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第五章 アランの力は留まる事を知らず、全てを巻き込み、魅了していく

第三十六話 選択と結末(7)

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 サイラスが思い出に浸っている間に、兵士達は二度攻撃を行っていた。ラルフも数発撃っている。
 しかし結果は同じ。一発も当たっていない。
 アランはラルフが放った強力な光弾を体捌きで避けながら、兵士達の攻撃を受け流していた。
 アランは無傷のまま先とほぼ同じ位置、そして姿勢で剣を構えている。
 サイラスはそれを眺めた。
 その構えに隙が無いか、作れないかを探るためだ。
 そして、サイラスはアランが目を負傷していることにようやく気が付いた。

(目がちゃんと開かなくなっているようだが……)

 あまりにも見事な防御をするので気が付けなかった。

(薄目でよくそんな動きが出来るものだ)

 サイラスはアランの体捌きを素直に賞賛したが、同時に「これは使える」と判断していた。

(あの様子だと視界がかなり狭くなっているはず)

 サイラスは自身が知る「常識」に従って判断を下していた。
 サイラスはアランが「薄目」で周りを見ていると思っている。
 言うまでも無いがこれは間違いである。しかし、アランが持つ『神秘』のことを知らなければ、こう考えるのが普通なのだ。
 そしてサイラスはその間違いを基本にアランをどう攻めるかを考え、声に出した。

「奴は目を負傷している! 広く展開して、その隙を突け!」

 指示を聞いた兵士達は各々の間隔を広げるように動いた。
 部隊が左右へ伸び、アランを取り囲むように半円の形に変化する。
 中央にいるラルフは動かない。
 兵士の間隔が広がったためか、ラルフの周囲は少し手薄になった。
 そしてそれはラルフのやや後方に控えているサイラスの周りも同様であった。
 対するアランはやはり動かない。
 アランは考えがあって静止しているわけでは無かった。
 アランは『台本』が開くのを待っていた。
 しかし、この場に飛び出してから『台本』はまだ一度も開いていない。
 アランは自身の神秘が弱くなっていることに、『台本』が開きにくくなっていることに気付き始めていた。
『台本』には頼れない、そう思うようになったアランは考えた。

(このまま守っているだけではいつか殺されるだけだ。何とかして攻めないと!)

 飛び道具で反撃しながら勝機を待つべきか、そんな事を考えた瞬間、アランはある事に気付いた。

(……兵士の間隔が広がったということは、隊列の中に切り込みやすくなったということ)

 この思いつきは、今の状態を維持するよりかはいくらかマシに感じられた。

(問題はどこから攻めるかだが……)

 目標は当然大将格。後ろに控えているサイラスだ。
 しかし、最短距離を進むには、目の前にいる強力な魔法使いを突破しなければならない。
 勝利のイメージはある。リックが使っていたあの技で一気に相手の背後に回りこみ、切り伏せるという手だ。
 しかしこの手は、この技は出来るだけ使いたくない。
 なぜなら、

(もし失敗すれば、またあの時のように動けなくなるだろうな)

 確実に成功させる自信が無いからだ。
 初めて使ったあの時は失敗し、さらなる窮地に陥った。そして今回は成功する、なんていう保証も無い。
 だからアランは安全策を取ることにした。

(……やはり正面から突っ込むのは危険か? ここは側面から切り込んで、敵兵士達を盾にしつつ、サイラスに近づくべきか)

 アランがそこまで考えたところで、隊列の変更が終わった兵士達が攻撃を再開した。
 アランに向かって前から、そして側面から多量の光弾が迫る。
 しかし今のアランにとって多面攻撃事態はそれほど脅威では無い。
 そして兵士の数そのものは変わっていないので、間隔が広がったぶん単純に光弾の密度が下がっている。ゆえに先よりも避けやすくなっている。
 迫る攻撃をひらりひらりとかわし、時に流しながら、アランはある一つの光弾に意識を集中させた。
 それは真左から飛んで来ている一つの光弾。
 これを利用しようと考えたアランは、その光弾が来ている方向とは逆の、右のほうへ体の向きを変えた。
 同時に姿勢を低くする。
 後ろから飛んできている、利用しようと考えている光弾を、ある箇所で受け止めるためだ。
 前から飛んでくる光弾を適当に捌きながらその時を待つ。
 そして、ひりひりとした感覚が自身の首筋に走った瞬間、アランは振り返りながら刀を握る左手を勢いよく後ろに引いた。
 直後、

「!」

 兵士達の顔つきが変わった。
 兵士の顔には期待感の色が滲みつつある。
 なぜなら、兵士達の目には光弾がアランの後頭部か側頭部の辺りに炸裂したように見えたからだ。
 光弾を受けたアランは前へ勢い良く倒れつつある。
 兵士達はその傾いた体に狙いを定めた。
 地面に寝そべったところに追撃を叩き込むためだ。
 みな好機だと思っている。これで決着だと。
 しかし、そう思っていない者が、アランがどこで光弾を受けたのかを正確に視認出来ていたものが一人だけいた。
 それはサイラス。
 剣術で鍛えたサイラスの目は捉えていた。アランが柄の底で光弾を受け止めたことを。
 なぜそんな回りくどい防御を? という当然の疑問がサイラスの頭の中に浮かび上がる。
 サイラスの意識はすぐにその答えを導き出した。
 が、それを声に上げることは間に合わなかった。
 サイラスが口を開くよりも早く、アランは狙いを実行した。
 アランは体が地に着く寸前、兵士達の手が再び眩く輝いたのと同時に、右手を下に振り下ろしながら両足に力を込めた。
 だん、という音とともに右手が地面に叩きつけられ、アランの体の落下が止まる。
 そしてアランは足に込めた力を解放し、勢い良く前へ飛び出した。

「!?」

 直後、アランの前方にいる兵士達の顔が驚きの色に変わった。
 倒れると思っていた相手がそうならず、低姿勢の突進を仕掛けてきたからだ。
 アランの狙いはこれ、兵士達の不意を突くことであった。
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