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最終話 全ての終わりに【処刑描写あり】

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 エルメリーズ侯爵夫妻とローズの処刑の日。
 曇り空で、今にも雨が降りだしそうな天気だった。

 広場には特別ステージのような舞台が設置され、大きなギロチンが一つと、火炙り用の丸太が一本立っていた。

 見物人達は、目をギラつかせ、今にも暴動が起きそうな雰囲気だ。

 兵士に連行されて、ローズやエルメリーズ侯爵夫妻が登場すると、人々は石を投げつけだした。

「希代の魔女め!」
「お前達のせいで村が失くなったんだ!」
「このクソ野郎ども!」
「母ちゃんを返せ!この魔女!」

 ローズは何発か体に受けるが、手を拘束されているので、顔を歪めるしかなかった。

「静粛に!」

 大きな声で宰相が告げる。

「これより、真の精霊姫アンリーナ様を虐待していたエルメリーズ侯爵夫妻と、自らが精霊姫だと嘘をつき、アンリーナ様を追い出した魔女ローズの処刑を執り行う。異議有る者は名乗りでよ!」

 静まり返る広場。

「アンリーナ、居るなら出てこい!出てきて家族の命乞いをすれば、処刑は止めてやる。お前は血の繋がった親と妹を見捨てるのか!」

 フレデリックが群衆に語りかけるが、誰も声を発しず、辺りを見回す。

「エルメリーズ侯爵夫人、娘に言うことが有るだろう」

 兵士は夫人を前に出し、跪かせた。

「アンリーナ、今さら謝っても意味がないのはわかっています。この声も、聞いているのかもわからない。でも、言わせてほしい。本当にごめんなさい」

 夫人は床に頭をこすりつけた。

「あの時の私たちはどうかしていたわ。『精霊姫』である貴女を特別扱いし、全てに完璧を求めてしまった。そして、貴女は期待に添って『完璧』を示しているのに。偉大すぎる貴女の影で、ローズは比べられてばかりいて可哀想だと、ローズばかり目が入ってしまった。蔑ろにするつもりはなくても、結果的に貴女を一人にしてしまった。ごめんなさい」

 涙を流す夫人。

「アンリーナ、こんなことを言う資格は私に無いのはわかります。でも、貴女の母として伝えておきたい。…愛しているわ。どうか幸せになって下さい」

 フレデリックは周りを見回すが、アンリーナらしき人物は発見出来ずにいた。

「アンリーナ、いい加減に出てきたらどうだ!お前を心から愛する母親の声がわからないのか。お前は母親を見捨てるのか!」

 群衆にそれらしい反応はない。
 フレデリックは侯爵を抑える兵士に目配せをし、侯爵を夫人の隣に跪かせた。

「侯爵、娘に言うことは」

 侯爵は背筋を伸ばし、群衆を見据えた。

「アンリーナ、不甲斐ない父ですまなかった!そして、父として言わせてもらう。お前を愛している!必ず幸せになってくれ!」

 短いが力強い言葉だ。

「3分待ってやる。その間に名乗り出ろ!名乗りでなければ、侯爵から刑を執行する!」


×××


 侯爵はギロチンの前に跪かされ、首を台に乗せられた。

 人々は、アンリーナが出てくるのを今か今かと待っているが、3分経っても彼女は名乗りでなかった。

「これがお前の答か!お前が素直に出てくれば救えた命だ。お前が父親を殺したんだ!やれ!」

 フレデリックが合図を出した。
 処刑人がギロチンについた紐を斧で切ると、ギロチンはそのまま侯爵を襲った。

「次!」

 侯爵の体は乱暴に舞台から転がり落とされ、火炙りの装置の近くに捨て置かれた。

 侯爵夫人もギロチンの台に首を乗せられた。唇を噛み、悲鳴を出さないように必死の様子だ。

「さぁ、次は母親だ!また3分待ってやる。今度こそ素直に出てこい!父親を殺して、母親も殺すのか?!アンリーナ、お前の選択だ!」


×××

 今度こそ出てくるだろうと、人々は周りを見回したが、3分経ってもアンリーナは出てこなかった。

「なんと薄情な女なんだ!それでも精霊姫なのか?!お前を愛する母親さえも見捨てるのだな!素直に出てこなかった自分を悔い改めろ!やれ!!」

 フレデリックが合図を出す。
 処刑人は先程と同じように紐を斧で切り、ギロチンの歯で夫人を襲った。

 体は侯爵の隣に並べられた。

 最後はローズだ。

 侯爵夫妻のように、一瞬で死を賜るなど生ぬるい。

 人々の前に張り付けにし、その身に人々の怒りを受けてもらう。
 そう、30分間人々から石を投げつけられるのだ。
 気絶しようものなら、水をかけて意識を戻らせ、地獄を味わうのだ。 

 ローズはおとなしく従い、丸太に貼り付けにされた。

 人々は
「魔女め!」
「ぺてん師!」
「お前のせいだ!」

 石と共に罵詈雑言をぶつけた。

 30分が過ぎた頃には、顔の原型は留めておらず、片目は潰れていた。

「火を放て!」

 フレデリックの号令のもと、数人がローズの足元に火をつけた。

 火がローズに迫り来るとき、ローズは声を出して笑いだした。

「フレデリック、次は貴方の番よ」

 炎が燃え盛る音の中で、ローズの声はなぜか響き渡った。

「アンリーナに婚約破棄を突き付け、貴族位を剥奪し、国外追放を言い渡したのはフレデリック、貴方でしょ」

 不気味にハッキリと聞こえる。

「断罪の書類を作るのにフレデリック、宰相の息子アレックス、騎士団長の息子ローランド、宮廷魔導師の息子レイが手伝ってくれたのよ。みんなで捏造したじゃない」

 壇上にいた宰相や騎士団長は息を飲んだ。
 群衆の視線を感じたからだ。

「貴族学園に通っていた子息子女は、みんなこぞってアンリーナを虐めていたわね。教師だって、同じだった」

 群衆の雰囲気が変わっていく。

「アンリーナが断罪されたとき、少しも反論や抵抗をしなかったのは、この国に、王侯貴族に愛想つかしていたからだわ!」

「もっ、もっと火をくべろ!いや、槍を持ってこい!戯れ事を言う口を貫いてやる!」
 フレデリックは大声を上げた。
 しかし、それは悪手だった。
 群衆の視線を集めてしまった。

「フレデリック、次は貴方の番よ。精霊姫をその手で追い出した愚かな王子様」

「やっ、やめろ!寄るな、やめろーーー!!!」

 ローズは狂ったように笑いながら、炎に包まれた。
 ローズの魅了魔法は封印されていたが、その魂は群衆を煽り、誘導し、貴族のほとんどを巻き添えにして消えていった。


×××


 エルメリーズ侯爵夫妻とローズの公開処刑の数日後に、プルメリア王国は、その長い歴史に幕を下ろしたのだった。

 転生者ローズが、なぜこの世界に来たのか、なぜ知らぬ間に『魅了』魔法を使い、王国を混乱に巻き込んだのか。

 それは精霊女王サフィーナを最も愛している神様しか知らない。

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