ぐるりぐるりと

安田 景壹

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第四章

ハサミ女 13

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「穂結君もいつでも変身出来るようにしておいてね。ひょっとすると、ちょっと面倒な事になるかもだから」
 言われて、煌津は鞄の中から『変身』と書かれたビデオを取り出した。
 どこからともなく、キャスターのついた大きな機械が運ばれてきた。全長二メートルくらいはあるだろうか。何の機械はわからないが、プロジェクターのようなレンズがついている。
「これは記憶媒体系の呪物を再生するための機械だ」
 右側の鈴木が言った。スクリーンのカーテンが開いていく。
「今から、これを再生する」
 そう言いながら、左側の佐藤が手に持ったジュラルミンケースを掲げる。パカっと、蓋が開く。中には何らかの装置が内臓されており、その中心に、白いビデオテープがあった。
「あれは……先生に憑りついていた白い腕のビデオ?」
「そう。あの中には先生を呪ったモノの手がかりが含まれているはず。ハサミ女の居所とか、先生を襲った際の念だとかね」
 那美が説明している間にも、鈴木と佐藤がテキパキと準備を進めていく。黒い手袋をした手で、佐藤が白いビデオを取り出し、プロジェクターに入れる。再生ボタンが押され、レンズから光が放たれる。劇場の照明が暗くなっていく。煌津は自然と身が固くなった。今から見るのは映画ではない。本物の呪いのビデオだ。
 ――……映像が乱れる。呻き声のようなノイズが入る。
『嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ』
『嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ』
 床に臥せった男の人が呻いている。床は一面真っ赤な血で汚れている。カメラの角度が正面から斜め、また正面と次々と移り変わっていく。斑点のような黒い染みが、ところどころに映る。
 嫌な感触が胸の中に広がる。
『ひっ……っ、ぐす、ぅ、っ、あ、ああああぁ』
 誰かが泣いている。黒い長髪に指を入れて掻き乱している。女の子だ。いや、たぶんあれは、煌津よりも年上だろう。
『嫌、嫌、嫌、嫌――』
 女の子が泣いている。煌津は喉に指がかかっているような気がした。胸が締め付けられる、どころではない。この映像を見ていたら、殺される――……
『いつでもいいよ。イネの好きなタイミングでいい。ゆっくりやっていこう? ね?』
 それまでとは打って変わって優しい声が聞こえた。
 画面には、見覚えのある顔が映っている。
「柳田先生……?」
 ノイズが走り、画面はすぐに不鮮明になってしまう。
 頭痛がする。意識をしっかり持たないと、どこかに吹っ飛ばされそうだ。
『存分にやる――と――いいよ。十年前のよ――うに。狙っ――』
 いつの間にか、画面が変わっている。今しがたの黒い髪の女の子が床に、切り離した長髪の残骸を落とす。ノイズがひどい。音が途切れ途切れだ。
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