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6 謎の事件と聖人候補

933 締結

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933

私はレシータさんから事前に釘を刺されていたことがあった。それは〝報酬〟についてだ。

私はこれまで何度かダンジョンに入る機会があったが、どれも目的のために必要だったためだ。なのでいつも速度優先で最速攻略してきたし、そもそもダンジョン攻略で儲けようという冒険者的発想が私にはない。なので今回も報酬についての条件はなにもつけずにいた。

だが、彼らとダンジョンへ入ることは〝仕事〟なのだから、そこはきっちりしておくべきだし、報酬を受け取るということが責任の所在を明らかにすることでもあるとレシータさんに諭された。

「報酬の額はメイロードちゃんへの期待値でもあるし、評価でもあるの。しっかり受け取ってあげて」

言われてみれば、私は報酬を受け取らないことで、自分はあくまで部外者であることを示し、冒険者としての責任から遠ざかろうと思っていたのかもしれない。だが、それでは一緒に攻略に挑む仲間に遠慮ができてしまうし、対等の関係になれないということなのだろう。

「わかりました。教えてくださってありがとうございます」

そして、私への報酬についての話が始まった。

「今回のダンジョン攻略では、三つのクランがそれぞれの得意分野を中心に編成を組み上げる。報酬も完全に三等分すると決まっている。ただしメイロードさまへの報酬はそれに優先される。

今回のダンジョン攻略にかかる経費を差し引いた純利益の半分を貴女の報酬として受け取っていただきたい」

「いやいやちょっと待ってください! そんなのメチャクチャですよ! なんですか五割って⁉︎ ないですって! ありえないですからそんなの!」

今日は口数少なくおしとやかモードで行こうと思っていたのに、口が先に出てしまった。

最高の条件を出してくれただろうみなさんは私のツッコミにキョトンとしている。

「まだ足りませんでしたか。まだ増やせる余地はありますが……うーむ」

テーセウスさんが眉間に皺を刻んで考え込む。

「いやいや、違いますって、逆です逆‼︎  多すぎですって!」

さらに三人のキョトン顔。

「みなさんが私の能力をとても高く評価してくださったことは嬉しいですが、大きなパーティーでのダンジョン攻略で、このようにひとりにあまりにも報酬が傾くことは良くないと思います……っていうか良くない!」

「もちろん、メイロードさまの報酬については極力誰にも知られないよう配慮いたしますので……」

「にしてもです! 二割、二割です。これ以上は受け取りません、いいですね!」

「そんな、ダメですよ、メイロードさま!」
「そうです、それは少なすぎます!」

以前にもこんなことがあった気がするが、今回もこのやりとりが長く続いた。

彼らにしてみれば、少しでも高い報酬を約束して、万が一にも私が他のパーティーに引き抜かれるような事態が起こらないよう保険をかけたいところなのだろうか、それは杞憂というものだ。

「私は決めた以上、他のパーティーに金銭で心が動くことはありません。それを踏まえて、断固この金銭交渉では、報酬の引き下げを要求します!
この報酬額はパーティーとして健全ではありません」

「いえ、そんなことはありません。メイロードさまは今回の攻略の要です。あなたがいらっしゃらなかったら、そもそもこのパーティーは成立しないのです。こうした場合、このような利益配分になることは決しておかしくはないのです」

「いえ、おかしいです。私がおかしいと思うのですからおかしいのです!」

みなさんの説得に耳を貸すことなく、頑固な私は結局純利益の二割の現金もしくはそれに相当する物品を受け取るということで契約した。

自分の報酬をなにがなんでもという前代未聞の契約交渉に、三人は混乱していたが、そこはレシータさんが収めてくれた。

「名誉でもお金でも動かない、それがメイロードちゃんなのよ。だから、あなたたちもこれを機会に…‥なんて思わないことね。契約も協力も今回だけ。そのことを忘れちゃダメよ」

「なるほど…‥心得ました」

彼らはその後のことも考えて、私の好感度を上げたかったのかもしれないが、報酬を釣り上げても私の好感度はむしろ下がると、この交渉で学んだようだ。

レシータさんが話を締める。

「さぁ、これでこの交渉は成立した。各ギルドは迅速に攻略準備を整えること。メイロードちゃんは、合同パーティーの準備が整えばいつでも合流する。

本来ならじっくり準備をせよというべきところだけど、そうも言っていられないわよね。われわれもできる協力は惜しまない。なんでも言って欲しい」

レシータさんの言葉にみなさん深々と頭を下げた。

「一日も早く攻略準備は整えます。我らにお任せください」

顔を上げた彼らは、覚悟の決まったとても凛々しい顔をしていた。
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