真実は仮面の下に~精霊姫の加護を捨てた愚かな人々~

ともどーも

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11話 愛情の反対は無関心

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 フレデリック、アレックス、ローランド、レイはアンリーナ捜索に乗り出した。

 草の根を分けてでも探し出すと、意気揚々と城から出発したが、手がかりは見つからなかった。

 3ヵ月も聖域は存在していたのだから、アンリーナは王国に隠れ住んでいて、最近王国を出たのではないかと仮説を立てたが、足取りはわからなかった。

 それもそうだろう。
 誰もアンリーナの顔がわからないのだから。

 フレデリック達は『顔に大きなキズがある赤髪の女』を諸外国中探した。
 しかし、赤髪の女は珍しくないし、顔に大きなキズのある女も居なかった。

 アレックスが別方面に視点を変えて探すことを提案した。

 精霊姫なのだから『神聖力』が漏れだしているはず。アンリーナの居る地域は魔物が少なくなるのではないかと。

 しかし、魔物が極端に少なくなった国はなかった。
 
 次にローランドは冒険者ギルドに注目した。女の一人旅は危険なはず、移動するのに護衛を雇うはずだ。
 もしくは、最近冒険者登録して、商団の護衛をしながら逃亡しているかもしれないと考えた。

 しかし、『赤髪の顔にキズのある女』は登録されていなかった。

 レイも探知魔法で探そうと試みたが『アンリーナ』を特定するものを何も持っていなかった為、まったく役にたたなかった。

 フレデリックの側近達はこぞって『アンリーナ』から贈られたプレゼントは無いのかと聞かれたが、思い返すと、全て捨てていた事に気が付いた。

 八方塞がりで『アンリーナ捜索』に出て3ヶ月で捜索は断念せざる終えなかった。


×××


 聖域が消えて3ヶ月。
 国民達は口々に噂する。

 『無能な王子フレデリック』
 『精霊姫を貴族達が追い出した』
 『聖域を奪った王侯貴族たち』

 騎士達は昼夜魔物に警戒しているが、限界に来ていた。

 そして、一つの村が魔物に襲われて全滅してしまった。
 それを皮切りに、王都にも度々魔物が出現するようになっていた。

 民の怒りは徐々に膨らんで来てる。

 国王は和平条約のある諸外国に援軍を要請したが、どの国も『準備出来次第送る』と言うだけで、手を貸してくれなかった。
 おそらく、『準備』はどれだけ待っても出来ないのだろうと、内心わかっていた。

 『精霊女王の御使い』様が残していったお守りに毎日祈りを捧げていた者達は、魔物の襲撃に会わず、隣国に逃げ延びる事が出来たようだ。
 だが、祈りを捧げなかった者たちのお守りは黒くくすみ、効力はなくなっていたようだ。


ーーー民の怒りを沈める生け贄がいる。

 フレデリックは一考する。

 生け贄なら、今城で幽閉しているローズやエルメリーズ侯爵夫妻が適任だろう。

 ローズは倒れた後から、うずくまってブツブツ呟き、誰とも話をしなくなった。
 フレデリックも、そんなローズに興味はなく放置している。

 エルメリーズ侯爵夫妻は、朝晩外に向かい祈りを捧げているそうだ。
 
 別の牢にいるローズを気にかけて、何度も話しかけていたが、意志疎通が出来ているようには見られなかった。

ーーーそうだ!アンリーナに向けてメッセージを世界中に出そう。あいつが王国に戻らなければ、自分の家族が処刑されると知れば現れるかもしれない。

 自分の冴えた作戦にほくそ笑む。
 
ーーー王国に現れたら決して逃がさず、どんな手を使っても精霊女王に、新たに聖域を作ってもらえるように懇願させるんだ。そうすれば王国は安泰だ。

 フレデリックはアンリーナを捕まえて、どのように蹂躙しようか思考を巡らせた。

ーーーアンリーナが望むなら『王妃』にしてやってもいい。聖域が再構築されたら、あいつに愛を囁やいてやる事も出来そうだ。

 フレデリックは諸外国に伝達を頼んだ。

 『2ヶ月後の月初めに、本物の精霊姫アンリーナを冷遇したエルメリーズ侯爵夫妻と、精霊姫になりすました妹ローズを王城前の広場で処刑する。精霊姫アンリーナが助命を願い出るなら命は助ける』

ーーーこれでアンリーナが釣れればよし。来なくても、家族を処刑して民の怒りを解消する生け贄にするだけだ。


×××


 一方アンリーナ、もといアスカはラインハルトと一緒に、南の孤島に来ていた。

「うわ~、キレ~イ!」

 海の水は透き通っていて、水面からでも色取り取りの珊瑚がわかる。
 潜ったら、それは幻想的なんだろうと心が弾んでしまう。

 しかし、この世界で女性の水浴びはご法度らしい。
 残念な事に『水着』がないのだ。

 女性冒険者に、水場での仕事の場合どおするのか聞いたら、ズボンを膝丈に切って、膝上のワンピースを着るそうだ。

 極力水に触れないようにするが、最悪その姿で水に入る事もあるらしい。

「アスカ、さすがに海には潜るなよ」

 アスカは女性冒険者に聞いた、水場用のズボンとワンピースを着ている。

 波が足下の砂をさらっていくのか気持ちいい。
 潜れないのが残念だ。

 ラインハルトは精霊の姿ではなく、人間の姿をして、木陰に置いたデッキチェアでくつろいでいる。

 移動は基本的に精霊の姿だが、町を観光したり、ご飯を食べるときは二人で人間の姿になる。
 女の一人旅に見られたら、何かと面倒事に巻き込まれるから、その予防だ。

 旅行と言えば、現地の食べ物を食し、観光名所を回ったりするのが一般的だが、接待してくれる人との交流が醍醐味だとアスカは考えている。

 今いるビーチから少し離れたところに、海の家みたいな宿泊施設があり、宿の亭主は気さくなおじいちゃんだった。

「ライもおいでよ、気持ちいいよ!」
「俺はいい」

 そっぽをむくラインハルト。
 どことなく顔が赤い。

「ちぇ~、つまんないの~」
「そうよね~」
 突然背後から声がした。
「うわ!」

 ビックリして海の中に尻餅をつくアスカ。

「フフフ。ごめんね、驚かせちゃって」
「サフィーナ!」
「楽しそうだったから来ちゃった❤️それとも、お邪魔だったかしらね?」

 横目でラインハルトを見るサフィーナ。
 なんとも意地悪な顔だ。

「わかっているなら来るな」
「だってあなたたち、ちっとも進展しないんだもの。ヤキモキしちゃって」
「なっ、何言ってるのよ!」

 サフィーナの言葉に赤面するアスカ。
 チラッとラインハルトを見た。

 ラインハルトはため息をつきながら、アスカに近づき、海から引き上げた。

「サフィーナ、何しに来た?何か問題か?」
「う~ん…。まぁ~ね…」
「言えよ」

 サフィーナがアスカをじっと見て、話し出した。

「エルメリーズ侯爵夫妻とローズの処刑が決まったの」




 長い沈黙。




「いつだ?」
「2ヶ月後の月初めの日」

 二人はアスカを見つめる。



「いいんじゃない?」
「「え?」」
「あの人達が家族だったのは五歳まで。その後の10年、私の家族はライとサフィーナ、それに精霊の国のみんなだけだった。それはこれからも変わらないわ」

 ラインハルトとサフィーナは顔を見合せ、複雑な表情をした。

「…いいのね?」
「大方、私が助命を願い出たら処刑は中止するとか、そんなところでしょ?」

 サフィーナはうなずいた。

「なら、勝手にやらせておけばいいよ」
「…無理するな」
「…ありがとう。でも、これが私の本心だよ。冷たいって思うかもしれないけど、あの人達が死ぬってわかっても、何も感じなかった」

 アスカは悲しげな笑顔を向けた。

「愛情の反対は憎悪じゃないって本当なんだね。こんなに自分が、何も感じないことが驚きだよ」

 サフィーナの手を掴み、アスカは優しく微笑んだ。

「ありがとう、教えてくれて」
「いいえ、余計なことをしたわ。ごめんなさい」
「そんなことない!一応血の繋がった人達だから、知らぬ間に死んでたら後味が悪かったよ。ちゃんと処刑される日を聞けてよかった。私は、私の意思で、あの人達を切り捨てることが出来るんだから」
「アスカ…」

 サフィーナはゆっくりとアスカを抱きしめた。
 ラインハルトに頭を乱暴に撫でられたが、アスカはしっかりと笑っていた。

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