13 / 100
第一章
カンナギ・ガンスリンガー 10
しおりを挟む
「何で助けてくれなかったの?何で助けてくれなかったの?何で助けてくれなかったの?何で助けてくれなかったの?何で助けてくれなかったの?何で助けてくれなかったの?」
囁きが脳に染み込んでくる。頭が割れる。こんなのを聞いていたら。全身が、重い。床に押さえつけられながらスマホを探す。あった。窓の下だ。そう遠くではないが、手が届くかどうか……!
「何で助けてくれなかったの?何で助けてくれなかったの?何で助けてくれなかったの?何で助けてくれなかったの?何で助けてくれなかったの?何で助けてくれなかったの?」
スマホに手を伸ばす。もう少し、もう少しで届きそうだ……。
伸ばした右手が血の通っていない灰褐色の手に掴まれる。呪呪呪呪呪呪呪。体温が下がる。思考が深い闇に堕ちていく。穢れ。魂も身体も穢される。
ガタガタと、音が聞こえる。誰かが理科準備室の引き戸を開けようとしているのか……。駄目だ。もし入ってきてしまったら、その人も悪霊に……。
――――りぃん。りぃん。りぃん。
鈴の音が聞こえる。準備室中に響いている。清らかな、鈴の音。
「あああああぁああがあああ」
悪霊が絶叫を上げる。鈴の音が響き続ける。ふっと体が軽くなった。悪霊が煌津から離れたのだ。
「今だ!」
床に転がったスマホを掴み、ロックを解除。ネットにはつながっている。検索エンジンを立ち上げ、マイクボタンを押す。
「般若心経!」
検索結果に表示された動画を最大ボリュームにして再生する。
『まかーはらみたーはんにゃーしんぎょー』
どこかのお寺で撮影された般若心経の読経動画が爆音で流れ出す。黒髪を振り乱し、悪霊がのたうち回る。
「何で何で何で何で何で何で何で何で何でぇえええええ」
『しゃーりーしーぜーしょーほうくうそー』
――――りぃん。りぃん。りぃん。
悪霊の絶叫が木霊する。理科準備室の棚が、窓が、器具が震えている。
「ぎゃあああああああ!」
雄叫びを残して、部屋中の震えが止まる。同時に鈴の音も止んでいた。
「はあ、はあ、倒した……」
体中が異様に重い。呼吸も整わない。汗もそこかしこから噴き出している。だが、何とか歩けそうだ。重たい体を引き摺りながら、戸のところまで行き、椅子をどかす。
「ほ、保健室に……」
休まなければ。歩くのもきつい。戸を開けると、誰かがすぐそこに立っていた。女子生徒。校章の縁の色からして同じ学年だ。それに……銀髪。
「君は……」
言いかけたところで意識が遠のいていく。
「お疲れ」
端的過ぎる労いの言葉が聞こえたところで、煌津の意識は途切れた。
囁きが脳に染み込んでくる。頭が割れる。こんなのを聞いていたら。全身が、重い。床に押さえつけられながらスマホを探す。あった。窓の下だ。そう遠くではないが、手が届くかどうか……!
「何で助けてくれなかったの?何で助けてくれなかったの?何で助けてくれなかったの?何で助けてくれなかったの?何で助けてくれなかったの?何で助けてくれなかったの?」
スマホに手を伸ばす。もう少し、もう少しで届きそうだ……。
伸ばした右手が血の通っていない灰褐色の手に掴まれる。呪呪呪呪呪呪呪。体温が下がる。思考が深い闇に堕ちていく。穢れ。魂も身体も穢される。
ガタガタと、音が聞こえる。誰かが理科準備室の引き戸を開けようとしているのか……。駄目だ。もし入ってきてしまったら、その人も悪霊に……。
――――りぃん。りぃん。りぃん。
鈴の音が聞こえる。準備室中に響いている。清らかな、鈴の音。
「あああああぁああがあああ」
悪霊が絶叫を上げる。鈴の音が響き続ける。ふっと体が軽くなった。悪霊が煌津から離れたのだ。
「今だ!」
床に転がったスマホを掴み、ロックを解除。ネットにはつながっている。検索エンジンを立ち上げ、マイクボタンを押す。
「般若心経!」
検索結果に表示された動画を最大ボリュームにして再生する。
『まかーはらみたーはんにゃーしんぎょー』
どこかのお寺で撮影された般若心経の読経動画が爆音で流れ出す。黒髪を振り乱し、悪霊がのたうち回る。
「何で何で何で何で何で何で何で何で何でぇえええええ」
『しゃーりーしーぜーしょーほうくうそー』
――――りぃん。りぃん。りぃん。
悪霊の絶叫が木霊する。理科準備室の棚が、窓が、器具が震えている。
「ぎゃあああああああ!」
雄叫びを残して、部屋中の震えが止まる。同時に鈴の音も止んでいた。
「はあ、はあ、倒した……」
体中が異様に重い。呼吸も整わない。汗もそこかしこから噴き出している。だが、何とか歩けそうだ。重たい体を引き摺りながら、戸のところまで行き、椅子をどかす。
「ほ、保健室に……」
休まなければ。歩くのもきつい。戸を開けると、誰かがすぐそこに立っていた。女子生徒。校章の縁の色からして同じ学年だ。それに……銀髪。
「君は……」
言いかけたところで意識が遠のいていく。
「お疲れ」
端的過ぎる労いの言葉が聞こえたところで、煌津の意識は途切れた。
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説
【THE TRANSCEND-MEN】 ー超越せし者達ー
タツマゲドン
SF
約138億年前、宇宙が生まれた。
約38億年前、地球で「生物」が誕生し長い年月を掛けて「進化」し始めた。
約600万年前、「知識」と「感情」を持つ「人類」が誕生した。
人類は更にそれらを磨いた。
だが人類には別の「変化」が起こっていた。
新素粒子「エネリオン」「インフォーミオン」
新物質「ユニバーシウム」
新兵器「トランセンド・マン」
21世紀、これらの発見は人類史に革命を起こし、科学技術を大いに発展させた。
「それ」は「見え」ない、「聞こえ」ない、「嗅げ」ない、「味わえ」ない、「触れ」られない。
しかし確実に「そこ」にあり「感じる」事が出来る。
時は「地球暦」0017年、前世紀の「第三次世界大戦」により人類の総人口は10億人にまで激減し、「地球管理組織」なる組織が荒廃した世界の実権を握っていた。
だがそれに反抗する者達も現れた。
「管理」か「自由」か、2つに分かれた人類はまたしても戦いを繰り広げていた。
戦争の最中、1人の少年が居た。
彼には一切の記憶が無かった。
彼には人類を超える「力」があった。
彼には人類にある筈の「感情」が無かった。
「地球管理組織」も、反抗する者達も、彼を巡って動き出す。
しかし誰も知らない。
正体を、目的を、世界を変える力がある事も。
「超越」せよ。
その先に「真実」がある。
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
金沢ひがし茶屋街 雨天様のお茶屋敷
河野美姫
キャラ文芸
古都・金沢、加賀百万石の城下町のお茶屋街で巡り会う、不思議なご縁。
雨の神様がもてなす甘味処。
祖母を亡くしたばかりの大学生のひかりは、ひとりで金沢にある祖母の家を訪れ、祖母と何度も足を運んだひがし茶屋街で銀髪の青年と出会う。
彼は、このひがし茶屋街に棲む神様で、自身が守る屋敷にやって来た者たちの傷ついた心を癒やしているのだと言う。
心の拠り所を失くしたばかりのひかりは、意図せずにその屋敷で過ごすことになってしまいーー?
神様と双子の狐の神使、そしてひとりの女子大生が紡ぐ、ひと夏の優しい物語。
アルファポリス 2021/12/22~2022/1/21
※こちらの作品はノベマ!様・エブリスタ様でも公開中(完結済)です。
(2019年に書いた作品をブラッシュアップしています)
獣耳男子と恋人契約
花宵
キャラ文芸
私立聖蘭学園に通う一条桜は、いじめに耐え、ただ淡々と流される日々を送っていた。そんなある日、たまたまいじめの現場を目撃したイケメン転校生の結城コハクに助けられる。
怪我の手当のため連れて行かれた保健室で、桜はコハクの意外な秘密を知ってしまう。その秘密が外部にバレるのを防ぐため協力して欲しいと言われ、恋人契約を結ぶことに。
お互いの利益のために始めた恋人契約のはずなのに、何故かコハクは桜を溺愛。でもそれには理由があって……運命に翻弄されながら、無くした青春を少しずつ取り戻す物語です。
現代の学園を舞台に、ファンタジー、恋愛、コメディー、シリアスと色んなものを詰めこんだ作品です。人外キャラクターが多数登場しますので、苦手な方はご注意下さい。
イラストはハルソラさんに描いて頂きました。
★マークは過激描写があります。
小説家になろうとマグネットでも掲載中です。
俺と彼女は捻くれた青春にその意義を追い求める。
のみかん
キャラ文芸
人は彼を『渡り鳥』と、そう呼んだ……(嘘)。
十六年間の人生の中で、幼稚園三つ小学校三つ中学校三つとメジャーリーグばりの移籍を繰り返してきた小鳥遊泰正は、父親の海外赴任をきっかけに定住の地を手に入れる。
しかし、新たな家から、新たな高校に通う日の朝、彼は出会ってしまった。
隣の部屋に住む銀髪碧眼の引きこもり、偶然にも同じ苗字を持った少女……小鳥遊由海という同級生に。
配達人~奇跡を届ける少年~
禎祥
キャラ文芸
伝えたい想いはありませんか――?
その廃墟のポストに手紙を入れると、どこにでも届けてくれるという。住所のないホームレス、名前も知らない相手、ダムに沈んだ町、天国にすら…。
そんな怪しい噂を聞いた夏樹は、ある人物へと手紙を書いてそのポストへ投函する。そこに込めたのは、ただ純粋な「助けて」という願い。
これは、配達人と呼ばれる少年が巻き起こす奇跡の物語。
表紙画像は毒みるくさん(@poistmil)よりいただきましたFAの香月を使わせていただきました(*´∇`*)
ありがとうございます!
※ツギクルさんにも投稿してます。
第三回ツギクル小説大賞にて優秀賞をいただきました!応援ありがとうございます(=゚ω゚=)ノシ
薔薇の耽血(バラのたんけつ)
碧野葉菜
キャラ文芸
ある朝、萌木穏花は薔薇を吐いた——。
不治の奇病、“棘病(いばらびょう)”。
その病の進行を食い止める方法は、吸血族に血を吸い取ってもらうこと。
クラスメイトに淡い恋心を抱きながらも、冷徹な吸血族、黒川美汪の言いなりになる日々。
その病を、完治させる手段とは?
(どうして私、こんなことしなきゃ、生きられないの)
狂おしく求める美汪の真意と、棘病と吸血族にまつわる闇の歴史とは…?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる