【完結】いせてつ 〜TS転生令嬢レティシアの異世界鉄道開拓記〜

O.T.I

文字の大きさ
上 下
12 / 191
レティシア5歳 はじまり

第10話 イスパルナの街

しおりを挟む
 モーリス公爵家一家を乗せた馬車は邸を出発すると、大通りを通り街の外へ向かうべく進んでいく。

(…前に外出した時の記憶からすると、かなり大きな街なんだよね。本でも調べたんだけど…イスパル王国の第二都市イスパルナ。モーリス公爵領領都。およそ300年前までは王都として栄えた古都で、人口は約10万人。この大陸では大都市と言える)

 馬車は市街地をゆっくり進む。
 まだ朝早い時間だが、多くの人で賑わっている。

 馬車には公爵家の紋章が刻まれており、道行く人々はそれに気づいて進路を妨げないように大きく道を開ける。
 御者は道を開けてくれた人々に身振りで礼をしながら馬車を進めていく。

(王都はここから東に徒歩で一週間程の距離にあるアクサレナ。人口は約20万人。この国だけでなく、大陸でも随一の大都市だ。都市圏人口ならイスパルナもアクサレナももう少し人口は多いはず)

 レティシアは窓から見える街並みをぼんやり眺めながら思考にふける。

「レティ?何だかぼんやりしてるけど…どうしたの?具合でも悪いのかしら?」

「え?…ううん、ちょっと考え事をしてただけだよ、母さん・・・

 最近、レティシアは家族のことを『父さん』『母さん』『兄さん』と呼ぶようになった。
 前世の『彼』の家族に対する呼び方で、レティシアなりに色々思うところがあってそう呼ぶことにしたらしい。
 呼ばれた当人たちは最初こそ訝んだものの、読書の影響だろうとあまり気にしないことにした。

「もし気持ち悪くなったら直ぐに言うんだよ?」

「は~い。でも大丈夫だよ、父さん」


「あ、ほら、見てごらんレティシア。ディザール様の神殿だよ」

 兄が指し示す方には大きな建物が。
 イスパル王国の守護神とも言うべき、武神ディザールを祀る神殿だ。

「あの神殿にはね、聖剣が奉納されてるんだって」

「『聖剣』?」

(なにそれ。凄くゲームっぽいな。魔王を倒した剣とか?)

「そう。まだ神々がこの地上にいらした頃、ディザール様が使われていた剣って事らしいよ」

「へえ~、見てみたいな……」

 今は女の子だが、前世男の記憶を持つ身としては興味があるようだ。
 実際のところ、前世の記憶に引きずられてなのかレティシアの性格はどちらかと言うと男の子っぽい。
 まだ5歳なのであまり性差は無いのかもしれないが…


「大きなお祭りの時には公開されることもあるって聞いたけど、まだ僕も見たことないんだよね…父さんは見たことある?」

「ん?グラルヴァルかい?…いや、私も見たことないね。最後に公開されたのはいつだったかな…」

(誰も見たことないって…草薙の剣みたいなものかな…)

「でも、少なくとも300年前にリディア王女が魔王討伐に持ち出してるんですよね」

「そう言われているな。多大な犠牲を払いながらも遂にはその剣で魔王を倒した…と」


(魔王…たしか、ウチの蔵書にもあったな。伝説の類かと思ったんだけど、実際の出来事なのかな?どうも、歴史書なのか伝承なのかイマイチわかりにくいんだよな~)

 そう思うのは致し方ないところで、どうしても古い過去の歴史に関わる文献は、編者の主観が入ってしまっている。
 それは彼の前世の古代史でも同じことだろう。









(ん~…人口10万人って言うと、前世の日本だと大して大きな都市じゃないけど…すごく賑わっているな~。この世界基準で大都市と言うのは伊達じゃないね)

 市街が集中していると言うのもあるだろうが、定住人口では表せない、交易で訪れる人間なども含めると数字以上の都市規模と言うことであろう。


(…うん!やっぱり鉄道を通すなら、先ずはイスパルナ~アクサレナ間で開業を目指そう!さらに第三都市のブレゼンタムまでも視野にして……アクサレナからイスパルナを通ってブレゼンタムに至る街道は『黄金街道』って言うんだっけ?……名前はゴールデン・パス・ライン…なんてね。でも、誰も元ネタは分からないか~)

 レティシアは改めて、内心で鉄道建設に向けた野望の心を燃やすのだった。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

転生したら第6皇子冷遇されながらも力をつける

そう
ファンタジー
転生したら帝国の第6皇子だったけど周りの人たちに冷遇されながらも生きて行く話です

【完結】あなたに知られたくなかった

ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。 5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。 そんなセレナに起きた奇跡とは?

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

処理中です...