裏ありイケメン侯爵様と私(曰く付き伯爵令嬢)がお飾り結婚しました!

麻竹

文字の大きさ
5 / 47
本編

第五話

しおりを挟む
ローブの人物が王宮へ入ってから四半時。
豪華なテーブルの上には湯気が昇る豪華な茶器が置かれていた。
テーブルを挟んで目の前の人物――国王陛下は飽きる事無く剣を見ていた。
時折剣の鞘に刻まれているレリーフや宝石を眺めては褒め称えている。

もう見慣れた光景だった。
ローブの人物は慣れた手つきで、陛下付きの侍女が淹れてくれたハーブティーを飲む。
爽やかな香りとコクが広がりほっと息をつく。

「そういえばそなた、結婚生活はどうなのだ?」

突然振られた会話に、ローブの人物は驚いた様子で顔を上げた。
フードの隙間から見える瞳が怪訝そうに国王を見る。
国王は相手の反応を面白そうに眺めながら、ついうっかり口を滑らせてしまった。

「何故あやつと結婚が出来たのか……それならば私とも結婚でき…」

ズド。

国王が言い終わらないうちに目の前で物凄い音が響いた。
驚いて見ると陛下の目の前のテーブルが真っ二つに割れていたのだ。
それはもう綺麗に見事な程すっぱりとだ。
よく見るとテーブルがあった真ん中の部分に、床に深く突き刺さるように剣が埋まっていた。

「・・・・・・。」

「・・・・・・。」

シンと静まり返る室内。
その沈黙を破ったのはローブの人物だった。
深いため息を吐くと徐に椅子から立ち上がり、床に刺さっていた剣を抜き取る。

「この通り剣は健在です。」

「あ、ああ・・・・・・そのよう、だな。」

「私が、何故あの男と結婚できたのかはわかりません。わかるのは・・・・・・。」

「な、なんだ?」

国王はローブの人物の言葉の続きを恐る恐る促す。
ローブの人物は頭に被っていたフードを取ると、こう続けた。

「わかるのは・・・・・・この剣が何の反応もしなかったということだけです。」

フードの中から出てきたその顔は、カレン・オーディンス・・・・・・いや今はカレン・フェルディナードになったその人であった。







次の日、カレンは何事もなかったように侯爵邸へと帰っていた。
国王陛下の前で、あれほどの事をしたのに何のお咎めもなかったのだ。
それもその筈、陛下とカレンの間では間違ってもカレンに危害は加わらないからだ。

全てはあの剣のおかげ・・・・・・いや、せいであった。
もし仮にあの時陛下が激昂してカレンを捕らえることになった場合。
身の危険を伴うのは陛下の方なのだ。
何故そうなってしまうのかというと全てはあの剣のせいなのである。

あの剣はオーディンス家に伝わる家宝――意志を持った魔法の剣であった。
いわゆる聖剣や魔剣と呼ばれる代物だ。
何故そんな大層なものが、ただの伯爵家であるカレンの家にあるのかというと、そこは謎に包まれていた。
家系図や文献を辿っても、わからなかったのである。
いつの間にかオーディンス家に家宝としてあったのだ。

そしてこの剣、意志があるため実は自由に動ける。
昨夜のようにテーブルを真っ二つにする事など朝飯前だ。
しかも聖剣が動く条件はカレンだった。

この聖剣は己の意志で主人を決める。
しかも不思議なことに何故かオーディンス家の女性ばかりを選ぶのだ。
先代はカレンの祖母だった。
そして祖母がなくなった時、次に選ばれたのがカレンであった。

そして主人であるカレンに関係することが聖剣の動く条件らしい。
らしいというのは、その剣の行動条件がよくわからないからだった。
特に剣が顕著に動くとき。
それはカレンに縁談が舞い込んできたときが多かった。

初めて相手と顔を合わせたその席で相手がカレンに愛を囁いた瞬間それは起こる。
もう目を背けたくなるようなフルスイングで相手をぶっ叩くのだ。
来る者、来る者、剣が千切っては投げ千切っては投げした結果が、カレンが行き遅れになった原因だった。

その余りにも無茶苦茶な行動を起こす剣の存在は、長い間ひっそりと秘密にされてきた。
幸か不幸か相手の縁談希望者も聖剣に叩かれたなど恥ずかしくて言えないのか、剣の存在だけは表に出なかった。
ただカレンにだけ悪評が降りかかる形で噂は流れていった。

そして付いたあだ名が――会って三秒で縁談破棄される曰く付きの伯爵令嬢――だったのだ。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

【完】瓶底メガネの聖女様

らんか
恋愛
伯爵家の娘なのに、実母亡き後、後妻とその娘がやってきてから虐げられて育ったオリビア。 傷つけられ、生死の淵に立ったその時に、前世の記憶が蘇り、それと同時に魔力が発現した。 実家から事実上追い出された形で、家を出たオリビアは、偶然出会った人達の助けを借りて、今まで奪われ続けた、自分の大切なもの取り戻そうと奮闘する。 そんな自分にいつも寄り添ってくれるのは……。

~春の国~片足の不自由な王妃様

クラゲ散歩
恋愛
春の暖かい陽気の中。色鮮やかな花が咲き乱れ。蝶が二人を祝福してるように。 春の国の王太子ジーク=スノーフレーク=スプリング(22)と侯爵令嬢ローズマリー=ローバー(18)が、丘の上にある小さな教会で愛を誓い。女神の祝福を受け夫婦になった。 街中を馬車で移動中。二人はずっと笑顔だった。 それを見た者は、相思相愛だと思っただろう。 しかし〜ここまでくるまでに、王太子が裏で動いていたのを知っているのはごくわずか。 花嫁は〜その笑顔の下でなにを思っているのだろうか??

次期国王様の寵愛を受けるいじめられっこの私と没落していくいじめっこの貴族令嬢

さら
恋愛
 名門公爵家の娘・レティシアは、幼い頃から“地味で鈍くさい”と同級生たちに嘲られ、社交界では笑い者にされてきた。中でも、侯爵令嬢セリーヌによる陰湿ないじめは日常茶飯事。誰も彼女を助けず、婚約の話も破談となり、レティシアは「無能な令嬢」として居場所を失っていく。  しかし、そんな彼女に運命の転機が訪れた。  王立学園での舞踏会の夜、次期国王アレクシス殿下が突然、レティシアの手を取り――「君が、私の隣にふさわしい」と告げたのだ。  戸惑う彼女をよそに、殿下は一途な想いを示し続け、やがてレティシアは“王妃教育”を受けながら、自らの力で未来を切り開いていく。いじめられっこだった少女は、人々の声に耳を傾け、改革を導く“知恵ある王妃”へと成長していくのだった。  一方、他人を見下し続けてきたセリーヌは、過去の行いが明るみに出て家の地位を失い、婚約者にも見放されて没落していく――。

身代わりの公爵家の花嫁は翌日から溺愛される。~初日を挽回し、溺愛させてくれ!~

湯川仁美
恋愛
姉の身代わりに公爵夫人になった。 「貴様と寝食を共にする気はない!俺に呼ばれるまでは、俺の前に姿を見せるな。声を聞かせるな」 夫と初対面の日、家族から男癖の悪い醜悪女と流され。 公爵である夫とから啖呵を切られたが。 翌日には誤解だと気づいた公爵は花嫁に好意を持ち、挽回活動を開始。 地獄の番人こと閻魔大王(善悪を判断する審判)と異名をもつ公爵は、影でプレゼントを贈り。話しかけるが、謝れない。 「愛しの妻。大切な妻。可愛い妻」とは言えない。 一度、言った言葉を撤回するのは難しい。 そして妻は普通の令嬢とは違い、媚びず、ビクビク怯えもせず普通に接してくれる。 徐々に距離を詰めていきましょう。 全力で真摯に接し、謝罪を行い、ラブラブに到着するコメディ。 第二章から口説きまくり。 第四章で完結です。 第五章に番外編を追加しました。

病めるときも健やかなるときも、お前だけは絶対許さないからなマジで

あだち
恋愛
ペルラ伯爵家の跡取り娘・フェリータの婚約者が、王女様に横取りされた。どうやら、伯爵家の天敵たるカヴァリエリ家の当主にして王女の側近・ロレンツィオが、裏で糸を引いたという。 怒り狂うフェリータは、大事な婚約者を取り返したい一心で、祝祭の日に捨て身の行動に出た。 ……それが結果的に、にっくきロレンツィオ本人と結婚することに結びつくとも知らず。 *** 『……いやホントに許せん。今更言えるか、実は前から好きだったなんて』  

絶望?いえいえ、余裕です! 10年にも及ぶ婚約を解消されても化物令嬢はモフモフに夢中ですので

ハートリオ
恋愛
伯爵令嬢ステラは6才の時に隣国の公爵令息ディングに見初められて婚約し、10才から婚約者ディングの公爵邸の別邸で暮らしていた。 しかし、ステラを呼び寄せてすぐにディングは婚約を後悔し、ステラを放置する事となる。 異様な姿で異臭を放つ『化物令嬢』となったステラを嫌った為だ。 異国の公爵邸の別邸で一人放置される事となった10才の少女ステラだが。 公爵邸別邸は森の中にあり、その森には白いモフモフがいたので。 『ツン』だけど優しい白クマさんがいたので耐えられた。 更にある事件をきっかけに自分を取り戻した後は、ディングの執事カロンと共に公爵家の仕事をこなすなどして暮らして来た。 だがステラが16才、王立高等学校卒業一ヶ月前にとうとう婚約解消され、ステラは公爵邸を出て行く。 ステラを厄介払い出来たはずの公爵令息ディングはなぜかモヤモヤする。 モヤモヤの理由が分からないまま、ステラが出て行った後の公爵邸では次々と不具合が起こり始めて―― 奇跡的に出会い、優しい時を過ごして愛を育んだ一人と一頭(?)の愛の物語です。 異世界、魔法のある世界です。 色々ゆるゆるです。

【完結】傷物令嬢は近衛騎士団長に同情されて……溺愛されすぎです。

朝日みらい
恋愛
王太子殿下との婚約から洩れてしまった伯爵令嬢のセーリーヌ。 宮廷の大広間で突然現れた賊に襲われた彼女は、殿下をかばって大けがを負ってしまう。 彼女に同情した近衛騎士団長のアドニス侯爵は熱心にお見舞いをしてくれるのだが、その熱意がセーリーヌの折れそうな心まで癒していく。 加えて、セーリーヌを振ったはずの王太子殿下が、親密な二人に絡んできて、ややこしい展開になり……。 果たして、セーリーヌとアドニス侯爵の関係はどうなるのでしょう?

【完結】傷跡に咲く薔薇の令嬢は、辺境伯の優しい手に救われる。

朝日みらい
恋愛
セリーヌ・アルヴィスは完璧な貴婦人として社交界で輝いていたが、ある晩、馬車で帰宅途中に盗賊に襲われ、顔に深い傷を負う。 傷が癒えた後、婚約者アルトゥールに再会するも、彼は彼女の外見の変化を理由に婚約を破棄する。 家族も彼女を冷遇し、かつての華やかな生活は一転し、孤独と疎外感に包まれる。 最終的に、家族に決められた新たな婚約相手は、社交界で「醜い」と噂されるラウル・ヴァレールだった―――。

処理中です...