二度転生した最強賢者はスローライフを送りたい〜今世ではダラダラ生きたいので実力を隠したら追放されました〜

25

ある日のアーガス領、俺は領主として忙しい日々を送っていた。


「ふう……疲れたな」


俺はため息をつくと執務室の椅子に腰掛けた。机の上には大量の書類が置かれている。俺はそれらを一つずつ処理していくことにした……しかし、どれも簡単なものではないため、作業はなかなか進まない。


（今日も徹夜か……）


そう思いつつも手を止めることはなかった。黙々と作業を続けて数時間後、ようやく終わりが見えてきた。


（あと少しだ……頑張ろう）


自分に喝を入れて再び手を動かす。そんな時だった……コンコンというノックの音が聞こえてくる。


「どうぞ」


俺が返事をすると一人の少女が部屋に入ってきた。彼女は俺の前に来るとペコリと頭を下げる。


「お疲れ様です、お茶をお持ちしました」


彼女の名前はリリィという少女で、メイドとして働いてもらっている。年齢は10歳くらいでまだ幼いが、とても優秀な人材だ。


「ありがとう、そこに置いといてくれ」


俺は机を指差しながら言った。すると彼女は小さく頷いて机の上にカップを置く。そして再び頭を下げた後、部屋から出ていった。


（さて続きをやるか……）


俺は気合いを入れると作業を再開した。そして数時間後、ようやく全ての仕事を終わらせることができたのだ。


「やっと終わった……」


俺は呟くと大きく伸びをする。身体の節々からポキポキという音が聞こえてきた。


（さすがに疲れたな……）


俺は苦笑しながら立ち上がると部屋を出た。そして屋敷の中にある寝室へと向かうことにする……その道中、窓の外を見ると綺麗な月が見えた。


（綺麗だな……）


そんなことを思いながら廊下を歩いていると、背後から声をかけられた。振り返るとそこにいたのはリリィだった。彼女は微笑みながら言う。


「お疲れのようですね」


彼女は心配そうな表情をしていた。俺は苦笑しながら答える。


「まあね……でも大丈夫だよ」


俺が言うと彼女は微笑んだ。そして少し考える素振りを見せてから口を開く。


「あの……もしよろしければマッサージなどいかがでしょうか？」


突然の提案に驚いたが、疲れていたので素直に受け入れることにした。


「じゃあお願いしようかな」


俺が言うとリリィは嬉しそうに頷いた。そして俺の手を引くと歩き出す。


（どこに行くんだろう？）


俺が不思議に思っていると彼女はある部屋の前で止まった。そしてドアを開けると中に入って行く……そこは寝室のようだった。ベッドが一つあり、それ以外は何も無いシンプルな作りになっている。リリィは俺をベッドに座らせると自分も隣に座る。


「では始めますね」


彼女は言うと俺の背中に手を当てる。そしてゆっくりと揉み始めた。その気持ち良さに思わず声が出てしまう……


「うおっ！？」


（これは凄いな……）


俺は感嘆の声を上げた。彼女の力は強く、それでいて優しく揉んでくれているためとても気持ちが良い。しばらく揉まれていると疲れが取れてきたような気がした。


「ありがとう、楽になったよ」


俺が礼を言うとリリィは笑顔で頷いた。そして今度は俺の前に来ると太ももの辺りを優しく揉んでくる……その絶妙な力加減にまた声が出てしまった。


「おおっ！？」


（何という技術だ……！）


俺は心の中で驚嘆する。その後も様々な場所を揉みほぐしてもらい、すっかり身体が軽くなったような気がした。


「よし、もう大丈夫だよ」


俺が言うとリリィは手を止めた。そして頭を下げると部屋を出ていこうとする……俺は彼女を呼び止めた。


「お礼になにか奢るよ、好きなものを言ってごらん」


俺が言うと彼女は嬉しそうな表情を浮かべた。そしてしばらく悩んだ後、口を開く。


「ありがとうございます……それではお茶をご馳走して頂けますか？」


彼女の願いを聞き届けると俺は頷いた。そして二人で食堂に向かうことにする……その間も彼女は俺の腕を抱いたままだった。


「ふふ……」


リリィは小さく笑いながら腕に頬擦りしてくる。俺は苦笑しながら言った。


「おいおい、歩きにくいだろ？」


すると彼女は悪戯っぽく微笑むとさらに強く抱きしめてくる……まるで恋人のような振る舞いだ。


（やれやれ……）


俺は苦笑いを浮かべた。彼女は俺に好意を抱いているようだが、それはあくまで一時的な感情だろうと思っている。


（まあ、今はこうして甘えさせてやるか……）


俺はため息をつくと彼女にされるがままになることにした……そして食堂に着くと椅子に座らせる。


「何が食べたい？」


俺が聞くと彼女はしばらく考えた後、答える。


「ご主人様と同じものを頂きます」


（俺と？）


俺は少し驚いたが、すぐに笑顔を浮かべた。そして二人で同じものを頼むことにする……注文を終えるとしばらく待つことにした。その間もリリィは俺から離れようとしない……まるで恋人のように寄り添っている。


（まあ、たまにはこういうのもいいかもな……）


俺は苦笑しながらも悪い気はしなかった……むしろ嬉しいくらいだった。


「お待たせしました」


しばらくして注文したものが運ばれてきた。揚げたてのトンカツが乗ったカツカレーだ。


「いただきます」


俺が言うとリリィも手を合わせてからスプーンを手に取った。そして一口食べる……その瞬間、彼女の目が輝いたように見えた。


「美味しいです！」


彼女は幸せそうな声を上げると夢中で食べ始めた。その様子を見て俺も嬉しくなる……


（美味しそうに食べるな……）


そんなことを思いながら眺めているとリリィと目が合った。彼女は恥ずかしそうに顔を赤らめると俯く……どうやら食いしん坊と思われたと思ったらしい。そんな彼女に対して俺は言った。


「いっぱい食べていいぞ」


するとリリィは顔を上げると満面の笑みを浮かべた。そして再び食事を再開する……結局、彼女はカツカレーをおかわりして2杯平らげたのだった。


「ご馳走様でした」


食事を終えた俺たちは手を合わせて挨拶する。そして食堂を出たところでリリィが話しかけてきた。


「あの……ご主人様」


「ん？ 何だい？」


俺が聞き返すと彼女はモジモジしながら言う。


「もしよろしければ……一緒に寝てもいいですか？」


（えっ！？）


彼女の言葉に俺は固まってしまう……まさかそんなことを言われるとは思わなかったからだ。俺が困惑しているとリリィは不安そうにこちらを見つめてくる。その瞳には涙が浮かんでいた。


（ああ、そうか……この子はまだ幼いんだ）


そんな当たり前のことを今更ながらに思い出した俺は心の中で反省する。そして安心させるように笑顔で言った。


「もちろん構わないよ、俺の部屋でいいか？」


俺が言うとリリィは嬉しそうに頷いた。そして俺の手を掴むと引っ張っていく……その足取りはとても軽やかだった。


（やれやれ……仕方ないな）


俺は苦笑しながらも彼女の後について行くことにしたのだった……

自室にリリィを招いた俺はベッドの縁に腰掛けていた。彼女は俺の横に座るとピッタリくっついてくる。そんな彼女を見ていると微笑ましく思えた。


（こうして見るとまだまだ子供なんだな……）


俺はしみじみと思いながら彼女の頭を撫でる……すると彼女は気持ち良さそうに目を細めた。まるで猫みたいだ……そんなことを思いながらしばらく撫でていると、不意に彼女が口を開く。


「ご主人様……」


「ん？」


俺が聞き返すと彼女は頬を赤らめながら言った。


「だっこしてください」


それは予想していなかった言葉だったが、断る理由もない。俺はリリィを抱き上げると膝の上に乗せた。そして後ろから優しく抱き締めてやる……その瞬間、リリィの表情が緩んだような気がした。


「あったかいです……」


彼女は俺の胸に頭を預けて呟くように言った。俺も彼女を抱きしめながら言う。


「おやすみ、リリィ」


俺が言うとリリィは小さな声で答える。


「はい……おやすみなさい、ご主人様」


そして目を閉じたかと思うとすぐに寝息を立て始めた。


（疲れてたんだろうな……ゆっくり休むといい）


俺は微笑みながら彼女の頭を優しく撫でてやったのだった……