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第五章 アランの力は留まる事を知らず、全てを巻き込み、魅了していく

第三十六話 選択と結末(8)

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 慌てて兵士達が迎撃の光弾を放つ。
 しかしその数はまばらであった。
 一部の兵士は光弾では無く防御魔法を展開していた。単純に反応出来ていない者もいる。
 アランはその半端な迎撃を減速せずに回避し、一気に距離を詰めた。
 敵兵はもう目の前。もう一度踏み込めば手が届く距離だ。
 正面の敵は右手で防御魔法を展開したまま固まっている。
 アランは鋭く踏み込みながら、その右手に向かって刀を一閃した。

「っ!」

 直後、敵兵は声にならない悲鳴を上げながら後ずさった。
 アランが放った光る刃は、まるで紙を切り裂くが如く防御魔法を切り裂いていた。
 そしてその壁を展開していた兵士の右手は地面の上を転がっている。
 兵士は右手首に出来た赤い蛇口を左手で押さえようとしたが、それよりも早くアランが真横を駆け抜けながら胴を一閃した。
 傷口を押さえようとした兵士の動きが硬直する。
 刹那の後、兵士はわき腹から血を噴出しながら崩れ落ち始めた。
 既にアランの姿は傍に無い。駆け抜けた勢いのまま、次の目標に向かって踏み込んでいる。
 崩れた兵士の膝が地に着いたのとほぼ同時にアランが次の兵士に向かって刀を一閃。
 その兵士も防御魔法でアランの刀を受けたが結果は変わらず。
 ここでアランは数秒ほど足を止めた。
 感知に集中するためだ。
 サイラスまでの距離と、そこに至るまでの障害の数と位置を把握する。
 そしてそれを突破する手順を頭の中で描きながら、アランは再び地を蹴った。
 動き出したアランに周辺の兵士達が光弾を放つ。
 しかし当たらない。掠りもしない。
 敵兵士達が確保出来る射線から、来るであろう反撃の数と方向も予測していたからだ。
 アランは弾幕をくぐり抜けながら次の目標に接近し、刀を振るった。

「ぁがっ!」

 悲鳴が上がった時には既にアランの姿は兵士の前に無い。

「うっ!」

 そして数秒もたたぬうちに近くで次の悲鳴が上がる。

「一体なに……ぐぁ!」

 移動と攻撃、この二つの動作をアランは可能な限り速く、連続させた。
 その動きは鋭く、滑らか。
 予定通りに事が運んでいるからだ。筋書き通りに移動し、そして刀を振るうだけの作業のようなものだ。
 しかし直後、事態はアランが予想していなかった方向に動いた。

「隊列を戻せ! 密集しろ!」

 場に響いたのはサイラスの声。
 サイラスは気付いたのだ。自分の指示が間違っていたことに。
 周囲の兵士達がサイラスの傍へ駆け寄り始める。
 しかし一人だけ動いていない者がいた。
 その者はラルフ。
 それを見たサイラスはラルフの背中へ向かって地を蹴った。
 サイラスはこの状況は危険であると認識していた。
「もしかしたら」ラルフがアランに倒されることがあるかもしれないと、サイラスは本気で思っていた。
 アランが「技」を持っているからだ。純粋な身体能力で劣る弱者が強者に対して「もしかしたら」の結果を生み出すもの、「技」とはそういうものであることをサイラスは身をもって知っているからだ。
 そしてラルフの背後についたサイラスはいつでも電撃魔法を放てるように、右手に魔力を込めた。
 そのサイラスを庇うように左右と背後に兵士がつき、さらにその兵士達を守るために別の兵達が駆け寄る。
 そうしてサイラスの周囲の兵士の密度はみるみるうちに高くなっていった。
 一方、兵士達が激しく動き始めたからか、アランの動きは少し鈍くなった。
 しかしサイラスとの距離は確実に詰まってきている。
 ラルフは迫るアランに向かって右手を前にかざした。
 だがその手から光弾が放たれる気配は無い。
 動いている味方のせいで撃てないのだ。そしてアランは明らかに敵を盾にするように立ち回っている。
 このままだと隊形が元に戻る頃には目の前まで接近されるだろう。
 それは非常にマズい。だからサイラスは声を上げた。

「最前列の大盾兵、突撃しろ!」

 直後、反応した十人の大盾兵達が鋭く地を蹴った。
 横一列の壁となってアランに迫る。
 これで圧殺出来るなどと思っていない。サイラスは時間稼ぎを期待していた。
 のだが、

「!」

 直後、サイラスは警戒心を強めた。
 アランが中央の大盾兵に向かって突撃し始めたからだ。
 いつぞやのように跳び越す気か? サイラスはそう思ったが、アランは違う動きを見せた。
 アランは姿勢を低くしながら、刀を腰だめに構えたのだ。
 刀の切っ先を前に突き出しながら固定するその構えに、サイラスの心は「まさか」という言葉を浮かべた。
 そしてアランはサイラスが想像した通りの攻撃を放ち、危惧した通りの結果をもたらした。
 アランが放った突進突きは、中央の大盾兵を盾ごと串刺しにした。
 すぐさま前蹴りを放ち、押し倒しながら刃を引き抜く。
 そして赤く染まった刀身を胸元に引き寄せながら腰を右に捻り、刃が兵士の体から自由になったと同時に振り返りながら水平に一閃。
 すれちがった左右の兵はこれに反応し、自身の大盾で受けたが、アランが放った光る刃は二枚の盾を後ろにある頭蓋ごと両断した。
 鼻から下だけ残った二つの体が赤い噴水となり、地に崩れ落ちる。
 直後、サイラスは再び声を上げた。

「大盾兵は左右に散開しろ!」

 時間稼ぎにもならないのならば、ラルフの射線を塞がないようにその場からすぐに離れろ、という意味を込めた命令。
 その声が場に響き渡った瞬間、なぜかアランはその場で足を止めた。
 なぜ? という言葉が湧き上がる前に、サイラスの目はその原因を突き止めた。
 いつの間にか、ラルフが構えを変えていたのだ。
 右拳を脇の下に引いた構え。
 左手は真っ直ぐに突き出されており、人差し指と親指の間にある空間でアランの姿を捉えている。
 この構えから放たれる攻撃をアランはよく知っていた。

(この男もあれを、閃光を放つのか!?)

 その魔法の凄まじさを恐怖と共に覚えていた。だから足を止めた。止めてしまったのだ。
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