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ある日のこと、俺たちは王都を出て東の森へ向かっていた。


「ほんとにその依頼やるの?」


「はい。どんな依頼であっても、立派な冒険者の仕事でしょう?」


「いやまあ……そうだけど……だからって、犬探しなんてしなくても……」


俺はため息をつくと、フィーナに向かって言った。


「これが俺のやり方なの!」


「はいはい! 分かったよ……」


俺たちは森の奥深くへと入っていった……


「ほんとに、この森に居るの? シロちゃんは?」


「ああ。この森からシロちゃんの匂いがする」


俺たちは森の奥深くへと進んでいった……そして、ついにシロちゃんの姿を見つけた!


「グォオオオオオオオオオオオオオオッ!!!!」


そこにいたのは全長5メートルを超える巨大な狼であった。


「フ、フェンリルじゃないのよぉおおおおおおっ……!」


「え? フェンリルもベヒーモスも、俺の故郷じゃあよく見かけたけど?」


「あんたの故郷、どんな魔境よ!?」


『何の用だ?』


「君の飼い主がね、君がいなくなったから探してきて欲しいって頼まれて来たんだよ」


『立ち去れ……人間……』


「君を連れて帰らないと依頼にならないんだよ」


『だめだ。我はララを傷つけて……う、うぐ……』


シロちゃんが顔をしかめてうつむく。すると身体中から黒い魔力が漂い始めた……


「な、なにこれ!?」


「まさか! 呪いか!?」


『早く逃げろ……! 我が……自我を保てなくなる前に……』


「シロちゃん……」


『早く……逃げろ……!』


次の瞬間、シロちゃんが襲いかかってきた! 俺たちは慌てて避ける。地面は大きく抉れ、土煙が巻き起こった。


「ああなってしまってもう手遅れだわ。ララちゃんには申し訳ないけど、駆除するしかないわ」


「いいや、シロちゃんは必ず連れて帰る」


「無理よ! 今のシロちゃんの力はもう私たちが知ってるシロちゃんじゃないわ!」


「いいや、連れて帰る」


俺は真剣な表情で言った。彼女はため息をつくと、諦めたように言う。


「分かったわよ……でも、どうするつもり?」


俺は笑みを浮かべると彼女に向かって言った。


「こうするんだよ!」


俺は闇の魔力が吹き荒れる暴風の中を進んでいく。やがて、シロちゃんの目の前までやってきた。


『ごあぁあああああああああああああああああああああああっ!!!!』


シロちゃんは鋭い牙で噛み付いてくる。俺はそれをひらりと躱すと、シロちゃんの胴体に飛びついた。


「少し眠ってくれ!」


睡眠効果の矢を生成し、シロちゃんに撃ち込む。矢が刺さり、シロちゃんがバタッと倒れた。


「やった!」


「やったじゃないわよ! 死んだらどうするのよ!」


「だ、大丈夫だよ……多分……」


「ほんとに大丈夫かしらね……」


フィーナは呆れた顔でため息をついた。


「鑑定スキル使って調べてみるわね」


フィーナはシロちゃんの身体に手を翳すと、鑑定スキルを発動した。しばらくして結果が出る。


「わかったわ。シロちゃんは呪いで暴走しているの。このままだと、ずっと呪いに苦しめられることになるわ」


「じゃあ、治せばいいだろ」


「無茶言うわね……呪いって、そう簡単に解呪できないのよ?」


「やってみなくちゃ分からないだろ!」


「でもどうやって……」


俺はシロちゃんに抱きつくと、光の魔力を流し込んだ。そして、体内の魔力を浄化していく……やがてシロちゃんの身体から黒い魔力が消え去った。すると、シロちゃんが目を覚ます。


『う……ん?』


「成功だ!」


「きれいさっぱり、呪いは解けているわ……信じられない……奇跡よこんなの……」


フィーナは信じられないといった表情で言った。


『我を治してくれたこと、心より、感謝する』


シロちゃんは大きな体を窮屈そうに丸めながら、俺に頭を下げてくる。


「気にしないで。さ、帰ろう。ララちゃんが君を待っている」


『それは無理だ』


「どうして」


『……我は、大きくなりすぎた。このままではララを傷つけると思い、王都を出た次第だ』


「呪いがなくなって暴れる心配がなくなっても、その体の大きさじゃ、王都の人たちは不安になるわよね」


『致し方あるまい。我は……化け物なのだから……この森で一生を過ごすつもりだ』


「大丈夫、俺に任せてくれ!」


「任せてって……どうするのよ?」


「【変化の矢(メタモルフォーゼ・アロー)】!」


矢をシロちゃんに打ち込むと、犬耳を生やした女性が立っていた。


「これならララちゃんと一緒に暮らせるよね?」


「これが我の姿なのか……?」


「もちろん! その姿なら王都でも暮らせるよ!」


シロちゃんは俺の手を握ると、頭を下げた。


「感謝する!」


こうして俺たちはシロちゃんを連れて、王都へ帰ることにしたのだった……
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