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第四話
しおりを挟む目の前の綺麗な顔がわずかに歪み、それでも更に奥へと押し付けられた。
内側と外側から押し潰されて、そのかたちがはっきりと分かるほどに。
一番欲しかった、最奥まで。ぶつかる感触が脳髄まで響き渡る。
「……っ、ぃ、イっちゃ、ぅ……!」
「えぇ、いれただけで? 僕のこともちゃんと、気持ち良くしてくれないと」
痙攣する内側などお構いなしに、商人さんのひいた腰が再び奥へと押し付けられた。
一度通った道を確かめるみたいに、先ほどよりも勢いをつけて。
「だ、だめ、いまイって、る、終わってな……っ、う、続いてるの、なんでぇ……っ」
「言ったでしょう、相手の精液をここで受け止めないと、おさまらないって」
「うっ、まって……っ、あぁ、また……っ」
「出してほしい? でも一回じゃなかなかおさまらない気がするなぁ。どれくらいの量でおさまるか、ちゃんと覚えておきましょうね」
「む、りぃ……!」
肌のぶつかる音に、商人さんがくすくすと笑う音が混じる。
それからぐちゅぐちゅと搔きまわされるような水の音に、わたしの嬌声とベッドの軋む音。
媚薬の甘い匂いが消えない。これが消えない限りずっと終わらないのに。
「あーー……、でもそろそろ、僕、も」
ふるりと、目の前でその喉と腹は震えるのを見た気がした。
けれどすぐにそれどころではなくなる。
彼のためのはやさで打ち付けられる腰に、意識がまた持っていかれてしまう。
「よく、覚えておいて、お嬢さん。奥に出されるの、どれだけ気持ち良いか」
そう宣言した通り、商人さんは一番奥で押し付けた腰を震わせた。
注ぎ込まれるその感触にわたしはまた昇り詰めてしまう。
きゅうきゅうと中を締め付けて、商人さんが小さく呻いた。押し付けられて腰はそのまま。
「……っ、ぅ、あ……っ」
「っ、あ~~……効果つっよいな、これ……僕までもってかれちゃうなぁ」
「ま、まって、ほんとうに、中……? 出しちゃった、の?」
「ふ、その言い方かわいいなぁ。出しましたけど?」
「だ、だめ、抜いて……っ」
「でも中で受け止めないと、その衝動はおさまらないよ」
「でも、できちゃ……」
「大丈夫だよ、あとで避妊薬飲ませてあげる。何時間以内だっけかな……その頃には終わってると良いねぇ」
「……っ」
「それだけやったら、もうここでしかイけなくなっちゃうかもね? あとそんな顔も抵抗も男を煽るだけだって、覚えておいた方が良いよ」
「あっ……?!」
「ほらぁ。また大きくなっちゃったでしょ?」
「も、もうむり……!」
「大丈夫、まだいけるよ、僕よりお嬢さんのほうがきついでしょ」
「も、もうおさまりました! だから……っ」
「本当に?」
「……っ」
ぐり、と。中にはいったままだったそれが、体にふたたび火をつける。
それだけであっという間にまたあの衝動に体は侵され、泣き出したくなるくらい目の前の男が欲しくなってしまう。
満足そうに笑う、その男を。
「ほら、おいで」
なんとか必死に抗おうとするも、ぐいと腕をひかれて、彼の上に引き上げられた。
顔が近い。ほんの少しだけ効果がおさまって理性が戻ってきたところに、無駄に綺麗な顔が目の前にあるのは毒でしかない。
あぁ、忘れていた名前まで思い出してしまった。ここで呼ぶのはきっと良くないと本能的に悟り、名前を呼ぶまいとそれだけを胸に誓って。
すべてを見透かしたような瞳が近づいてくる。内側からあふれる衝動と共に。
またすべて塗りつぶされてしまう。こんなはずじゃなかったのに。
「もう戻れないね、お嬢さん」
──その台詞。
どこかで聞いた気がするけれど、やっぱり思い出せなかった。
◇◆◇
目覚めて一番にわたしがやった事といえば、軋む体をひきずってとあるアイテムを取りにいくことだった。
確かあったはず。昨日商人にもらった物のなかに。貴重な薬なので記憶に残っている。
薄いシーツだけ体に巻き付けて床を這うようにして隣の部屋へ向かう。
椅子に置いてあったバッグの中を漁り、目当ての瓶を取り出した。
「あった……!」
瓶のラベルには「記憶操作」の文字。
これも高価な薬だが、一粒だけサービスにとくれた薬が──
ない。
「あれ……?」
「これをお探しで?」
「わぁ!」
すぐ真横から聞こえてきたのは商人さんの声だった。
しかもいつの間にかきっちり衣服も身につけあの胡散臭い丸メガネまでしている。
頭の布は巻いておらず、その白髪だけはそのままで、こうして改めて見ると胸元まである。
そしてその手には探していたものが。
「わっかりやすいですねぇ、お嬢さん」
「な、なんで、さっきまでベッドで寝てませんでした……?!」
「いや~~僕他人とはいっしょに寝られない質なんですよね」
「ね、寝たフリ……?!」
「起きたらお嬢さんがどうするのかなぁって、気になって」
「……っ」
「記憶は消しても、なかった事になりませんよ? しかも一粒だと飲んでから五時間前の分の記憶しか操作できないんですよねぇ」
「……そんな……」
「大丈夫ですよ、べつにお嬢さんをどうこうする気はありませんよ」
信じられない。むしろ記憶を消したいのは自分の方だ。本当にもう全部なかったことにしたい。
失敗した錬成物で他人まで巻き込んでの失態。自分で効果を制御できていない劇薬の生成は違法だ。
何より一番まずいのは、自分で作ったつもりの『解毒薬』が全く効かなかったこと。
そうなると自分は『毒』を作るしかできない錬金術師なわけで、資格剝奪もありえる事態。
「げ、解毒薬を作ったつもりだったんです……! 催淫効果も、それがあれば緩和されると思って……! 念のため自分が作ったもの以外も用意して、それなら効くはずだと思って……! 飲、飲んだらあんなことに……!」
『解毒薬』の効果を確かめたかったのだ。けれど一口で症状が現れだしたと思ったら、保険にと用意していた既製品の解毒薬すら効かず、あげくには『失敗作』の瓶をぶち撒けるという追い打ち。
そこからもう記憶すら覚束ない。けれど忘れることもなかったことにもできない事実。
「ははぁ、なるほど。となると、効果範囲があるみたいですね、厄介だな」
「わ、わたし他に行くところが無いんです……! 通報だけは、どうか……」
「ははっ、通報? 僕が?」
「いま資格をはく奪されると困るんです……!」
「しませんよぉ、昨夜はあくまで〝協力“ですし。合意の上ですよ、僕も効果を知りたかったですしね」
「そ、そうなんです、か……?」
あっけらかんと言うその様子だと、本当に糾弾する様子は窺えない。
首の皮一枚繋がったのだろうか。
「効果は実感できたけど、解毒薬が効かないってのは確かに不良品扱いになりますねぇ。毒を売るなら薬もないと」
「そ、そんな……!」
ただでさえ今の買い取りも一番下のランクなのに……!
しかもしれっと毒物扱いされてしまった……!
「まずはそのスキルをどうにかした方が良いんじゃないかなぁ。手伝ってあげますよ」
「え……」
「専売契約も結んじゃいましたし、お得意さんですからね」
「……」
あやしい。
でもここで下手に断って錬金術師協会に報告されたりでもしたら困る。
それに今のところわたしのスキルを知っているのはこの人だけ。
そのスキルを実感してしまった以上、口外しないよう見張っておきたい気持ちもある。
「じゃ、じゃあ……よろしく、お願いします」
「はやくレベルアップして、バンバン高価な媚薬を卸してくださいね」
「……できれば媚薬以外を作れるようになりたいんですが……」
「ソフィには無理だと思うなぁ」
「え?」
「おっと、なんでもありませんよ、お嬢さん」
物語を下りて、静かにひっそりと暮らしていければそれで良かった。
ここまで来れば物語のキャラクター達は誰も追ってこない。関わらない。ひとりでいい。
そう思っていたのに。
自ら別の物語へと足を踏み込んでいたことに気づくのは、また別のおはなし。
<おわり>
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