66 / 100
第四章
ハサミ女 5
しおりを挟む
急に起き上がると、体がばきばきと痛んだ。全身を継ぎ接ぎにされているかのような不安定な感触。だが、不思議な事に、怪我をしたであろう腕や太腿に包帯は巻かれていなかった。
周囲を見回す。どうやら、病室らしい。室内の電灯はついておらず、カーテンの隙間から月明りが差し込んでいる。部屋にはほかにベッドもなく、個室のようだ。
「起きた?」
「うわあっ!?」
全く気配を感じなかったのだが、煌津のベッドの傍にあった椅子に座って、頭や腕に包帯を巻いた那美がスマートフォンをいじっていた。巫女装束ではなく、私服だ。髪も銀髪に戻っている。
「九宇時さん、何でここに……」
「眠れないから、こっちで番でもしてようかと思ってね。今、式神も呼べないし。襲ってくるなら、まとめて返り討ちにしたほうが楽だし」
いつの間に取り出したのか、リボルバーを片手でくるくると回して那美は言う。
「全然気付かなかった」
「ああ。普段から術で気配を薄めているから。ほら、学校とかで目立つと退魔屋の活動に支障が出るでしょ。面倒くさくてね」
「それで学校でも見つけられなかったのか……」
「センサーの問題だから。同業者とかには効かないけどね」
何でもない事のように、那美は言う。
「……ていうか、その怪我」
「ハサミ女にやられた。呪力で斬られたから魔力の循環がおかしくなっている」
「いや、その、痛いとかは……」
「ああ、そういう」
那美は少し笑った。
「まあ痛いは痛いけどね。魔力の循環さえ元通りになればすぐに治るよ」
「そういうものなの……?」
「現に穂結君の体が、そうやって治っているでしょ」
煌津は入院着をまくって、自分の腹を見た。ハサミ女のハサミが突き刺さったはずなのに、うっすら線が見える程度だ。
「難波さんの店で起こった事は、地下ガスが漏れた事故として処理されている。この病院は霊障関係の被害者も扱うところだから、難波さんたちも、柳田先生もここに入院している。穂結君のご両親も来ていたけど、体に異常はないから一日入院って事で説明してあるって」
「そうか。それなら、いいんだけど。……千恵里ちゃんは?」
「ご両親についてきているね。気配がする。この病院の中なら安全だよ。結界が張ってあるからね」
「先生は?」
「眠っている。穢れは取り除いたから、あとは回復待ち」
スマートフォンを仕舞い、那美は煌津に向き直る。
「いくつか聞きたい事があるんだけど」
「……えーと、どれから」
「ビデオ」
那美の目が煌津のベッドの傍に置かれたショルダーバッグに向けられる。煌津はバッグを手に取り、チャックを開いて中身を取り出した。
周囲を見回す。どうやら、病室らしい。室内の電灯はついておらず、カーテンの隙間から月明りが差し込んでいる。部屋にはほかにベッドもなく、個室のようだ。
「起きた?」
「うわあっ!?」
全く気配を感じなかったのだが、煌津のベッドの傍にあった椅子に座って、頭や腕に包帯を巻いた那美がスマートフォンをいじっていた。巫女装束ではなく、私服だ。髪も銀髪に戻っている。
「九宇時さん、何でここに……」
「眠れないから、こっちで番でもしてようかと思ってね。今、式神も呼べないし。襲ってくるなら、まとめて返り討ちにしたほうが楽だし」
いつの間に取り出したのか、リボルバーを片手でくるくると回して那美は言う。
「全然気付かなかった」
「ああ。普段から術で気配を薄めているから。ほら、学校とかで目立つと退魔屋の活動に支障が出るでしょ。面倒くさくてね」
「それで学校でも見つけられなかったのか……」
「センサーの問題だから。同業者とかには効かないけどね」
何でもない事のように、那美は言う。
「……ていうか、その怪我」
「ハサミ女にやられた。呪力で斬られたから魔力の循環がおかしくなっている」
「いや、その、痛いとかは……」
「ああ、そういう」
那美は少し笑った。
「まあ痛いは痛いけどね。魔力の循環さえ元通りになればすぐに治るよ」
「そういうものなの……?」
「現に穂結君の体が、そうやって治っているでしょ」
煌津は入院着をまくって、自分の腹を見た。ハサミ女のハサミが突き刺さったはずなのに、うっすら線が見える程度だ。
「難波さんの店で起こった事は、地下ガスが漏れた事故として処理されている。この病院は霊障関係の被害者も扱うところだから、難波さんたちも、柳田先生もここに入院している。穂結君のご両親も来ていたけど、体に異常はないから一日入院って事で説明してあるって」
「そうか。それなら、いいんだけど。……千恵里ちゃんは?」
「ご両親についてきているね。気配がする。この病院の中なら安全だよ。結界が張ってあるからね」
「先生は?」
「眠っている。穢れは取り除いたから、あとは回復待ち」
スマートフォンを仕舞い、那美は煌津に向き直る。
「いくつか聞きたい事があるんだけど」
「……えーと、どれから」
「ビデオ」
那美の目が煌津のベッドの傍に置かれたショルダーバッグに向けられる。煌津はバッグを手に取り、チャックを開いて中身を取り出した。
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

第一機動部隊
桑名 裕輝
歴史・時代
突如アメリカ軍陸上攻撃機によって帝都が壊滅的損害を受けた後に宣戦布告を受けた大日本帝国。
祖国のため、そして愛する者のため大日本帝国の精鋭である第一機動部隊が米国太平洋艦隊重要拠点グアムを叩く。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる