ぐるりぐるりと

安田 景壹

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第四章

ハサミ女 5

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 急に起き上がると、体がばきばきと痛んだ。全身を継ぎ接ぎにされているかのような不安定な感触。だが、不思議な事に、怪我をしたであろう腕や太腿に包帯は巻かれていなかった。
 周囲を見回す。どうやら、病室らしい。室内の電灯はついておらず、カーテンの隙間から月明りが差し込んでいる。部屋にはほかにベッドもなく、個室のようだ。
「起きた?」
「うわあっ!?」
 全く気配を感じなかったのだが、煌津のベッドの傍にあった椅子に座って、頭や腕に包帯を巻いた那美がスマートフォンをいじっていた。巫女装束ではなく、私服だ。髪も銀髪に戻っている。
「九宇時さん、何でここに……」
「眠れないから、こっちで番でもしてようかと思ってね。今、式神も呼べないし。襲ってくるなら、まとめて返り討ちにしたほうが楽だし」
 いつの間に取り出したのか、リボルバーを片手でくるくると回して那美は言う。
「全然気付かなかった」
「ああ。普段から術で気配を薄めているから。ほら、学校とかで目立つと退魔屋の活動に支障が出るでしょ。面倒くさくてね」
「それで学校でも見つけられなかったのか……」
「センサーの問題だから。同業者とかには効かないけどね」
  何でもない事のように、那美は言う。
「……ていうか、その怪我」
「ハサミ女にやられた。呪力で斬られたから魔力の循環がおかしくなっている」
「いや、その、痛いとかは……」
「ああ、そういう」
 那美は少し笑った。
「まあ痛いは痛いけどね。魔力の循環さえ元通りになればすぐに治るよ」
「そういうものなの……?」
「現に穂結君の体が、そうやって治っているでしょ」
 煌津は入院着をまくって、自分の腹を見た。ハサミ女のハサミが突き刺さったはずなのに、うっすら線が見える程度だ。
「難波さんの店で起こった事は、地下ガスが漏れた事故として処理されている。この病院は霊障関係の被害者も扱うところだから、難波さんたちも、柳田先生もここに入院している。穂結君のご両親も来ていたけど、体に異常はないから一日入院って事で説明してあるって」
「そうか。それなら、いいんだけど。……千恵里ちゃんは?」
「ご両親についてきているね。気配がする。この病院の中なら安全だよ。結界が張ってあるからね」
「先生は?」
「眠っている。穢れは取り除いたから、あとは回復待ち」
 スマートフォンを仕舞い、那美は煌津に向き直る。
「いくつか聞きたい事があるんだけど」
「……えーと、どれから」
「ビデオ」
 那美の目が煌津のベッドの傍に置かれたショルダーバッグに向けられる。煌津はバッグを手に取り、チャックを開いて中身を取り出した。
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