後。

 3コマ目の授業を終えた私がサークルの拠点であるクラブハウスへ向かうと、あっさりばったり彼と出会でくわしてしまった。


「あ」

「…こんにちはぁ」

「こ、んにちは…あ、あの、先輩、」

 彼は昨日までの威勢が嘘のように挙動不審で、明らかに怯えている。

 無抵抗の相手を殴ったりしないよ、あんたみたいに…なんて思いつつよそよそしく澄まして「うん?」と応えた。


「…昨日は、すみませんでした」

「忘れよ、もう考えたくないの」

「……僕、あの後いろいろ考えて…もっと先輩のこと好きになっちゃって」

「ハァ?」

 もう包み隠す必要が無いから素のリアクションを取れば、彼は唇を震わせて目を輝かせる。

 何か目覚めさせちゃったの?マゾヒストに鞍替えしたってこと?解説を聞くのが怖くて私も唇が震えてしまう。


「あんな風に…腹を割って話せる女の人、初めてだったので…僕、先輩のこと本気になっちゃいました」

「それきっとショックでおかしくなっちゃったんだよ。吊り橋的なやつ、痛みで改心するとか良くないよ!」


 体罰を伴ったしつけじゃあるまいし。

 私は彼の性根を正したくて突いた訳ではない。

 あくまで身を守っただけ、あの拳に悪を浄化するような念も込めてはいない。


「何だって良いですよ、大学デビュー失敗でも良い、偽証モテ男は返上します。僕のこと殴っても良いですから…先輩、」

「キモいキモいキモい、近寄んな」

 さすがに明るいうちから暴行はされないと思ったけれど、しつこく手を掴まれたためにかいなを返してぶんと横へ振る。

「わぁっ」

「離してっ……っと、」

 このまま走って逃げるべやと廊下に顔を向ければ、他のサークルメンバーたちがぽつぽつと集まり始めていた。

 これ私が悪くなるパターンのやつ?まずいと動きを止めたら彼はすかさず

「お気になさらず!ちょっとした痴話喧嘩ですから!」

と高らかに宣言しやがった。

 特別親しい友人には既に「別れたけど気を遣わないで」と伝えてあったのに。

 この様子では「なーんだ、大げさに騒いで元サヤかぁ」と丸ごと惚気のろけにされてしまう。
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