ぐるりぐるりと

安田 景壹

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第一章

カンナギ・ガンスリンガー 11

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 九宇時と一緒に帰って初めて幽霊を見たあの日から、煌津は時々、幽霊が見えるようになってしまった。

 見ようとして見るわけではない。気付くようになったというのが、より実情に近いか。とにかく、道端であれ、学校であれ、煌津は彼らの存在を認知出来るようになった。

 たいていの場合、幽霊側は何も仕掛けてはこないが、たまにこちらが見える人間である事に気が付くと干渉してくる奴もいる。その中には、九宇時が言っていたような『ちょっとヤバめの奴』もいる。例えば、朝の青いスニーカーはヤバめのほうだろう。首の捩じれた女は、言うまでもない。

「……っ。うーん……」

 ようやく水面に浮上したかのような感覚で、煌津は目を覚ました。真っ白い天井が見え、ついで、ここがカーテンで覆われた一画である事をぼんやり理解する。

 ベッドの上だ。どうやら保健室に運ばれたらしい。

 悪い意味で強めの幽霊を見るとこれだ。ひどい風邪でも引いたかのような体調不良。何日か寝込む事もある。

「気持ち悪い……」

 胸の中にむかつきがある。何かの拍子に吐いてしまうかもしれない。

「お、起きた?」

 カーテンが開いて、保健室の先生が顔を出した。

「聞いたよ。寝不足だって? 駄目じゃない。そんなぶっ倒れるまで夜更かししちゃあ」

 きっと睨まれると、寝不足は方便だと言い訳も出来ない。すみません、と小さく答える。

「……ま、今日はもう帰ったほうがいいよ。起きられる?」

「あ、はい」

「一人で帰れそう?」

「大丈夫です」

「そう。担任の先生には私から言っておくから」

 頷いて、煌津はベッドを出た。

 広い保健室には煌津と先生のほかは誰もいないようだ。薬品の匂いが心地良かった。

「すごい顔してるよ。ホントに大丈夫?」

「え、あ、はい。平気です。家も近いですし」

「そう? 何だか寝不足って言うより……」

 一瞬、先生の目がこちらを探るように見えたのは気のせいだろうか。

「幽霊でも見たって顔してる」

「え……?」

「いやあ、保健室来る子の中にはいるんだよ。幽霊見たせいで気持ち悪くなったって子がさ。この学校は特に多いね。君もそう?」

「いや、あの、俺は……」

「そういえば、あんまり見ない顔だけど、もしかしてこの間入ってきた転校生君? 私は保健の柳田やなぎだだよ。よろしくね」

「あ……よろしくお願いします」

「うん。よろしくね。十代は色々見えてしまう時期だけど、仮に君が何か妙な物を見たって言っても私は信じるよ。見えない人も見える人もいるからね」

 柳田先生の喋りは、何というか結構量が多い。しかし、最後のほうはちょっと妙な話しぶりだ。

「もしかして、先生も見えるんです? その、幽霊」

「私? あーいやいや私は見えない。見た事もないし、見たいとも思わない。ホラー苦手だもの」

「あ……俺も、です」

「あははは。じゃあ幽霊なんか見ちゃったら大変だ。倒れるくらいじゃすまないね」

「はははは……」

 何と言っていいやら、煌津は合わせて笑った。

「でも、これは以前保健室に来た子が言っていたんだけど」

 何でもないような口調で、柳田先生は言った。

「心霊現象ってのは、実際問題、身近なものなんだって」

「え」

 それまでの不調など、一瞬忘れてしまった。

「それ、あの、九宇時……」

 言葉が詰まってしまう。少し、動揺している。

「九宇時那岐……」
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