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序章
どこかの研究所
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若い研究員が『愛欲獣』と書かれた資料を手に取る。ファイルを開いて最初から順番に軽く目を通しながらページをめくり、途中でその手を止めた。
[Case.4:黒原=ヘデラ=紅牙]
※本人の別荘にて、経過観察中。
性別:男性
年齢:28歳
職業:画家
誕生日:1月21日
血液型:AB型
身長:184cm
………………
想い人:志ノ田=アングレカム=ユキ
志ノ田=アングレカム=ユキ
性別:男性
年齢:26歳
職業:自営業(ハンドメイドの雑貨屋店主※現在は閉店)
誕生日:3月18日
血液型:A型
身長:179cm
………………
配偶者:七嘉渡=アジュガ=琥珀
【追記】
XXXX年XX月XX日に七嘉渡=アジュガ=琥珀が離婚届を提出。
「彼らがどうかしたのかい?」
若い研究員に、医者で愛欲獣研究の第一人者でもある、眼鏡をかけた中性的な人物が声をかける。
「その……『本人の別荘にて、経過観察中』と書かれていたので……。彼らは我々の研究所に、隔離しなくても良いのですか?」
研究員の問いに、医者は眼鏡を押し上げてから口を開く。
「彼らは特例さ。黒原=べテラ=紅牙君の場合はそっとしておく方が、害がないと判断したんだ」
「しかし……想い人の方はどうなるんですか……? いくら安定している個体とは言え、愛欲獣にいつ喰われるか分からないのに……」
「黒原君の性格的に、こちらが下手に関与すれば犠牲者が出かねないと考え、放っておくのが最善だと判断した。『Case.2』の時のように……大勢の人間が命を落とす事態は避けたいからね……」
「……だから、志ノ田=アングレカム=ユキ一人を犠牲にすると?」
その言葉に医者は少し困ったように小さく笑うと、納得のいかない顔でファイルを握りしめる研究員の肩を優しく叩いた。
「彼らは大丈夫だよ。とても愛し合っているからね。他人から見れば歪な関係でも、本人達が幸せならそれでいいじゃないか。ほら、人の恋路を邪魔する奴はと言うだろう。僕は馬に蹴られたくないからね。君だってそうだろう?」
医者は研究員を宥めるように柔らかい声でそう言った後、出入口までスタスタと歩いていく。
「そろそろ休憩にしないかい? 君はコーヒーか紅茶、どちらが好きだい?」
「……コーヒーが好きです」
「なら、とびきり美味しいコーヒーを淹れてあげるから休憩室においで」
医者は微笑みながら研究員に手招きすると、先に部屋を出る。
研究員は「はい……」と返事をしてから、そっとファイルを閉じた。
[Case.4:黒原=ヘデラ=紅牙]
※本人の別荘にて、経過観察中。
性別:男性
年齢:28歳
職業:画家
誕生日:1月21日
血液型:AB型
身長:184cm
………………
想い人:志ノ田=アングレカム=ユキ
志ノ田=アングレカム=ユキ
性別:男性
年齢:26歳
職業:自営業(ハンドメイドの雑貨屋店主※現在は閉店)
誕生日:3月18日
血液型:A型
身長:179cm
………………
配偶者:七嘉渡=アジュガ=琥珀
【追記】
XXXX年XX月XX日に七嘉渡=アジュガ=琥珀が離婚届を提出。
「彼らがどうかしたのかい?」
若い研究員に、医者で愛欲獣研究の第一人者でもある、眼鏡をかけた中性的な人物が声をかける。
「その……『本人の別荘にて、経過観察中』と書かれていたので……。彼らは我々の研究所に、隔離しなくても良いのですか?」
研究員の問いに、医者は眼鏡を押し上げてから口を開く。
「彼らは特例さ。黒原=べテラ=紅牙君の場合はそっとしておく方が、害がないと判断したんだ」
「しかし……想い人の方はどうなるんですか……? いくら安定している個体とは言え、愛欲獣にいつ喰われるか分からないのに……」
「黒原君の性格的に、こちらが下手に関与すれば犠牲者が出かねないと考え、放っておくのが最善だと判断した。『Case.2』の時のように……大勢の人間が命を落とす事態は避けたいからね……」
「……だから、志ノ田=アングレカム=ユキ一人を犠牲にすると?」
その言葉に医者は少し困ったように小さく笑うと、納得のいかない顔でファイルを握りしめる研究員の肩を優しく叩いた。
「彼らは大丈夫だよ。とても愛し合っているからね。他人から見れば歪な関係でも、本人達が幸せならそれでいいじゃないか。ほら、人の恋路を邪魔する奴はと言うだろう。僕は馬に蹴られたくないからね。君だってそうだろう?」
医者は研究員を宥めるように柔らかい声でそう言った後、出入口までスタスタと歩いていく。
「そろそろ休憩にしないかい? 君はコーヒーか紅茶、どちらが好きだい?」
「……コーヒーが好きです」
「なら、とびきり美味しいコーヒーを淹れてあげるから休憩室においで」
医者は微笑みながら研究員に手招きすると、先に部屋を出る。
研究員は「はい……」と返事をしてから、そっとファイルを閉じた。
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