24 / 39
はじまり
しおりを挟む
手の甲にするりと這った指が、何か紙のような質感のものを握りしめていることに気が付いた。
チラリと視線を配ると、薄暗さの中に少しの反射光が目に入る。
(ツヤのある紙……もしかして写真か?)
「どうせ、依頼者はあの女ですよね」
「俺からは何も言えないな」
「今更手出ししてくるなんて、あの女しか有り得ないので答えは要らないです」
俺を通して依頼者を見ているのだろうか。ツグミは憎々しい物を見るように俺を睨む。
何故そこまで拒否反応を示すのか、全くもって理解出来ない。
仮にも、片割れの選んだ婚約者なのに。
「頼み事ってなんだ?聞いてから判断したい」
「この写真をあの女に渡してもらえれば、それで良いんです。それで解決しないなら、僕は憎しみにしか頼れない」
「は?解決って……」
「お兄さん、この写真に写っている物が見えますか?」
ぼんやりとした間接照明の光源の下に、写真を差し出す。
すると、ただの暗い風景に見えたその写真の中心に、二人の高校生が仲睦まじく抱き合う姿がぼんやりと浮かび上がった。
話の流れから、きっと五月兄弟なのだろう。
「何故これを依頼者に?」
「あの女、まだハジメの幻想を追ってるんですよ。あんなにもハジメを追い詰めておいて」
「……は?」
「お兄さんは、ハジメとあの女の馴れ初めを聞きましたか?」
俺が小さく首を振るのを見て、苛立たしげに息を吐いて床に座り込んだ。
「あの女、ハジメが高校生の時に街で声を掛けたんですよ。困ったフリをして純粋な心に漬け込んで、家に引き込んで……果てには襲いやがった」
「……」
「ハジメには僕しか居なかった……僕にもハジメしか要らなかったのに」
「ハジメは混乱して僕を遠ざけたがったし、逆に不安定になると繋がって安心したがった」
ツグミは純粋で歪な感情を言葉にしながら、自らの身体を抱き締める。
自身から溢れ出た大切な部品を、掻き集めて取り込むように。
「あの女を許せなくて、僕も何度か接触したんです。でも遂に、最期まであの女は僕をハジメだと誤解したままでした。きっとこの顔ならなんでも良いんでしょうね」
「婚約も、あの女が責任を果たせだのと迫って取り付けたんです。ハジメは、関係を持った日からずっと監視されて束縛されて……精神的にコントロールされていきました」
「あの女が現れてから……何もかもが壊れちゃいました」
僕達は欠けちゃいけなかったのに。
最後にそうポツリと呟いて、ツグミは背を丸めて塞ぎ込んでしまった。
── 怒涛の告白に目眩がした。
全てを信じるには裏が取れていない事が多すぎる。
だがどうしても、涙を堪えながら言葉を選ぶ姿を前にして、可能性を頭ごなしには否定できなかった。
それに、あの依頼者の言動の端々から感じ取っていた傲慢さが、この恐ろしい話に真実味を帯びさせる。
……そして、この話が真正なのだとすれば。
「アンタ……いや、ツグミさん。多分その写真を見せたところで何の解決にもならねぇよ」
「え?」
「こう言っちゃなんだが、その女って奴はもう一人愛でる相手が残ってたって喜ぶだけだ」
「……ぅ、おえ」
思わずと言った様子で嘔吐いた華奢な背をさする。
背を振るわせて縮こまる男……ツグミは身体的な年齢とは相容れない幼さを感じさせた。
話す言葉の選び方や、何かを解決する際に持ち得る術が、まだ成熟しきっていなかった。
それが元来の物なのか、同一視していた片割れを失った反動で不安定になっているのかは分からない。
きっともう、随分前から限界を迎えていたのだろう。
「俺にはその女とやらが依頼者と同一人物なのかは明かせない……が、仮に今の話を先に聞いたとしたら受ける依頼内容も違ったはずだ」
「……?」
「なあ、その写真の事は伏せておいてくれ。もっと覿面に効く手立てを探る」
意味が分からないと訴えかける視線を尻目に、紙の束を指差す。
「あの紙束、結局何が書かれているんだ?多分ハジメさんの大切な物なんだろ」
「……手紙。同棲を始めてからはスマートフォンも常に監視されていたから、僕への連絡は専らこれです。最近あったこと、嬉しかったこと、悩み……そんな他愛もない内容です」
上から一枚取り上げて手渡されたその紙は、何度も何度も読まれているのか皺が寄っている。
「死にたいとは、一言も書いてませんよ。どんなに追い詰められても、そんな事は言わなかったから」
「……あの日のことを聞いても良いか」
「今すぐにでも忘れちゃいたい、けど」
そう呟くと、当時の記憶を辿るようにポツリポツリと言葉を溢し始めた。
チラリと視線を配ると、薄暗さの中に少しの反射光が目に入る。
(ツヤのある紙……もしかして写真か?)
「どうせ、依頼者はあの女ですよね」
「俺からは何も言えないな」
「今更手出ししてくるなんて、あの女しか有り得ないので答えは要らないです」
俺を通して依頼者を見ているのだろうか。ツグミは憎々しい物を見るように俺を睨む。
何故そこまで拒否反応を示すのか、全くもって理解出来ない。
仮にも、片割れの選んだ婚約者なのに。
「頼み事ってなんだ?聞いてから判断したい」
「この写真をあの女に渡してもらえれば、それで良いんです。それで解決しないなら、僕は憎しみにしか頼れない」
「は?解決って……」
「お兄さん、この写真に写っている物が見えますか?」
ぼんやりとした間接照明の光源の下に、写真を差し出す。
すると、ただの暗い風景に見えたその写真の中心に、二人の高校生が仲睦まじく抱き合う姿がぼんやりと浮かび上がった。
話の流れから、きっと五月兄弟なのだろう。
「何故これを依頼者に?」
「あの女、まだハジメの幻想を追ってるんですよ。あんなにもハジメを追い詰めておいて」
「……は?」
「お兄さんは、ハジメとあの女の馴れ初めを聞きましたか?」
俺が小さく首を振るのを見て、苛立たしげに息を吐いて床に座り込んだ。
「あの女、ハジメが高校生の時に街で声を掛けたんですよ。困ったフリをして純粋な心に漬け込んで、家に引き込んで……果てには襲いやがった」
「……」
「ハジメには僕しか居なかった……僕にもハジメしか要らなかったのに」
「ハジメは混乱して僕を遠ざけたがったし、逆に不安定になると繋がって安心したがった」
ツグミは純粋で歪な感情を言葉にしながら、自らの身体を抱き締める。
自身から溢れ出た大切な部品を、掻き集めて取り込むように。
「あの女を許せなくて、僕も何度か接触したんです。でも遂に、最期まであの女は僕をハジメだと誤解したままでした。きっとこの顔ならなんでも良いんでしょうね」
「婚約も、あの女が責任を果たせだのと迫って取り付けたんです。ハジメは、関係を持った日からずっと監視されて束縛されて……精神的にコントロールされていきました」
「あの女が現れてから……何もかもが壊れちゃいました」
僕達は欠けちゃいけなかったのに。
最後にそうポツリと呟いて、ツグミは背を丸めて塞ぎ込んでしまった。
── 怒涛の告白に目眩がした。
全てを信じるには裏が取れていない事が多すぎる。
だがどうしても、涙を堪えながら言葉を選ぶ姿を前にして、可能性を頭ごなしには否定できなかった。
それに、あの依頼者の言動の端々から感じ取っていた傲慢さが、この恐ろしい話に真実味を帯びさせる。
……そして、この話が真正なのだとすれば。
「アンタ……いや、ツグミさん。多分その写真を見せたところで何の解決にもならねぇよ」
「え?」
「こう言っちゃなんだが、その女って奴はもう一人愛でる相手が残ってたって喜ぶだけだ」
「……ぅ、おえ」
思わずと言った様子で嘔吐いた華奢な背をさする。
背を振るわせて縮こまる男……ツグミは身体的な年齢とは相容れない幼さを感じさせた。
話す言葉の選び方や、何かを解決する際に持ち得る術が、まだ成熟しきっていなかった。
それが元来の物なのか、同一視していた片割れを失った反動で不安定になっているのかは分からない。
きっともう、随分前から限界を迎えていたのだろう。
「俺にはその女とやらが依頼者と同一人物なのかは明かせない……が、仮に今の話を先に聞いたとしたら受ける依頼内容も違ったはずだ」
「……?」
「なあ、その写真の事は伏せておいてくれ。もっと覿面に効く手立てを探る」
意味が分からないと訴えかける視線を尻目に、紙の束を指差す。
「あの紙束、結局何が書かれているんだ?多分ハジメさんの大切な物なんだろ」
「……手紙。同棲を始めてからはスマートフォンも常に監視されていたから、僕への連絡は専らこれです。最近あったこと、嬉しかったこと、悩み……そんな他愛もない内容です」
上から一枚取り上げて手渡されたその紙は、何度も何度も読まれているのか皺が寄っている。
「死にたいとは、一言も書いてませんよ。どんなに追い詰められても、そんな事は言わなかったから」
「……あの日のことを聞いても良いか」
「今すぐにでも忘れちゃいたい、けど」
そう呟くと、当時の記憶を辿るようにポツリポツリと言葉を溢し始めた。
21
あなたにおすすめの小説
【完結】抱っこからはじまる恋
* ゆるゆ
BL
満員電車で、立ったまま寄りかかるように寝てしまった高校生の愛希を抱っこしてくれたのは、かっこいい社会人の真紀でした。接点なんて、まるでないふたりの、抱っこからはじまる、しあわせな恋のお話です。
ふたりの動画をつくりました!
インスタ @yuruyu0 絵もあがります。
YouTube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。
プロフのwebサイトから飛べるので、もしよかったら!
完結しました!
おまけのお話を時々更新しています。
BLoveさまのコンテストに応募しているお話を倍以上の字数増量でお送りする、アルファポリスさま限定版です!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
【完結】獣王の番
なの
BL
獣王国の若き王ライオネルは、和平の証として差し出されたΩの少年ユリアンを「番など認めぬ」と冷酷に拒絶する。
虐げられながらも、ユリアンは決してその誇りを失わなかった。
しかし暴走する獣の血を鎮められるのは、そのユリアンただ一人――。
やがて明かされる予言、「真の獣王は唯一の番と結ばれるとき、国を救う」
拒絶から始まった二人の関係は、やがて国を救う愛へと変わっていく。
冷徹な獣王と運命のΩの、拒絶から始まる、運命の溺愛ファンタジー!
いい加減観念して結婚してください
彩根梨愛
BL
平凡なオメガが成り行きで決まった婚約解消予定のアルファに結婚を迫られる話
元々ショートショートでしたが、続編を書きましたので短編になりました。
2025/05/05時点でBL18位ありがとうございます。
作者自身驚いていますが、お楽しみ頂き光栄です。
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
【完結】君のことなんてもう知らない
ぽぽ
BL
早乙女琥珀は幼馴染の佐伯慶也に毎日のように告白しては振られてしまう。
告白をOKする素振りも見せず、軽く琥珀をあしらう慶也に憤りを覚えていた。
だがある日、琥珀は記憶喪失になってしまい、慶也の記憶を失ってしまう。
今まで自分のことをあしらってきた慶也のことを忘れて、新たな恋を始めようとするが…
【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】
古森きり
BL
【書籍化決定しました!】
詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります!
たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました!
アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。
政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。
男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。
自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。
行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。
冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。
カクヨムに書き溜め。
小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。
【完結】弟を幸せにする唯一のルートを探すため、兄は何度も『やり直す』
バナナ男さん
BL
優秀な騎士の家系である伯爵家の【クレパス家】に生まれた<グレイ>は、容姿、実力、共に恵まれず、常に平均以上が取れない事から両親に冷たく扱われて育った。 そんなある日、父が気まぐれに手を出した娼婦が生んだ子供、腹違いの弟<ルーカス>が家にやってくる。 その生まれから弟は自分以上に両親にも使用人達にも冷たく扱われ、グレイは初めて『褒められる』という行為を知る。 それに恐怖を感じつつ、グレイはルーカスに接触を試みるも「金に困った事がないお坊ちゃんが!」と手酷く拒絶されてしまい……。 最初ツンツン、のちヤンデレ執着に変化する美形の弟✕平凡な兄です。兄弟、ヤンデレなので、地雷の方はご注意下さいm(__)m
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる