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5森に住む聖人候補

911 村娘メロウ

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911

今日は久しぶりにシラン村の散策を楽しもうと思っている。

とはいっても盛大に送り出されてしまった〝メイロード・マリス〟が帰ってきて、突然村の中に現れたら面倒なことになってしまうかもしれない。その対策はする必要があった。

(まぁ、シラン村も私の領地になっちゃったわけで〝ご領主さま〟の訪問となると、みんなに気を使わせちゃうからね)

《隠蔽魔法》を使って、姿を隠してしまうというのもひとつの手段だが、それでは買い物や買い食いができず、街の人との交流も持てないので私が寂しい。

これまでの紆余曲折によって、私は外見的な特徴が知られすぎている。商人としての成功から始まり、美食の女神になったり、田舎娘から伯爵になったり、いろいろと世間を騒がせた結果だ。ここにいたころよりは背も伸びたし子供っぽさがなくなったとはいっても、すぐにわかってしまうだろう。

目立つ髪色や瞳は隠すしかない。というわけで、今回は変装だ。

幸か不幸か最近は変装が必要な機会も多くなるばかりなので、対策はできている。そしてありがたいことに、こうした準備はセーヤが一手に担ってくれて、完成度も素晴らしい。

最初は『メイロードさまのこの素晴らしい御髪を隠さねばならないとは!』と変装するたび嘆き悲しんでいたソーヤだが、何度もそんなことをしているうちに、ウイッグならばいままでできなかった大胆なカットやヘアデザインが可能だと気づいたようで、ダメ押しに異世界の最新のヘアカタログをそっと差し入れてからは、ノリノリでいろいろなウイッグを作ってくれている。

というわけで、今日の私はカントリーガール風の装いと三つ編みのヘアスタイル。髪も深めの茶色だし、目には《異世界召喚の陣》で取り寄せたカラーコンタクトを使い、私の目立つ要素はすべて隠した。

(コンタクトはパッケージごと取り寄せたので、なかなかのお値段だったけど、少量だし、いまの私なら払えないほどじゃないからね。むしろぶ厚いヘアカタログの方が高かった。セーヤが喜んでるから、いいんだけどね)

出かける前に髪の最終チェックをされつつ、セーヤにいまの村について少し聞いてみた。

「シラン村では〝ストーム商会〟の魔道具は使われていないんだよね」

「はい。あれは元々人口の多い大きな街で集中的に売られているものですから……それに人口が増えたとはいっても、シラン村は北東部の辺境なので、頻繁に交換が必要な〝ストーム〟商会の魔道具の販売には向かないでしょう」

「よかったー。心配してたんだ。もし村で使われていたら、私のせいでまた爆発騒ぎが起こるかもしれないし……」

「それは確かに危険ですね。では、やはりあのときの〝ラーメン横丁〟での街灯の爆破はメイロードさまに関わっていたのですか?」

「うん、博士の見解だと〝ストーム商会〟の魔道具に仕込まれている〝吸魔玉〟は道ゆく人たちの魔法力を極々少量吸い取るんだけど、それは量じゃなくて比率らしいの。魔法力五十の人なら一以下、おそらくその四分の一ぐらいじゃないかって」

「なるほど……なんともサカしいやり方ですね。それですと、普通の方はほぼ知覚するのは困難でしょう。ああ、それで!」

セーヤはすぐ気がついた。

「そうなの。私の怖いぐらい増え続けている魔法力を、それだけの比率で一気に吸い上げようとしたら、吸魔玉の許容量を一瞬で超過してしまうのよ。博士によると〝基幹部品〟にはある程度の安全装置や制御機構は組み込まれていたらしいんだけど、私にはまったく役に立たなかったみたい」

「それは……当然でございますね」

「しかもあのときは、セイリュウと博士もいたじゃない? まぁ、一瞬で爆発しちゃうよね」

私も苦笑いするしかない。おそらくこの世界で魔法力が多い順トップスリーが連れ立って現れるなんて、なかなかのレアケースだったはずだ。想定外であったとしても当然だろう。

「グッケンス博士は、対外的な説明をするときに博士の魔法力のせいで起こった事故だと説明してくれてるみたい。いつも迷惑かけちゃうけど、正直助かったわ」

私の魔法力については、セイリュウに『ヒトと呼んでいいのかどうか』と悩まれるレベルに達しているので、魔法力関係の話題はとにかくどこでも一切話さないようにしている。

だが今回のようなことが起こると説明が必要になり、こうした私のめんどくさい状況を知っているグッケンス博士には、常に私を庇うために嘘をつかせることになってしまう。

(本当に毎度毎度申し訳ないと思ってるんだけどね。実績でも魔法力でも、誰もが納得してくれるグッケンス博士という存在も大概だよね)

だが、このせいで、博士には欲しくもないだろう名声や褒賞……そして責任も増えてしまっている。

(『いまさら多少増えたところで何も変わらん』

って博士は言ってくれるけど、私は迷惑をかけないように気をつけるぐらいしかできないなぁ。あとは美味しいご飯を作るぐらい?)

博士に迷惑ばかりかけている自分にため息しか出ないが、以前の博士を知っているソーヤは、博士は以前よりずっと健康的だし楽しそうにしているといってくれているので、少しは生活の役に立てていると思おう。

「はい、これでよろしいかと思います」

鏡の中のメイロードではないおさげ髪の少女に私はメロウと名付けた。

「それじゃ、メロウちゃん。シラン村を見に行きましょうか!」

私は鏡の中の自分に微笑むと、まずはなつかしい〝朝市〟へと向かった。
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