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【本編】暗黒騎士
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黒い国の軍勢は白い国の南大門に陣取った。
南エリアが戦場になると判断した上層部はすぐさま市場関係者などを退避させた。
白い国場内にかつての賑わいはなく閑散としている。
両国に動きはなく緊張状態は続いている。
「今のところアイ様についての指示は受けておりません」
「兵士は緊急召集があったけど免除されたよ。館で待機せよだってさ」
「南大門周辺は立ち入り禁止となっておりました。なんでも敵は四人の将校クラスと短期間で頭角を現した暗黒騎士なる将軍が軍勢を指揮しているそうです」
コト、スル、アイがそれぞれ報告し、精神世界から戻ったアイがそれを聞いている。
「黒い国での記憶は曖昧で役に立つかはわからない。ただ、暗黒騎士なる者には心当たりがあるわ」
「アイ様、もしつらいようでしたらムリして話す必要はありません」
すぐさまコトがアイを気遣う。
だがアイは話すべきと決心していた。
「ありがとうコトさん。でもこれは伝えるべきだわ。それにその暗黒騎士はおそらく私の許嫁よ」
「えっ」
場の空気が一気に変わる。
許嫁って…。
「アイ様、では我々にわかるように説明してくださいますか」
「もちろんよ」
私は多くの白い兵士を斬りました。
命令に従わない黒い味方の兵士も斬りました。
そんな私を周囲は恐怖の黒騎士と呼び、敵味方が恐れたらしいです。
バンはそれを聞き、当時を思い出したのか震えている。敵にとってはまさに死神のような存在であったようで、事実、アイは白い国の領土を次々制圧していった。
そんな時、私に縁談が浮上した。
相手は名家で野心家、将来有望のクロスという人物です。
その人こそが暗黒騎士であると私は思います。
「クロス…」
「結婚する相手まで決められるのか」
黒い国に敵意すら感じるスル。
「暗黒騎士がクロスいう人物だとして、その人物は強いのですか」
直球でアイに問うコト。
今知るべき情報はそれだ。
暗黒騎士が相当な手練れだとこの国は危ない。
「正直、どんな強者だろうとこの国の城壁は破れないでしょう。ただ、内通者など城内での裏切りがあれば…」
「コトさん…アイを疑うのですか」
場の空気が一気に悪くなり緊迫した状況となった。
「…アイ様…記憶が戻られたのですね」
「ええ、たぶん戻ったと思うわ」
なんともいえぬ二人から感じるプレッシャー。
一触即発のようだ。
アイは表情を崩さず笑み交じりで嘘偽りないように思える。
コトはそんなアイを信じているようだが、攻めてきた騎士が許嫁と聞いた以上はそうもいかない。
「失礼ですがお聞きしたい…」
「違うわ」
お互いに言いたいことが意志疎通できているようで会話が最小限である。
二人以外はこの緊張感のある場に疲弊している。
アイとコトが戦うのか。
その不安だけが先行している。
「クロスは…」
「アイ様、申し訳ありません。これ以上はやめましょう」
言い過ぎた、出過ぎたと謝罪するコトであったが、アイは丘の戦いの事話すべきと決心していた。
つらい過去の傷をエグるようだが、これは乗り越えなくてはならないアイにとっての壁である。
今後もみんなで生活したい。
その想いがアイを動かしていた。
「大丈夫よコトさん。クロスは許嫁だったけど決別したの」
「…よかった…」
スルの心の声がおもわずこぼれる。
「丘の戦いで戦場を洪水で流したのは私たちなの」
「…」
一同が驚いた。
アイの神妙な面持ちから事情があったのだろうと皆が察する。
「争いをとめようと貯水池の決壊を思いついたのだけど…できなかった…」
アイは震えている。
ぎゅっと拳をにぎりしめている。
そんなアイをスルはそっと抱き締める。
「何故か…なんでかわからないけど…あの時は…多くの人名を救いたかった…父が討たれて初めて命の重みを知ったの…だけど…だけど遅かった…」
涙で顔はグシャグシャだ。
スルに抱き締められているが身体の震えは止まらない。
「管理者とクロスが爆破物を設置したので止めたの。私は…」
「アイ様もう十分です。ここは懺悔の場ではありません。私たちは信じます。私をお許しください」
跪くコト。
緊張感のある場が和らぎ、みんなひと安心だ。
「クロスは危険よ。目的のためならどんな事でするわ」
「わかった。アイ、つらい過去を話してくれてありがとう」
アイとスルを残し、皆は解散した。
震えは止まり落ち着いてきたアイ。
「…スル、聞いてほしいの…」
「ん」
「私は多くの命を奪ってきた」
「アイ、それは…」
「いいの、情け容赦のない人間だったのよ。奪った多くの魂に私の身体は破壊され記憶も失った。それは今までしてきたことの罰であり、私はそれを背負っていかなければならないの。でもまだ私は生きているわ。これから自分に素直に正直に生きたい」
スルの手を握り自分の想いを伝える。
スルは真剣な眼差しでアイを見つめる。
「ずっと一緒だよ。約束する」
その言葉にアイは涙した。
この感情は一体何なの。
嬉し泣きなのかよくわからない。
ただ、私は大切にされている。
愛されている。
それを感じていた。
アイはスルを優しく抱き締めた。
そこは二人だけの時間が流れていた。
コトはその様子をみて安心したようだ。
そうこうしているうちに外が騒がしくなった。
ついに戦いが始まったようだ。
コトはバンたちに様子をみてくるよう指示した。
「外が騒がしい。ついに始まったか」
「私も…戦う。白黒とかではなくて自分の居場所を守るため、家族を守るため」
その瞬間、突如爆発音が響く。
北エリアの方向だ。
南エリアが戦場になると判断した上層部はすぐさま市場関係者などを退避させた。
白い国場内にかつての賑わいはなく閑散としている。
両国に動きはなく緊張状態は続いている。
「今のところアイ様についての指示は受けておりません」
「兵士は緊急召集があったけど免除されたよ。館で待機せよだってさ」
「南大門周辺は立ち入り禁止となっておりました。なんでも敵は四人の将校クラスと短期間で頭角を現した暗黒騎士なる将軍が軍勢を指揮しているそうです」
コト、スル、アイがそれぞれ報告し、精神世界から戻ったアイがそれを聞いている。
「黒い国での記憶は曖昧で役に立つかはわからない。ただ、暗黒騎士なる者には心当たりがあるわ」
「アイ様、もしつらいようでしたらムリして話す必要はありません」
すぐさまコトがアイを気遣う。
だがアイは話すべきと決心していた。
「ありがとうコトさん。でもこれは伝えるべきだわ。それにその暗黒騎士はおそらく私の許嫁よ」
「えっ」
場の空気が一気に変わる。
許嫁って…。
「アイ様、では我々にわかるように説明してくださいますか」
「もちろんよ」
私は多くの白い兵士を斬りました。
命令に従わない黒い味方の兵士も斬りました。
そんな私を周囲は恐怖の黒騎士と呼び、敵味方が恐れたらしいです。
バンはそれを聞き、当時を思い出したのか震えている。敵にとってはまさに死神のような存在であったようで、事実、アイは白い国の領土を次々制圧していった。
そんな時、私に縁談が浮上した。
相手は名家で野心家、将来有望のクロスという人物です。
その人こそが暗黒騎士であると私は思います。
「クロス…」
「結婚する相手まで決められるのか」
黒い国に敵意すら感じるスル。
「暗黒騎士がクロスいう人物だとして、その人物は強いのですか」
直球でアイに問うコト。
今知るべき情報はそれだ。
暗黒騎士が相当な手練れだとこの国は危ない。
「正直、どんな強者だろうとこの国の城壁は破れないでしょう。ただ、内通者など城内での裏切りがあれば…」
「コトさん…アイを疑うのですか」
場の空気が一気に悪くなり緊迫した状況となった。
「…アイ様…記憶が戻られたのですね」
「ええ、たぶん戻ったと思うわ」
なんともいえぬ二人から感じるプレッシャー。
一触即発のようだ。
アイは表情を崩さず笑み交じりで嘘偽りないように思える。
コトはそんなアイを信じているようだが、攻めてきた騎士が許嫁と聞いた以上はそうもいかない。
「失礼ですがお聞きしたい…」
「違うわ」
お互いに言いたいことが意志疎通できているようで会話が最小限である。
二人以外はこの緊張感のある場に疲弊している。
アイとコトが戦うのか。
その不安だけが先行している。
「クロスは…」
「アイ様、申し訳ありません。これ以上はやめましょう」
言い過ぎた、出過ぎたと謝罪するコトであったが、アイは丘の戦いの事話すべきと決心していた。
つらい過去の傷をエグるようだが、これは乗り越えなくてはならないアイにとっての壁である。
今後もみんなで生活したい。
その想いがアイを動かしていた。
「大丈夫よコトさん。クロスは許嫁だったけど決別したの」
「…よかった…」
スルの心の声がおもわずこぼれる。
「丘の戦いで戦場を洪水で流したのは私たちなの」
「…」
一同が驚いた。
アイの神妙な面持ちから事情があったのだろうと皆が察する。
「争いをとめようと貯水池の決壊を思いついたのだけど…できなかった…」
アイは震えている。
ぎゅっと拳をにぎりしめている。
そんなアイをスルはそっと抱き締める。
「何故か…なんでかわからないけど…あの時は…多くの人名を救いたかった…父が討たれて初めて命の重みを知ったの…だけど…だけど遅かった…」
涙で顔はグシャグシャだ。
スルに抱き締められているが身体の震えは止まらない。
「管理者とクロスが爆破物を設置したので止めたの。私は…」
「アイ様もう十分です。ここは懺悔の場ではありません。私たちは信じます。私をお許しください」
跪くコト。
緊張感のある場が和らぎ、みんなひと安心だ。
「クロスは危険よ。目的のためならどんな事でするわ」
「わかった。アイ、つらい過去を話してくれてありがとう」
アイとスルを残し、皆は解散した。
震えは止まり落ち着いてきたアイ。
「…スル、聞いてほしいの…」
「ん」
「私は多くの命を奪ってきた」
「アイ、それは…」
「いいの、情け容赦のない人間だったのよ。奪った多くの魂に私の身体は破壊され記憶も失った。それは今までしてきたことの罰であり、私はそれを背負っていかなければならないの。でもまだ私は生きているわ。これから自分に素直に正直に生きたい」
スルの手を握り自分の想いを伝える。
スルは真剣な眼差しでアイを見つめる。
「ずっと一緒だよ。約束する」
その言葉にアイは涙した。
この感情は一体何なの。
嬉し泣きなのかよくわからない。
ただ、私は大切にされている。
愛されている。
それを感じていた。
アイはスルを優しく抱き締めた。
そこは二人だけの時間が流れていた。
コトはその様子をみて安心したようだ。
そうこうしているうちに外が騒がしくなった。
ついに戦いが始まったようだ。
コトはバンたちに様子をみてくるよう指示した。
「外が騒がしい。ついに始まったか」
「私も…戦う。白黒とかではなくて自分の居場所を守るため、家族を守るため」
その瞬間、突如爆発音が響く。
北エリアの方向だ。
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