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二章 細川

第34話

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「...んん」

 波の音が聞こえたような気がして目を覚ます。左側の窓から外を見てみると、一面の海が見えた。

(もうこんな場所まで来たのか)

 外では多くの人で海辺が賑わっていた。...いや。ちょっと多すぎじゃないか?

「何だ?」

 今まで見たことがないような人数の人間が海の周辺にワラワラと出てきている。まるで何かか逃げているかのような、そんな微かな違和感を感じる。周りの民家などからも次々と人が出てきている。イヤホンを外すと僅かだが声らしき音を拾ったような気がした。

「●●ろっ!ここはもう●●●!!」

「●●ああ!?●●●●えええ!!」

(言い争い...いや喧嘩か?まあ珍しくはあるが普通に起こるよな)

「俺には関係ないか」

 どっちにしろこのバスの中からでは何もできない。俺は海から目を逸らし、スマホのゲームに集中した。


 バスが海岸沿いを超えて、山道に入る。途端にガタガタと車体が揺れる事が多くなった。とにかく不快だ。

(研修用の施設は山の中にあるんだっけか?まったく何考えてんだかな)

 わざわざこんな僻地、それもこんな山の中で生活しなければいけないというクソ過ぎる現実に、怒りが再燃する。

(俺は早く帰ってゲームがやりてえんだよ!)

 何か事件でも起きて、このゴミみたいな旅行が中止になればいい。俺はそんな事を本気で思っていた。

 ___バスの中から、何か大きな声がした。

「っ!?」

 びっくりして音の聞こえた方向に振り向くと、どうやら学生が車内で電話をしているみたいだ。

(人の迷惑も考えられないアホ野郎は全員死刑とかでいいんじゃねえかな...)

「はあ? 何?こっちに来るなってどういう事だ? あっおい中島!?」

「何なんだあいつ?急に電話かけてきたと思ったら、突然切りやがったしよ」

「何かのイタズラじゃねえの? もうAグループのやつらは施設に到着してる頃だしよぉ?」

「ああそれもそうか。ったくあの野郎、今度の昼飯はあいつの奢り決定だな」

(...こっちに来るな? )

 少しだけ気になる言葉だ。何か大切な事を見落としているかのような気味の悪い感覚が心から消えない。

(考えたところで意味は無いか)

 どうせ自分とは関係のない世界での出来事だ。俺は再びプレイ中のスマホゲームに視線を戻す。ゲームの中では今まさに物語の主人公がゾンビに襲われていた。

(...ゾンビね)

 胸騒ぎがする。静かに鳴り続ける心の警鐘は未だに鳴りやまない。こんなものはフィクションだ。現実にそんな事があるわけがない。...それでも、それでももしそんなありえない騒動が起こったのならば、俺はどう行動するべきなのだろうか。

(ま、ありえるわけねえか)

 そんなどうしようもない妄想を少しだけ楽しみつつ、俺は再びゲームに没頭した。
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