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6 謎の事件と聖人候補
884 〝ストーム〟商会の裏側
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第三巻発売記念のWeb特別番外編情報など、
近況報告にございますので、よろしければ^_^
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884
(ピークスと名を変え、北方のクレメンスという町で商人となったバーバル。その彼が私に会いにくる理由はなんだろうか)
《真贋》を使ってもなんの邪気も見えない彼を見ながらそう考えていると、ピークスさんは話し始めた。
「メイロードさまは〝ストーム商会〟という魔道具を扱う店をご存知でしょうか?」
「ええ、もちろん知っていますよ。とても便利で役に立つ魔道具を買いやすい値段で売っているので、急激に有名になったお店です。その店がどうかしましたか?」
「たしかに〝ストーム商会〟の販売しているランプやオーブンは、いままで庶民には高嶺の花の商品でした。それが買いやすい値段で販売されているということで、噂は国中に広がりましたが、あの商品にはわれわれのような地方の商人が手を出しづらい致命的な仕様があります」
「ああ、1、2か月に一度の交換ね」
「はい。〝ストーム商会〟はあちこちに交換所を作り対応していますが、最初から人口の少ない地域は対象にしておらず、部品のみの交換もできないそうで、地方の商人が仲介をすることも認めていません」
「それは困るわね。直売だけしか認めないとなると〝ストーム商会〟の望む場所以外では販売できないってことだものね」
〝ストーム商会〟の品物は動力に当たる部分が消耗品であり、専門技術者しか交換できないため、定期的に商品ごと交換するという方式をとっている。
「できるなら在庫を抱えることになっても〝ストーム商会〟の商品をクレメンスでも販売したいと考え交渉しようと試みたのですが、にべもなく断られました」
「ああ、つまりピークスさんの商店で交換用の在庫を抱えておいて代理店のようなことをしようと考えたのね」
「はい、ですがやはり〝ストーム商会〟は小さな町での商売に興味がないようです」
ピークスさんは、どちらかといえば町の人たちのためにと考えて、在庫を抱えることになる利幅も薄い代理店契約を持ちかけた。それは〝ストーム商会〟にとっては小さな商売かもしれないが、その数が増えていけば大きな商売になるだろうし、一考しても良い内容だと思う。
(〝ストーム商会〟が自社の魔道具を普及させたいと考えているなら、小さな集落や村がたくさんあるこの世界で、ピークスさんの提案した代理店契約は悪くないと思うんだけどな。そこまで自社直売にこだわる理由はなんだろう?)
私が考えを巡らせていると、ピークスさんの目が、バーバル時代を思い起こさせる真剣なものに変わった。
「どうにも〝ストーム商会〟の考えがわからなかった私は、昔取った杵柄で探りを入れてみることにしたのです。もちろん、悪いことはしていませんよ。それでも、情報を集めることぐらいはできます」
たしかに彼の経歴を考えれば、そういった情報を集める手段はいくらでもあるのだろう。
「〝ストーム商会〟は、販売と製品の組み立て、そして重要な部品の生産管理を明確にわけています」
「ええ、知っているわ。〝基幹部品〟のことね。それがあの魔道具のキモだから、秘匿していると聞いてるわ」
「私の調べたところでは、その部品の生産管理を行なっている部門が〝ストーム商会〟の中枢であり実権を握っているようでした。そこで、その部門にいる交渉の窓口になりそうな人物に探りを入れ、なんとか責任者を見つけたのですが……」
そこでピークスさんは眉間に皺を寄せた。
「その人物は私のよく知る男でした。〝ストーム商会〟の代表を勤めていたラケルタ・バージェはエスライ・タガローサに最も近い側近だったはずの男です。下級貴族の五男だったあの男の冷静冷徹な性格を気に入ったタガローサが、彼を引き入れ彼もまたタガローサの命で私と同じような裏仕事をしてきています」
ここで思いもかけない人物の名前が出てきた。失脚した元〝帝国の代理人〟エスライ・タガローサ……
「〝ストーム商会〟は失脚したタガローサの元から離れた、そのバージェという人物が始めた事業ってことなのかな」
「それも考えましたが、私と違いバージェは彼を側近に取り立ててくれたタガローサに大恩を感じており、盲信に近い忠誠心を持った男でした。簡単に離れるとは思えません。それにタガローサが背後にいるならば納得がいくことがあります」
「納得がいくことって?」
「資金力です」
「あー、なるほどね」
〝ストーム商会〟のやり方は最初から派手だった。大量の商品をばら撒くように安価で売り捌いていくやり方は、太い人脈と相当な初期投資を必要とする。それができる商人はたしかにそう多くはないし、雇われていた男であり実家も裕福な貴族というわけではないバージェにその資金や人脈があるとも思えない。
「つまり〝ストーム商会〟は影からタガローサが仕掛けてる……そういうことなのね」
「はい。ですが……だとしてもおかしいのです」
「たしかにね。商売の仕方もまったく違うし、蟄居しているタガローサがこのタイミングで魔道具のそんな革新的な技術を見つける手段があったとも思えないし……たとえあったとしても、いま評判が最悪なあの男に、確実にお金になりそうなそんな技術を売り込む理由がないわ」
「私も同意見です。〝ストーム商会〟は何かがおかしい。彼らには普通の商売ではない目的があるのではないでしょうか。タガローサは確実になんらかの悪事を企んでいる。私のカンですが、間違いないと思います。それをどうしてもメイロードさまにお知らせしたかった」
「私に?」
近況報告にございますので、よろしければ^_^
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(ピークスと名を変え、北方のクレメンスという町で商人となったバーバル。その彼が私に会いにくる理由はなんだろうか)
《真贋》を使ってもなんの邪気も見えない彼を見ながらそう考えていると、ピークスさんは話し始めた。
「メイロードさまは〝ストーム商会〟という魔道具を扱う店をご存知でしょうか?」
「ええ、もちろん知っていますよ。とても便利で役に立つ魔道具を買いやすい値段で売っているので、急激に有名になったお店です。その店がどうかしましたか?」
「たしかに〝ストーム商会〟の販売しているランプやオーブンは、いままで庶民には高嶺の花の商品でした。それが買いやすい値段で販売されているということで、噂は国中に広がりましたが、あの商品にはわれわれのような地方の商人が手を出しづらい致命的な仕様があります」
「ああ、1、2か月に一度の交換ね」
「はい。〝ストーム商会〟はあちこちに交換所を作り対応していますが、最初から人口の少ない地域は対象にしておらず、部品のみの交換もできないそうで、地方の商人が仲介をすることも認めていません」
「それは困るわね。直売だけしか認めないとなると〝ストーム商会〟の望む場所以外では販売できないってことだものね」
〝ストーム商会〟の品物は動力に当たる部分が消耗品であり、専門技術者しか交換できないため、定期的に商品ごと交換するという方式をとっている。
「できるなら在庫を抱えることになっても〝ストーム商会〟の商品をクレメンスでも販売したいと考え交渉しようと試みたのですが、にべもなく断られました」
「ああ、つまりピークスさんの商店で交換用の在庫を抱えておいて代理店のようなことをしようと考えたのね」
「はい、ですがやはり〝ストーム商会〟は小さな町での商売に興味がないようです」
ピークスさんは、どちらかといえば町の人たちのためにと考えて、在庫を抱えることになる利幅も薄い代理店契約を持ちかけた。それは〝ストーム商会〟にとっては小さな商売かもしれないが、その数が増えていけば大きな商売になるだろうし、一考しても良い内容だと思う。
(〝ストーム商会〟が自社の魔道具を普及させたいと考えているなら、小さな集落や村がたくさんあるこの世界で、ピークスさんの提案した代理店契約は悪くないと思うんだけどな。そこまで自社直売にこだわる理由はなんだろう?)
私が考えを巡らせていると、ピークスさんの目が、バーバル時代を思い起こさせる真剣なものに変わった。
「どうにも〝ストーム商会〟の考えがわからなかった私は、昔取った杵柄で探りを入れてみることにしたのです。もちろん、悪いことはしていませんよ。それでも、情報を集めることぐらいはできます」
たしかに彼の経歴を考えれば、そういった情報を集める手段はいくらでもあるのだろう。
「〝ストーム商会〟は、販売と製品の組み立て、そして重要な部品の生産管理を明確にわけています」
「ええ、知っているわ。〝基幹部品〟のことね。それがあの魔道具のキモだから、秘匿していると聞いてるわ」
「私の調べたところでは、その部品の生産管理を行なっている部門が〝ストーム商会〟の中枢であり実権を握っているようでした。そこで、その部門にいる交渉の窓口になりそうな人物に探りを入れ、なんとか責任者を見つけたのですが……」
そこでピークスさんは眉間に皺を寄せた。
「その人物は私のよく知る男でした。〝ストーム商会〟の代表を勤めていたラケルタ・バージェはエスライ・タガローサに最も近い側近だったはずの男です。下級貴族の五男だったあの男の冷静冷徹な性格を気に入ったタガローサが、彼を引き入れ彼もまたタガローサの命で私と同じような裏仕事をしてきています」
ここで思いもかけない人物の名前が出てきた。失脚した元〝帝国の代理人〟エスライ・タガローサ……
「〝ストーム商会〟は失脚したタガローサの元から離れた、そのバージェという人物が始めた事業ってことなのかな」
「それも考えましたが、私と違いバージェは彼を側近に取り立ててくれたタガローサに大恩を感じており、盲信に近い忠誠心を持った男でした。簡単に離れるとは思えません。それにタガローサが背後にいるならば納得がいくことがあります」
「納得がいくことって?」
「資金力です」
「あー、なるほどね」
〝ストーム商会〟のやり方は最初から派手だった。大量の商品をばら撒くように安価で売り捌いていくやり方は、太い人脈と相当な初期投資を必要とする。それができる商人はたしかにそう多くはないし、雇われていた男であり実家も裕福な貴族というわけではないバージェにその資金や人脈があるとも思えない。
「つまり〝ストーム商会〟は影からタガローサが仕掛けてる……そういうことなのね」
「はい。ですが……だとしてもおかしいのです」
「たしかにね。商売の仕方もまったく違うし、蟄居しているタガローサがこのタイミングで魔道具のそんな革新的な技術を見つける手段があったとも思えないし……たとえあったとしても、いま評判が最悪なあの男に、確実にお金になりそうなそんな技術を売り込む理由がないわ」
「私も同意見です。〝ストーム商会〟は何かがおかしい。彼らには普通の商売ではない目的があるのではないでしょうか。タガローサは確実になんらかの悪事を企んでいる。私のカンですが、間違いないと思います。それをどうしてもメイロードさまにお知らせしたかった」
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