「俺の子じゃない」と言われました

ともどーも

文字の大きさ
13 / 45

十二話 それぞれの動き5(ソフィア視点)

しおりを挟む
「えっ、あっ……その……」
「あぁ、私はエルヴィス・リーガルだ」
「お声掛けいただき光栄です。リーガル公にご挨拶申し上げます。私はエドワード・ローゼンタールと申します。以後お見知りおきを賜れば幸いです」
「こちらも忙しいんだ。硬い挨拶は抜きにしよう。さっ、何か用があったのだろう?」
 師匠は普通にしていても、相手を威圧してしまうのよね。ローゼンタール伯爵がびびっているのがわかる。

「わっ、私の出した婚姻無効申請の件で来られたと連絡を受けました。その……彼女を弁護するおつもりですか?」
「人伝だが、弁護をしてもらえないかと依頼は来た。だが、ずいぶんな証拠が出されているからな。引き受けるかは要検討ということだ」
「そう……ですか……」
 ローゼンタール伯爵は尻すぼみに言葉を発した。その姿はリリーシアと別れることを望んでいる人の姿とは思えなかった。

「彼女は……異議申立てをするつもりなのですよね?」
「悪いが、依頼人のことはしゃべれないんだ。弁護士として」
「しっ、失礼いたしました!申し訳ありません!」
 ローゼンタール伯爵は慌てて頭を下げた。
 
 どこか頼りない雰囲気のある男性だが、悪い人間には見えない。さらさらの銀髪に、ブルーダイヤモンドを思わせる美しい瞳。中性的な顔立ちと体格。
 我が国では筋肉がしっかりある男性の人気が高いが、中性的な魅力があるローゼンタール伯爵も女性が放っておけないだろうな。
 これって、男性受けも良かったりして……
 とにかく、彼の周りも再調査する必要がある。
 伯爵とリリーシアをハメて得するヤツか……
 政治的攻撃。
 自分の婚約者が伯爵に懸想したことへの逆恨み。
 愛しの伯爵が結婚したことで愛が憎悪に変わった嫉妬からの犯行……。男も女も怪しいわ。
 
「……」
 師匠が不意に伯爵の走ってきた方向に目を向けた。どうやら、獲物が引っ掛かったようだ。

「ローゼンタール伯爵。あの証拠は君が集めたのか?」
「えっ……はっ、はい。そうです。自分で店に行き、証言書をもらい、録画映像の転写、店の帳簿や請求書も頼んで貸してもらいました。他の店も回りましたが、数ヶ月前のことを覚えている人も履歴もなく、見つけられたものはあれだけです」
「なぜ?」
「え?」
「部下に行かせれば良いのに、君が自ら足を運び、話を聞き、証拠を手にした。それはなぜ?」
「それは……間違いがあっては……いけなかったから……です……」
 とても言いにくそうに言葉を発した。その顔は、辛さを隠したいのに隠せない歪んだ表情だった。
 
 あぁ……
 彼は黒幕ではない。
 彼は最後までリリーシアを信じたかったんだ。だから間違った情報に踊らされないよう、自ら動いて、彼女の疑惑を晴らそうと足掻いた。
 しかし、公的な親子鑑定書に『親子ではない』と結果を突きつけられ、愛は憎しみに変わった。激情にかられ、勢いで婚姻無効申請を出した。
 
 彼はまだリリーシアのことを……

「そうか、よくわかった。ありがとう」
「いえ、こちらこそお引き留めしてしまい、申し訳ありません」
 ローゼンタール伯爵はまた頭を深く下げた。
「では」
 師匠が歩き出した。私もそれに続く。
 チラリと伯爵を見ると、辛そうな顔をしていた。

「若いな。とても危なっかしく、見ていられんよ。だが……」
 師匠はそのあとの言葉を言わなかった。
 だが、優しい顔をしていた。


 ◇◇◇


 王城を出て、いったんリーガル公爵家の屋敷に来た。このあとは変装を解いて、師匠とは別行動となる。
「茶の一杯でも飲んでいったらどうだ?」
「師匠が先に味見してくれるなら、ご相伴に与りますよ」
「ふんっ、生意気に……うん、良い出来だ」
 師匠は執務室のソファーに座り、自分で入れた紅茶を美味しそうに飲んでいる。
 師匠の入れる紅茶は当たり外れが激しく、弟子をしているときに何度も不味い紅茶を飲まされたものだ。
 毒味をされた紅茶なら、安心できるわね。

 私は師匠の向かいに座り、出された紅茶を飲んだ。
「っ!!」
 にがっ!いや、甘い?酸っぱ渋いわ!
「師匠。よくこんなのを顔色変えずに飲めますね。砂糖ください。大量に」
「ソフィアもまだまだだな~。弁護士は感情を表に出さず、涼しい顔して笑うんだと言ってるだろ。」
「紅茶くらい感情を出させてください」
「こういうのは日々の積み重ねだ。常に油断するんじゃない。とくに、貴族相手にはな」
「わかってますよ。たとえ師匠でも敵になることはある」
「「味方を疑うことを忘れるな」」
「ですね」
「わかっているならいい。うん、不味いな」
「それを旨そうに飲める師匠は、本当、異常ですよ」
 師匠は悪戯が成功した少年のように笑った。
 まったく、弟子で遊ばないで欲しいものだ。
 ふふっ、やっぱり不味いわ。懐かしい。

「ソフィアはこのあとどうするんだ?」
「リリーシアの兄の嫁の実家、ハーバイン商会に行ってきます。あそこは情報を取り扱うのに優れている商会ですから、何かしら情報が得られると思ってます。それに、リリーシアから商会長への紹介状ももらってるので、使わない手はないです」
 私はリリーシアから預かった封筒を師匠に見せた。『ハーバイン商会長様☆』と書かれている。
「ハーバイン商会か。あそこは独自の情報網を持っていて、正確な情報を提供していると、その界隈では有名だからな。この仕事が終わったらワシにも紹介してくれ」
「信用できる人物なら考えておきます。でも、師匠には冒険者ギルドの暗部がいるから、必要ないのでは?」
「正攻法の情報が欲しい時もある」
「そうですか。で、師匠はどうするんですか?」
「調べることが山積みだからな……研究所の検査員ピエール・バシュ。ワシに話しかけてきた宮内国政機関の職員。そしてワシらを監視していた人物」
「ローゼンタール伯爵と話しているときに隠れてこちらを窺っていた人物ですね。おそらく女性だと思います。微かですが、流行りの柑橘系の香水の匂いが残ってました」
「ほう~、香水の匂い。ソフィアも鼻が利くようになったんだな。ワシも女だとはわかったが、香水の流行はよくわからんからな、ありがたい情報だ。流行りの香水を使う女なら、容姿を気遣うタイプだな。流行りの香水をすぐに手に入れられる財力もある。そして、ローゼンタール伯爵の行動を監視できる身近な人物。容疑者はだいぶ絞り込める」
 すごい……
 ひとつの情報でそこまで絞り込めるのか。
 師匠にはいつも勉強させられるわ。


 ◇◇◇


 リーガル公爵家の使用人の格好をして、食材を買いにいく荷馬車に乗せてもらい、私は屋敷から脱出した。荷台から見ると、数人の屋敷を見張る人間の姿があった。
 本当に今回の黒幕は行動が早く、人数を確保するだけの財力があるわね。
 もちろん、私が乗っている馬車にも尾行がついている。

 公爵家御用達の商会で降り、変装を解いてハーバイン商会へ向かった。
 尾行はなし。だが、ハーバイン商会近くに見張りがいる。どれだけ人員を動かしているのやら。

 私は商会の店舗に足を踏み入れた。
 店は客で賑わっていた。
 さすがに商会長が店番をしているわけはなく、直接会うのは難しいだろう。リリーシアから預かった紹介状も悪目立ちしてしまう可能性がある。
 商会長に渡してくれと頼んでも、誰が味方で敵か見当がつかない。
 仕方なく出直そうと店を出ようとしたとき、私の目に一つの商品が飛び込んできた。
 これ幸いと、私はその商品を買った。

 これぞまさに魔法だろう!
しおりを挟む
感想 221

あなたにおすすめの小説

私を裏切った夫が、後悔しているようですが知りません

藤原遊
恋愛
政略結婚として、公爵家に嫁いだ私は 愛のない夫婦関係を「仕事」だと思い、正妻の役目を果たしてきた。 夫が愛人を持つことも、 その子を屋敷に迎え入れることも、黙って受け入れてきた。 けれど―― 跡取りを、正妻の子ではなく愛人の子にする。 その言葉を、人前で軽く口にした瞬間。 私は悟ったのだ。 この家では、息子を守れないと。 元々、実家との間には 「嫡子以外の子は実家の跡取りにする」という取り決めがあった。 ならば話は簡単だ。 役目を終えた私は、離縁を選ぶ。 息子と共に、この家を去るだけ。 後悔しているようですが―― もう、私の知るところではありません。

初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結保証】

星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。 だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。 しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。 王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。 そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。 地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。 ⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。

白い結婚の末、離婚を選んだ公爵夫人は二度と戻らない』

鍛高譚
恋愛
白い結婚の末、「白い結婚」の末、私は冷遇され、夫は愛人を溺愛していた――ならば、もう要らないわ」 公爵令嬢 ジェニファー・ランカスター は、王弟 エドワード・クラレンス公爵 のもとへ政略結婚として嫁ぐ。 だが、その結婚生活は冷たく空虚なものだった。夫は愛人 ローザ・フィッツジェラルド に夢中になり、公爵夫人であるジェニファーは侮辱され、無視され続ける日々。 ――それでも、貴族の娘は耐えなければならないの? 何の愛もなく、ただ飾り物として扱われる結婚に見切りをつけたジェニファーは 「離婚」 を決意する。 しかし、王弟であるエドワードとの離婚は容易ではない。実家のランカスター家は猛反対し、王宮の重臣たちも彼女の決断を 「公爵家の恥」 と揶揄する。 それでも、ジェニファーは負けない。弁護士と協力し、着々と準備を進めていく。 そんな折、彼女は北方の大国 ヴォルフ公国の大公、アレクサンダー・ヴォルフ と出会う。 温かく誠実な彼との交流を通じて、ジェニファーは 「本当に大切にされること」 を知る。 そして、彼女の決断は、王都の社交界に大きな波紋を呼ぶこととなる――。 「公爵夫人を手放したことを、いつか後悔しても遅いわ」 「私はもう、あなたたちの飾り人形じゃない」 離婚を巡る策略、愛人の凋落、元夫の後悔――。 そして、新たな地で手にした 「愛される結婚」。

婚約者と家族に裏切られたので小さな反撃をしたら、大変なことになったみたいです

柚木ゆず
恋愛
 コストール子爵令嬢マドゥレーヌ。彼女はある日、実父、継母、腹違いの妹、そして婚約者に裏切られ、コストール家を追放されることとなってしまいました。  ですがその際にマドゥレーヌが咄嗟に口にした『ある言葉』によって、マドゥレーヌが去ったあとのコストール家では大変なことが起きるのでした――。

婚約者チェンジ? 義理の妹は公爵令嬢の地位もチェンジされました』 ~三日で破談、家ごと褫奪の末路です~

ふわふわ
恋愛
「お姉様の婚約者、私がいただきますわ。だって“公爵令嬢”ですもの」 義理の妹コンキュはそう言って、王太子との婚約を奪いました。 父はそれを容認し、私は静かに受け入れます。 けれど―― 公爵令嬢とは“地位”ではなく、“責任”の継承者。 王宮で礼儀も実務も拒み、「未来の王太子妃」を名乗った義妹は、わずか三日で婚約破棄。 さらに王家への不敬と統治能力の欠如が問題視され、父の監督責任が問われます。 そして下されたのは――家ごとの褫奪。 一方で私は、領地を守り、帳簿を整え、静かに家を支え続ける。 欲しがったのは肩書。 継いだのは責任。 正統は叫びません。 ただ、残るだけ。 これは、婚約を奪われた公爵令嬢が “本当に継がれるべきもの”を証明する物語。

つまらない妃と呼ばれた日

柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。 舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。 さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。 リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。 ――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。

白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?

夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」 教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。 ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。 王命による“形式結婚”。 夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。 だから、はい、離婚。勝手に。 白い結婚だったので、勝手に離婚しました。 何か問題あります?

旦那様。私が悪女ならば、愛人の女は何になるのかしら?

白雲八鈴
恋愛
 我が公爵家主催の夜会の最中。夫が愛人を連れてやってきたのです。そして、私を悪女という理由で離縁を突きつけてきました。  離縁して欲しいというのであれば、今まで支援してきた金額を全額返済していただけません?  あら?愛人の貴女が支払ってくれると?お優しいわね。  私が悪女というのであれば、妻のいる夫の愛人に収まっている貴女は何なのかしら?

処理中です...