【完結】偽りの花嫁 〜すり替えられた花嫁は冷血王子から身も心も蕩けるほどに溺愛される〜

葉月

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孤児院への慈善事業 ③

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「ユベール様がお元気でいてくださるのが、私は一番嬉しいです。私達のことを忘れず気にかけてくださる優しさが、本当に嬉しいです。ありがとうございます」
 荒れてあかぎれのある手は今も昔も変わらず、僕の後悔を優しく包んでくれる。

「ユベールが殿下にこの孤児院を助けてくれるように、いってくれたんでしょ? ありがとう」
 5歳ぐらいの女の子が言う。
「僕とは口約束だったから、本当に僕との約束を守ってくださった殿下に、感謝すべきなんだよ」

 そうだ。
 言ったのは僕だったけれど、嘘をついた偽物の側室である僕との約束を守ってくださったのは、殿下だ。
 冷酷な人がそんなことできるはずばない。
 今まで、僕は殿下の何を見てきたのだろう……。

「ユベール様、見ていただきたいものがあります」
 牧師様が教会の裏手を指差した。


 教会の裏手には、大きな野菜がたくさんできている畑があった。

 僕がいた頃は土が痩せ、日当たりが悪く、作りたくても野菜はほとんどできなかった。
 なのに今は畑に溢れんばかりの野菜、野菜。 
 種類もたくさんあって、飽きることもなさそうだ。

「この畑の作り方は、殿下が教えてくださりました」
「え?」

 戦いしかしないと言われている殿下が?
 人を殺すことしか興味がないと言われている、殿下が?
 畑仕事をされたの?
 想像ができない。

「畑が痩せていたので、調合した肥料をまき、畑を肥やしてくださり、野菜の上手な育て方を教えてくださりました。この畑は殿下の畑と言っても過言ではありません」 
「殿下の畑……」
 噂の殿下では想像がつかないけれど、今まで僕が見た殿下では想像がつく。

「それにこれを……」
 牧師様から一通の手紙を受け取る。
「宛名を見てください」
 宛名は予想外の人の名前が書かれていた。

ーアレキサンドロスー

 殿下の名前があった。

「これは……」
「ユベール様へのお気持ちが書かれています。お読みになってください」
 手紙を勝手に読むなんて、ダメなことだと思ってる。

 でも殿下が僕のことをどう思って、何を求めているのかがしりたかった。
 封筒から手紙を取り出す。
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