「俺の子じゃない」と言われました

ともどーも

文字の大きさ
14 / 45

十三話 それぞれの動き6(ソフィア視点)

しおりを挟む
 私は先ほど渡された地図を頼りに、地下道をオーウェンと歩いている。
「ここね。オーウェン」
「わかってる」
 手紙で何度かやり取りをしているから、問題はないと思っているけど、自分の目で見て判断した相手ではないので、やはり警戒心が出てしまう。
 オーウェンもいつでも戦闘できるよう、隙はない。
 指定された場所に『☆』が描かれた扉がある。
 その扉を五回叩き「星の導きに問う」と声をかけた。
 すると中から「ユリの花は美しい」と返ってきた。手紙の通りだ。
 そして扉が開いた。
「ようこそ、ソフィア・フィート様。オーウェン様。中にお入りください」
 細目の男がドアから現れた。
 この男が、チェスター・ハーバインね。
 ハーバイン商会の商会長であり、リリーシアの兄の妻の兄。
 まるで仮面を貼り付けたのような笑顔。
 こちらが警戒するように、あちらも警戒しているのだと分かる。

 部屋のさらに奥の部屋に入ると、二人の男女が座っていた。
 男性は金髪で緑の瞳だ。どことなくリリーシアに似ている。
 隣の女性は茶髪に茶色い瞳。私の髪よりは長い。
「はじめまして。ブライアン・ブロリーンです。こちらは妻のマディヤです」
 女性は軽く頭を下げた。
「ソフィア・フィートです。こちらはオーウェン。リリーシア夫人の護衛をしていた者です」
 オーウェンも軽く頭を下げた。
「自己紹介はその辺にして、まず座って話しましょう。申し遅れました。私はチェスター・ハーバイン。この度は私の呼びかけに集まっていただきありがとうございます。ここでひとつ提案を。初対面の場ではありますが、腹を割って話したいので、敬語はなし、互いの名前はさん付けで、いかがでしょうか?」
「俺たちはかまわない」
 ブロリーン夫妻は小さくうなずいた。
「私たちもかまわないわ。ね、オーウェン」
「あぁ」
「では、全員承諾したということで、話を進めよう。それではお互いの持っているカードを見せ合おう。まず、私から」
 チェスターは、リリーシアが追い出された日のことから話し始めた。ローゼンタール伯爵家から、各商会にリリーシア夫人と護衛騎士オーウェンに商品販売や、サービスの提供を行わないように通達が入ったらしい。その後、王都商会組合からも同じ指示が回ってきて、ハーバイン商会は親戚だから指示を無視する可能性があると、組合から監視がつけられているそうだ。
「まあ、抜け道くらい、いくらでもあるからな。私を監視するのは難しいだろう」
 感情の読めない笑顔だ。
 実に商人らしい人ね。
「だが、ソフィアさんの機転がなければ、我々はこうして会えなかっただろう」
「ハーバイン商会で『魔法のインク』を購入したからよ」

 あの日、ハーバイン商会を出ようとしたときに、私はこの『魔法のインク』を見つけたのだ。
 その名を『文字が消えるインク』だ。
 原理はわからないが、特殊なインクを利用していて、専用の消しゴムで擦ると消えるものだ。
 少し前の話だが、このインクでメモに文字を書いて、温かい弁当の上に置いていたら文字が消えたのだ。熱で消えると噂で聞いていたが、本当なんだ~と驚いたのを覚えている。
 そして、その話には続きがある。
 熱で消えるなら、冷ましたら蘇るのか実験したら、見事に蘇ったのだ。
 この現象を利用して、ハーバイン商会長と連絡を取れないかリリーシアと相談し、幼い頃一緒に遊んだ『かくれんぼ』の話や、『寒くなると記憶が蘇る』と何気ない文書を手紙で伝えた。
 そして差出人を、私が信頼する冒険者ギルド長の娘にさせてもらった。あとは、宛名を『チェスター・ハーバイン商会長様☆』と封筒に書けば、チェスターがその手紙をリリーシアからだとわかり、秘密裏に連絡が取れたということだ。
 リリーシアは幼い頃からチェスターと交流があり、第二の兄として慕っていた。ただ、幼い子に『チェスター』は言いづらく、彼女は『スターお兄様』と呼んでいたそうだ。封筒に『☆』を書くことで、誰にもわからない二人だけの暗号となったのだ。

「この日記を見てくれ。これは監視の目を盗んで、ブライアンが伯爵家に潜り込ませていたテイラーという掃除婦を使って入手した、リリーちゃんの日記だ。生真面目なリリーちゃんは毎日欠かさず日記を書いていて、何日に誰と会った。どこへ行った。何を買ったと、細かく書いてあった。そこで、彼女の日記を元に裏取り調査を進めた結果だ」
 チェスターは日記の横に調査報告書を置いた。
「見てもいいかしら?」
「もちろんだ」
 私は日記と報告をざっと見た。
 とても見やすい報告書だ。
「凄いわ。この報告書と日記があれば『異議申立審議会要請』の手続きを出せるわ。なるほど、相手の証拠が七月十三日に偏っていたのは、リリーシアが町に出たのがその日だけだったのね。ふ~ん、つわりが酷かったのか……。七月十三日にリリーシアが参加したお茶会の主催者に一筆書いてもらえれば──」
「それが……」
「どうしたの?」
「主催者の子爵令嬢が証言を覆した。当初はリリーちゃんを招待し、新婚生活ののろけ話を聞かされて、参加した令嬢たちと盛り上がり、最後まで参加していたと言っていた。しかし、最近になってリリーちゃんは顔を出してすぐに帰ったと言い出したんだ。証言書も書かないと言われ、その後は連絡を断たれている」
「……脅しが入ったってことね」
「おそらく」
 黒幕の動きが速い……
 つくづく厄介ね。

「ちょっといいかしら?」
 チェスターとの会話に妹のマディヤが割り込んだ。
「七月十三日と限定しているけど、何かあるの?」
「あぁ、そうよね。じゃあ、次は私の話を聞いて」
 それから私は、伯爵が宮内国政機関に提出した婚姻無効申請に添えられた証拠の話、親子鑑定書が不正作成されている話をした。

「これが偽造された同意書よ。リリーシアに確認を取ったけど、不気味なくらい自分のサインに似ているといってたわ」
「確かにリリーシアのサインにそっくりだ」
 兄のブライアンも驚いている。
「ねえ、何か変じゃない。この文字」
 マディヤが文字を指差した。
 言われてみると、文字が極端に細い。
「それに、紙にインク汚れも多いわ……ねえ、この同意書をしばらく預かることはできる?」
「ごめんなさい。これを研究所から預かるとき、師匠に一筆書いてもらったから、又貸しはできないわ」
「そうなのね……じゃ、近いうちにまた会えないかしら?確認したいことがあるの」
「「確認?」」
 マディヤの言葉に全員が首を傾げた。
「偽造サインのからくりを証明できるかもしれないわ」
「ええ!?」
 そんなことができるの?!
「本当かマディヤ!?」
 ブライアンが言った。
「それには兄さんの協力が必要よ」
「まずはピエール・バシュが、それをどこで買ったかを突き止め、同じ商品を手に入れろってことだろう?本当に、兄使いが荒いな」
「よろしくね、兄さん」
 マディヤの有無を言わせぬ笑顔に、チェスターは軽くため息を吐いて「わかった。どうにかする」と言った。

「ねえ、それって何なの?」
しおりを挟む
感想 221

あなたにおすすめの小説

私を裏切った夫が、後悔しているようですが知りません

藤原遊
恋愛
政略結婚として、公爵家に嫁いだ私は 愛のない夫婦関係を「仕事」だと思い、正妻の役目を果たしてきた。 夫が愛人を持つことも、 その子を屋敷に迎え入れることも、黙って受け入れてきた。 けれど―― 跡取りを、正妻の子ではなく愛人の子にする。 その言葉を、人前で軽く口にした瞬間。 私は悟ったのだ。 この家では、息子を守れないと。 元々、実家との間には 「嫡子以外の子は実家の跡取りにする」という取り決めがあった。 ならば話は簡単だ。 役目を終えた私は、離縁を選ぶ。 息子と共に、この家を去るだけ。 後悔しているようですが―― もう、私の知るところではありません。

初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結保証】

星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。 だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。 しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。 王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。 そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。 地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。 ⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。

白い結婚の末、離婚を選んだ公爵夫人は二度と戻らない』

鍛高譚
恋愛
白い結婚の末、「白い結婚」の末、私は冷遇され、夫は愛人を溺愛していた――ならば、もう要らないわ」 公爵令嬢 ジェニファー・ランカスター は、王弟 エドワード・クラレンス公爵 のもとへ政略結婚として嫁ぐ。 だが、その結婚生活は冷たく空虚なものだった。夫は愛人 ローザ・フィッツジェラルド に夢中になり、公爵夫人であるジェニファーは侮辱され、無視され続ける日々。 ――それでも、貴族の娘は耐えなければならないの? 何の愛もなく、ただ飾り物として扱われる結婚に見切りをつけたジェニファーは 「離婚」 を決意する。 しかし、王弟であるエドワードとの離婚は容易ではない。実家のランカスター家は猛反対し、王宮の重臣たちも彼女の決断を 「公爵家の恥」 と揶揄する。 それでも、ジェニファーは負けない。弁護士と協力し、着々と準備を進めていく。 そんな折、彼女は北方の大国 ヴォルフ公国の大公、アレクサンダー・ヴォルフ と出会う。 温かく誠実な彼との交流を通じて、ジェニファーは 「本当に大切にされること」 を知る。 そして、彼女の決断は、王都の社交界に大きな波紋を呼ぶこととなる――。 「公爵夫人を手放したことを、いつか後悔しても遅いわ」 「私はもう、あなたたちの飾り人形じゃない」 離婚を巡る策略、愛人の凋落、元夫の後悔――。 そして、新たな地で手にした 「愛される結婚」。

婚約者と家族に裏切られたので小さな反撃をしたら、大変なことになったみたいです

柚木ゆず
恋愛
 コストール子爵令嬢マドゥレーヌ。彼女はある日、実父、継母、腹違いの妹、そして婚約者に裏切られ、コストール家を追放されることとなってしまいました。  ですがその際にマドゥレーヌが咄嗟に口にした『ある言葉』によって、マドゥレーヌが去ったあとのコストール家では大変なことが起きるのでした――。

婚約者チェンジ? 義理の妹は公爵令嬢の地位もチェンジされました』 ~三日で破談、家ごと褫奪の末路です~

ふわふわ
恋愛
「お姉様の婚約者、私がいただきますわ。だって“公爵令嬢”ですもの」 義理の妹コンキュはそう言って、王太子との婚約を奪いました。 父はそれを容認し、私は静かに受け入れます。 けれど―― 公爵令嬢とは“地位”ではなく、“責任”の継承者。 王宮で礼儀も実務も拒み、「未来の王太子妃」を名乗った義妹は、わずか三日で婚約破棄。 さらに王家への不敬と統治能力の欠如が問題視され、父の監督責任が問われます。 そして下されたのは――家ごとの褫奪。 一方で私は、領地を守り、帳簿を整え、静かに家を支え続ける。 欲しがったのは肩書。 継いだのは責任。 正統は叫びません。 ただ、残るだけ。 これは、婚約を奪われた公爵令嬢が “本当に継がれるべきもの”を証明する物語。

つまらない妃と呼ばれた日

柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。 舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。 さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。 リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。 ――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。

白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?

夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」 教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。 ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。 王命による“形式結婚”。 夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。 だから、はい、離婚。勝手に。 白い結婚だったので、勝手に離婚しました。 何か問題あります?

旦那様。私が悪女ならば、愛人の女は何になるのかしら?

白雲八鈴
恋愛
 我が公爵家主催の夜会の最中。夫が愛人を連れてやってきたのです。そして、私を悪女という理由で離縁を突きつけてきました。  離縁して欲しいというのであれば、今まで支援してきた金額を全額返済していただけません?  あら?愛人の貴女が支払ってくれると?お優しいわね。  私が悪女というのであれば、妻のいる夫の愛人に収まっている貴女は何なのかしら?

処理中です...