鈴ノ宮恋愛奇譚

麻竹

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小話

鈴宮家の夜の風景 其の二

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カラリと浴室の入り口が開く。
中へ入ってきたのは兇だった。
兇がシャツのボタンを外していると、脳内から控えめな声が響いてきた。

あ、あの、ゆかりさん……お風呂なら自分が……。

「あら、気にしなくていいのよ。汗かいちゃったから、このまま入っちゃうわね。」

兇に取り憑いているゆかりは、兇の体を借りたまま、お風呂に入ろうとしているらしい。

い、いや、そこまでしてもらわなくても……。

「いいからいいから、気にしないで。」

ゆかりはそう言うと、プチプチとシャツのボタンを外していった。
年頃の兇は、しどろもどろになりながらも、なんとか自分の体を取り戻そうと話しかけるが、ゆかりは全然相手にしてくれない。
そうこうしている内に、ズボンに手がかけられた。

わあ~~~そこは!

兇は脳内で悲鳴を上げる。
しかし兇の抵抗も虚しく、一糸纏わぬ姿になってしまった。

「あら、兇君て意外と逞しいのね。」

ゆかりは浴室にある姿見で、兇の体を隅々まで見ながら褒めてきた。

あ、あんまり見ないでください……。

脳内で兇が赤面する気配があった。
ゆかりは、くすりと笑うと

「うふふ。私、男の子も欲しかったから、つい嬉しくって。」

そう言って、嬉しそうに笑ったのだった。
そして

「それに、娘の未来の旦那様になる人が、どんなのか見てみたかったのよ。」

何を?

とは、聞けなかった。
兇は今度こそ脳内で顔を手で覆うと、何も言えなくなってしまったのであった。



その後、体を洗う段階になってから、ゆかりは兇へ体を返してあげたのだった。
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