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レティシア15歳 輝く未来へ
第159話 危機
しおりを挟む「……どういうつもり?こんな事して、ただで済むと思うの?」
言葉に怒りを滲ませながら、レティシアは吐き捨てるように言う。
彼女は今、後ろ手に拘束され大きなベッドの上に転がされている。
おそらくは、寝室らしき部屋の中だ。
そんな状況にあれば、これから自分の身に何が起きるのかを想像して恐怖で震えそうになるが、彼女はそれを何とか怒りで抑えて気丈に振る舞う。
そして彼女が睨みつける相手は……
「ふふふ……そんなに睨まないでくれ。せっかくの可愛い顔が台無しじゃないか」
その男はレティシアの怒りの視線にも怯むことなく、その表情に愉悦すら浮かべて言った。
「私を騙してこんなところに連れてきて……何をするつもりなの?というか、ここはどこ?あなたは誰なの?」
「何……?私を覚えてないのか!?」
そこで男は余裕の態度を崩して、怒りの声を上げた。
「覚えて……?じゃあ、どこかで会ったことが?」
「そうだ!3年前にお前から受けたあの屈辱……忘れたとは言わせないぞ!!」
「3年前…………あ!?お前は確か!」
そこでようやく彼女は男のことを思い出した。
それは彼女の黒歴史として封印していた記憶である。
「思い出したか。そうだ、私はダミアン=リグレだ。皆の前で恥をかかされた恨み……忘れてないぞ」
「確かにあれは私もやりすぎたと思ってるけど、もとはと言えばお前が……」
男の正体は、3年前にレティシアが社交界デビューした時に声をかけてきた相手。
モーリス商会の仲間たちを侮辱するような発言をして、彼女の怒りを買い……無様な姿を晒した男だ。
確かにレティシアの行動も本人が言う通りやり過ぎだったのかもしれないが、彼の平民をあからさまに侮蔑する言動は聞くに耐えない非難されるべきものであり、諍いの根本原因は彼にあるとその時は断じられた。
しかし、彼がそれを逆恨みしていたとしても……
「何で今更……?」
なぜ3年も過ぎた今頃になって……という疑問が生じる。
「ふふふ……確かに過去の恨みはあるが、私は寛大な男だ。それは水に流そうじゃないか」
「……ど~も。でも、じゃあ、なんで……?」
「私が君をここに招いたのは……ふふ、3年前は乳臭い小娘だったが、今は私の妻として相応しい女に育ったものだな」
その言葉に、レティシアの背筋にゾワッと怖気が走る。
(うぎゃあーーっ!!?コイツ、私にエロい事する気だっ!!?いや、分かってたけど!!)
引きつった顔で彼女は男から距離を取ろうとするが、拘束された彼女に逃げ場は無い。
そして男は悦に入ったまま続ける。
「そうそう……君はヴァシュロン王国の王子から婚約を申し込まれて、断ったのだろう?まさか……あのリディーとか言う平民と結婚するつもりなのかい?」
「なっ!?なんで……!?」
ダミアンがなぜフィリップやリディーの事を知っているのか、レティシアは驚愕を通り越して恐怖すら覚える。
「あの日以来……君のことは周辺も含めて色々と調べさせてもらったのだよ。妻の事を知るのは、夫として当然だろう?」
(ひぃーー!?こいつ、ストーカーだ!!)
常軌を逸した彼の行動に、怖気は悪寒となって背筋を凍らせる。
「……実に、嘆かわしい!!フィリップ王子なら分かるが、平民はダメだ……。高貴な血筋の女は、高貴な男と結ばれ、高貴な血筋を残す義務がある。そうは思わないか?」
「思わない!!勝手な事を言うな!![雷蛇]!!」
ダミアンの言葉を怒りとともに否定しながら、彼女は魔法を放とうとした。
例え腕を拘束されていたとしても、彼女が魔法を使うのには何ら支障もない……はずだった。
(ダメだ……!やっぱり使えない……!!)
もう既に何度も試していたのだが、彼女の魔法は封じられていた。
「ははは!無駄だよ!この屋敷には魔法を封じる神代遺物『封魔の結界珠』がある。君が例え宮廷魔導士以上の力を持っていようとも……ここではただのか弱い少女に過ぎないのさ」
「くっ……!」
魔法が使えない理由を知り、レティシアの顔は青ざめる。
自衛くらいは魔法で出来る……これまで彼女はそう思っていたが、それを封じられた自分の無力さに、堪えていた涙がにじみ出てくる。
「さぁ。では、さっそく……夫婦の契を交わそうではないか」
(いやだっ!!助けて、兄さん!!……リディー!!)
どうすることもできずにレティシアは身体を丸くしてギュッと目をつぶった。
ダミアンは獲物を前にした肉食獣が舌なめずりするような雰囲気を醸し出しながら、ゆっくりと彼女に近づいていく。
そして、ベッドの上で丸まって身を固くするレティシアに手を伸ばし……
「…………と、言いたいところなんだが。私も何かと忙しくてね。楽しみは夜に取っておこう」
と、言って踵を返した。
だが、少女が震える姿に、彼は嗜虐的な笑みすら浮かべている。
いつでも、どうにでもできる……と、優越感に浸っているのだ。
「あぁ……腕の拘束は解いてやるが、大人しくしている事だ。入口に警備兵もいるから、ここから出ることは諦めろ」
そう言い捨ててから、彼は部屋から出ていった。
「誰か……助けて……」
それまで気丈に振る舞っていた彼女だったが、今ははらはらと涙を流しながら、弱々しく呟く事しか出来なかった。
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