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馬車に揺られること数時間、ようやくアーガスに到着した。
「お、おお……ここが噂の辺境の地か! 想像以上に広くて豊かな土地だな!」
辺り一面を見渡せば、広大な麦畑に多くの家畜たちが放牧されており、その光景はまさに『大地の恵み』という言葉がぴったりだ。
『アベル様、まずはどうするんですか?』
「そうだな。とりあえず領主館に向かうか」
俺はアーガスの中心である領主館へと足を運ぶ。するとそこには様々な人々が集まっていた。
「おい! あれはもしや!?」
「あ、ああ間違いない!」
「賢者様だ!!」
領民たちは俺を見るなり、一斉に駆け寄ってくる。
「この村を荒らすギガントベアーを倒してくださった賢者様だ!!」
「おお! あれがギガントベアーを討伐した噂の賢者様か!」
「ありがたや、ありがたや」
(どうしてこうなった……)
俺は領主館に向かう道中でギガントベアーを倒したことで領民たちから英雄扱いされていた。
「領民に俺が有能だって事がばれちまった……」
『あのー、わりと前から他の人たちにアベル様の実力は知られてましたよ?』
「何だって?」
『アベル様が気付いてないだけで、結構やらかしてますよ?』
「た、例えば……?」
『前にモンスターの大群が王都に迫ってた時、アベル様は一人でモンスターを全滅させてましたよね?』
「ああ、あったなそんなこと」
『あれ、現場にいた騎士団長とか市民たちにバッチリ見られてますよ?』
「まじかよ!?」
『はい、しかもその際のアベル様はかっこよかったともっぱらの評判です』
「あの時は仮面とマントで姿を隠してたはずなんだが……」
『しっかり、アベル様だとバレていましたよ?』
「はぁ……もう家に帰りたい……」
こうして俺の夢であるスローライフ計画は崩れ去ったのだった。
◇
それから俺はアーガス領の領主の館へとやってきた。
外装はオンボロだったが、意外と内装がしっかりしている。
「失礼します」
ドアを開けて入ってきたのは、白髪の老人だった。
「おお、よくぞお越しくださいました領主様。私がこのアーガス領の領主補佐官、ジェレミアです」
「初めまして。アベルと申します。よろしくお願いします」
俺は自己紹介を終えると、早速本題に入ることにした。
「この土地には凶悪な魔物が多数出現すると聞きましたが?」
「はい。実はこのアーガス領は作物の育ちにくい土地でして……それで魔物たちが現れる度に騎士団を派遣して討伐していたのですが……」
「なるほど、だからギガントベアーみたいな強力なモンスターが出現するんだな」
『アベル様、それってまずいんじゃ……』
「ああ、非常にまずいな」
ギガントベアーのような強力なモンスターが頻繁に出現するということはのんびり暮らすなんて不可能なことだ。
「しかし、安心してください。我々の村には、古の勇者様が施してくださった結界があります。この結界は魔物たちを寄せ付けないため、我々は平和でいられるのです」
「なるほど、それは安心だな」
「しかし最近になってから、その結界に綻びが見つかっているのです」
「綻び?」
「いくら強力な結界魔法だろうと、魔力供給が途絶えたら綻びが生じるのは自明の理です。おそらく、結界に供給している魔力が尽きかけているのでしょう」
「それってつまり……」
「はい。このままでは我々は魔物たちに滅ぼされてしまうかもしれません」
……なるほどな。状況は理解した。
「それで俺にその結界を修復して欲しいという訳か?」
「そうです! ぜひ、賢者様にお願いしたいのです!」
ジェレミアは縋るような目で俺を見てくる。
「うーん、そうだな……」
正直いって面倒くさいというのが本音だ。だがここで断っても領主の顔を潰すことになるし……とりあえず話だけでも聞くか。
「まあ、とりあえず現場を見てみないことには分からんからな」
「おお! ありがとうございます!!」
こうして俺はジェレミアの頼みで結界の調査をすることになったのだった。
「お、おお……ここが噂の辺境の地か! 想像以上に広くて豊かな土地だな!」
辺り一面を見渡せば、広大な麦畑に多くの家畜たちが放牧されており、その光景はまさに『大地の恵み』という言葉がぴったりだ。
『アベル様、まずはどうするんですか?』
「そうだな。とりあえず領主館に向かうか」
俺はアーガスの中心である領主館へと足を運ぶ。するとそこには様々な人々が集まっていた。
「おい! あれはもしや!?」
「あ、ああ間違いない!」
「賢者様だ!!」
領民たちは俺を見るなり、一斉に駆け寄ってくる。
「この村を荒らすギガントベアーを倒してくださった賢者様だ!!」
「おお! あれがギガントベアーを討伐した噂の賢者様か!」
「ありがたや、ありがたや」
(どうしてこうなった……)
俺は領主館に向かう道中でギガントベアーを倒したことで領民たちから英雄扱いされていた。
「領民に俺が有能だって事がばれちまった……」
『あのー、わりと前から他の人たちにアベル様の実力は知られてましたよ?』
「何だって?」
『アベル様が気付いてないだけで、結構やらかしてますよ?』
「た、例えば……?」
『前にモンスターの大群が王都に迫ってた時、アベル様は一人でモンスターを全滅させてましたよね?』
「ああ、あったなそんなこと」
『あれ、現場にいた騎士団長とか市民たちにバッチリ見られてますよ?』
「まじかよ!?」
『はい、しかもその際のアベル様はかっこよかったともっぱらの評判です』
「あの時は仮面とマントで姿を隠してたはずなんだが……」
『しっかり、アベル様だとバレていましたよ?』
「はぁ……もう家に帰りたい……」
こうして俺の夢であるスローライフ計画は崩れ去ったのだった。
◇
それから俺はアーガス領の領主の館へとやってきた。
外装はオンボロだったが、意外と内装がしっかりしている。
「失礼します」
ドアを開けて入ってきたのは、白髪の老人だった。
「おお、よくぞお越しくださいました領主様。私がこのアーガス領の領主補佐官、ジェレミアです」
「初めまして。アベルと申します。よろしくお願いします」
俺は自己紹介を終えると、早速本題に入ることにした。
「この土地には凶悪な魔物が多数出現すると聞きましたが?」
「はい。実はこのアーガス領は作物の育ちにくい土地でして……それで魔物たちが現れる度に騎士団を派遣して討伐していたのですが……」
「なるほど、だからギガントベアーみたいな強力なモンスターが出現するんだな」
『アベル様、それってまずいんじゃ……』
「ああ、非常にまずいな」
ギガントベアーのような強力なモンスターが頻繁に出現するということはのんびり暮らすなんて不可能なことだ。
「しかし、安心してください。我々の村には、古の勇者様が施してくださった結界があります。この結界は魔物たちを寄せ付けないため、我々は平和でいられるのです」
「なるほど、それは安心だな」
「しかし最近になってから、その結界に綻びが見つかっているのです」
「綻び?」
「いくら強力な結界魔法だろうと、魔力供給が途絶えたら綻びが生じるのは自明の理です。おそらく、結界に供給している魔力が尽きかけているのでしょう」
「それってつまり……」
「はい。このままでは我々は魔物たちに滅ぼされてしまうかもしれません」
……なるほどな。状況は理解した。
「それで俺にその結界を修復して欲しいという訳か?」
「そうです! ぜひ、賢者様にお願いしたいのです!」
ジェレミアは縋るような目で俺を見てくる。
「うーん、そうだな……」
正直いって面倒くさいというのが本音だ。だがここで断っても領主の顔を潰すことになるし……とりあえず話だけでも聞くか。
「まあ、とりあえず現場を見てみないことには分からんからな」
「おお! ありがとうございます!!」
こうして俺はジェレミアの頼みで結界の調査をすることになったのだった。
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