利己的な聖人候補~とりあえず異世界でワガママさせてもらいます

やまなぎ

文字の大きさ
上 下
764 / 837
6 謎の事件と聖人候補

953 ダンジョンの放棄

しおりを挟む
953

「ああ、メイロードさま、よく、よくご無事で‼︎」

なんとか穴を塞ぎ終わった私が上層へ姿を現すと、涙目のルエラさんが抱きついてきた。

「心配させましたね。大丈夫、なんともないわ。それより……」

と私がテーセウスさんたちを呼んでもらおうと話しかけたとき、もうすでにテーセウスさん、ピントさん、エンデさんがこちらに駆けてきていた。

「ああ、メイロードさま!」

口々に労いや感謝の言葉をかけようとする彼らを制した私は、すぐに対応をしなければならない話を切り出した。

「緊急性があるので、まずは現状を報告させてください」

私の真剣な表情に、皆さん黙って頷いてくれた。

「壁の穴は塞ぎ、この下層へとつながる入り口には五重に《物理結界》の魔法を施してきました。私の知る範囲では、ダンジョンはその層ごとにある意味別世界であり、環境が大きく異なるそうですね。そのため魔物は行き来しないと聞いていますが、ここがそういったダンジョンではない可能性も、いまは考えなければならないと思います」

いまもまだ最下層から供給され続けている膨大な魔力、それにより増え続けている魔物……このダンジョンは危険度を増すばかりだ。

「私の結界にはかなりの耐久力がありますが、それでも多くの魔物に攻撃され続ければ限界がくるでしょう。そこで、この下層へと続く階段をこれから上層に向かいながらすべて埋めていこうと考えています」

「そ、それは、このダンジョンを放棄するということでございますか?」

エンデさんが悲しげにそう言ったが、テーセウスさんがそれを制する。

「このままにしていれば、上層階もわれわれのような速度で攻略はできなくなる。第一、このダンジョンはメイロードさまなしに攻略することは不可能だと、みんなもう骨身に染みて知ったはずだ。ここは私たちの狩場ではない。このまま放置すれば、むしろ狩られるのはわれわれだ」

テーセウスさんは現場を冷静に分析している。実際その通りだ。

「メイロードさまに賛成いたしますわ。そして、なるべく早くこのダンジョンを脱出すべきです!」
「ありがとうございます、ピントさん」
「わかりました、負傷者の手当てが終わり次第、すぐ移動開始の指示を出しましょう」
「よろしくお願いします、エンデさん」
「では、体制の見直しを早急に行い、行軍を開始いたしましょう」
テーセウスさんはそう言うが早いか配下の方たちに指示を始める。

方針も固まったので、私はすぐさま土魔法での階段の封鎖を開始した。今回使うのは土魔法の中でも最も密度が高い《岩石生成ロックビルド》をさらに凝縮したやり方だ。これは強固な岩盤を作れる魔法なのだが、土壁と比べて作り上げるまでの時間がかかる。だから、スピードが求められる戦闘時にはあまり有効ではないが、こうした頑丈な壁が欲しいときにはうってつけだ。

魔法でこの超高密度の壁を生成し続けている私に、周囲の状況を確認してきてくれたセーヤとソーヤが報告をくれる。

「この層ではまだ大きな変動はないようで、魔物の数も前回きましたときと差は感じられませんでした。ただ、壁の移動速度が少し上がり始めておりますので、影響がまったく及んでいないわけではなさそうです」

「そう、ありがとう。皆さんの疲れ具合はどうかしら? 怪我の治療は上手くいっていそう?」

「はい。〝朝日の誓約〟の魔法使いの皆さんはとても優秀です。現状、歩行困難になるほどの怪我人はありません。ただ、疲労に関しては度重なる戦闘と睡眠不足の影響で、それなりに蓄積していますね。みなさん、弱音を吐くようなヤワな冒険者ではないので一見わかりませんが、この状態が続けば進行速度が低下し、撤退が妨げられる危険があります」

「そう……それじゃ準備しておいたを配ってくれる?」
「承知いたしました、ではすぐに準備いたしましょう」

指示を出し終わった私は、肩にかけていたサコッシュ風のお手製マジックバッグをソーヤに手渡す。

「それじゃ、よろしく頼むわね!」

そう言って私の秘策を詰めたマジックバッグを託すと、再び私は土木工事のような土魔法を使うことに神経を集中する。

こんな危険なダンジョンは徹底的に封印したいところだけど、そこまで時間はかけられない。下の層が溢れかえってより強力な魔獣が上にやってくるような事態になれば、破壊力だっていまの比ではないはずだ。そのとき、この封鎖がどの程度の防波堤になるのか、それはわからない。

「絶対の安心……とはいえないけど、いまはこれでやれるとこまでやるしかないよね!」

私は己れの枯れない魔法力に感謝しつつ、ひたすらに階段を埋めていったのだった。
しおりを挟む
感想 2,991

あなたにおすすめの小説

若奥様は緑の手 ~ お世話した花壇が聖域化してました。嫁入り先でめいっぱい役立てます!

古森真朝
恋愛
意地悪な遠縁のおばの邸で暮らすユーフェミアは、ある日いきなり『明後日に輿入れが決まったから荷物をまとめろ』と言い渡される。いろいろ思うところはありつつ、これは邸から出て自立するチャンス!と大急ぎで支度して出立することに。嫁入り道具兼手土産として、唯一の財産でもある裏庭の花壇(四畳サイズ)を『持参』したのだが――実はこのプチ庭園、長年手塩にかけた彼女の魔力によって、神域霊域レベルのレア植物生息地となっていた。 そうとは知らないまま、輿入れ初日にボロボロになって帰ってきた結婚相手・クライヴを救ったのを皮切りに、彼の実家エヴァンス邸、勤め先である王城、さらにお世話になっている賢者様が司る大神殿と、次々に起こる事件を『あ、それならありますよ!』とプチ庭園でしれっと解決していくユーフェミア。果たして嫁ぎ先で平穏を手に入れられるのか。そして根っから世話好きで、何くれとなく構ってくれるクライヴVS自立したい甘えベタの若奥様の勝負の行方は? *カクヨム様で先行掲載しております

聖女の私が追放されたらお父さんも一緒についてきちゃいました。

重田いの
ファンタジー
聖女である私が追放されたらお父さんも一緒についてきちゃいました。 あのお、私はともかくお父さんがいなくなるのは国としてマズイと思うのですが……。 よくある聖女追放ものです。

【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました

ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。

今さら言われても・・・私は趣味に生きてますので

sherry
ファンタジー
ある日森に置き去りにされた少女はひょんな事から自分が前世の記憶を持ち、この世界に生まれ変わったことを思い出す。 早々に今世の家族に見切りをつけた少女は色んな出会いもあり、周りに呆れられながらも成長していく。 なのに・・・今更そんなこと言われても・・・出来ればそのまま放置しといてくれません?私は私で気楽にやってますので。 ※魔法と剣の世界です。 ※所々ご都合設定かもしれません。初ジャンルなので、暖かく見守っていただけたら幸いです。

メインをはれない私は、普通に令嬢やってます

かぜかおる
ファンタジー
ヒロインが引き取られてきたことで、自分がラノベの悪役令嬢だったことに気が付いたシルヴェール けど、メインをはれるだけの実力はないや・・・ だから、この世界での普通の令嬢になります! ↑本文と大分テンションの違う説明になってます・・・

あなた方はよく「平民のくせに」とおっしゃいますが…誰がいつ平民だと言ったのですか?

水姫
ファンタジー
頭の足りない王子とその婚約者はよく「これだから平民は…」「平民のくせに…」とおっしゃられるのですが… 私が平民だとどこで知ったのですか?

妹だけを可愛がるなら私はいらないでしょう。だから消えます……。何でもねだる妹と溺愛する両親に私は見切りをつける。

しげむろ ゆうき
ファンタジー
誕生日に買ってもらったドレスを欲しがる妹 そんな妹を溺愛する両親は、笑顔であげなさいと言ってくる もう限界がきた私はあることを決心するのだった

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。