利己的な聖人候補~とりあえず異世界でワガママさせてもらいます

やまなぎ

文字の大きさ
680 / 840
6 謎の事件と聖人候補

869 闘いの行方

しおりを挟む
869

魔術師の使う戦闘系魔法にはざっくり分けると三種類がある。まず攻撃魔法、そして防御魔法、そして補助魔法だ。

攻撃魔法は名前の通り相手にダメージを与える魔法。どの系統を得意とする魔術師にもある基本の攻撃技は〝アロー〟と〝ボール〟だ。魔法学校でも初期段階で習うものだが、この基本技も極めていけばしっかり使える技になる。
ひとつの威力を鍛えたり、扱える数を増やすという方向性もある。ただし指向性の高い複数攻撃を行うには魔法以外のスキルが必須となっていくため、三方向に魔法を打ち出すだけでも、かなり高い技術が必要とされる。

「マレク・エンヴィー君をはじめとする今回出場の新入隊の魔術師は、みなさん三方向へ打ち出せるそうですよ」
「よく修練した……と言いたいところじゃが、それだけではのぉ」
「たしかにそうなんですよねぇ……」

いよいよ両軍は動き出す。

今回戦うふたつの軍勢を仮に〝マレク軍〟〝先輩軍〟と呼ぶことにしよう。

圧倒的な攻撃力で攻め立てる作戦を用いる作戦で魔術師が先陣を切ったマレク軍は、早速攻撃魔法を仕掛けていこうとした。だが、それは思ったほど簡単ではないとすぐに知ることになる。

〝先輩軍〟は、詠唱待ち状態の〝マレク軍〟に対し、騎士と兵士のスピードを生かした速攻を仕掛けていった。歩兵の移動にかかるわずかな時間も学生たちを使った最も単純な魔法(水をかける、氷をぶつける、石を投げる)でマレク軍に揺さぶりをかけ、詠唱妨害をしていく。

「卑怯な!」

マレク軍はそう言ったが、これは当然の戦術だ。学生として大会に出るとき、魔法の詠唱妨害などされない。そうだからだ。そんなことをしても、魔術師としての評価は上がらないのだから、誰もしない。

「魔法が大きくなれば、当然複雑になりますから集中力もいりますし詠唱時間も長くなりますよね。そこを、ああやってコツコツ邪魔されたら、結局長い時間何もできないまま前線にいることになっちゃいますよねぇ」

ひとりを防御魔法の構築に当たらせるという初歩的なこともせず、全員ひたすら強力な攻撃魔法に集中していた〝マレク軍〟の魔術師たちは、詠唱が誰ひとり完了しないまま、不用意に敵の接近を許すことになってしまった。

魔法攻撃が間に合わないまま騎士の一撃を受け、それを避けている間に歩兵に接近されてしまったマレクたちは、にわかに慌て出す。もう集中することなどできようもない状況だ。なんとか詠唱時間の短い単純な魔法で反撃を試みようとするものの、すでにこのタイムラグの間に〝先輩軍〟は補助魔法を完成させており、歩兵には防御、攻撃共に魔法による補正がかけられていて、もう瞬時に詠唱できる程度の簡単な魔法では攻撃力が足りず、遠ざけられなくなっている。

「あーあ、魔法使いが剣で応戦してますよ。せめて歩兵を左右に配置しておけば、盾になってくれたんでしょうに……」
「なまじ自分たちが優秀だという自負があったことが、こうさせてしまったということじゃな。素直に先鋒を歩兵や騎士に任せて背後から攻撃できていれば、ここまでグダグダにはならなかったはずじゃからのぉ……」
「ああ、本当にグダグダ……」

〝マレク軍〟が最悪だったのは、こうなったときのバックアップの作戦がまったく練られていないことだった。それでも歩兵の皆さんはなんとか前に出て魔術師たちを守ろうと動いたが、武器が使えるとはいえ戦場に出たこともない魔術師たちが右往左往する状況は、他の闘うものたちの邪魔にすらなっていた。

「しかもこの〝マレク軍〟マレクが指揮官ですからね。指揮官から作戦の修正や変更の合図がなければ、軍は大きく動けませんからどうしても動きが後手に回っちゃいます。指揮官が先頭に立っちゃってる時点で、もう戦略も何もないですよ。あーあ、また〝マレク軍〟の魔術師がひとり離脱ですね」
「攻撃できさえすれば負けることなどないと、たかを括り敵を侮る…‥こうして青二才の魔術師どもは死に急ぐのだ」
グッケンス博士の言葉は苦々しい思いを含んでいた。そうして学びが足りぬまま若い命を散らした魔法使いたちはたくさんいるのだ。

〝先輩軍〟の攻撃と布陣はとても基本的なもので、学生たちには揺動のためのスピード重視の魔法攻撃をとにかく前衛の魔術師たちに投げ続けるよう指示が出されていた。その一方で、先輩魔術師たちは、移動している前衛を受け持つ兵士たちへの攻撃力強化、防御力強化に関連する魔法を最初に時間をかけて施し、自陣の防衛も固めるというのも効果的な対策だった。

この乱戦状態になったタイミングで、〝先輩軍〟の本陣から合図の音が鳴り〝先輩軍〟の兵士が引いたところで後方の本陣から、《氷槍アイス・ランス》《炎槍ファイヤー・ランス》《風槍ウインド・ランス》が〝マレク軍〟の上に降り注ぎ、《土槍アース・ランス》が地面から突き上げた。

「終わりましたね」
「ああ、これで戦力はほぼなくなったな」

倒れ込む兵士と魔術師の中で、呆然と立っている指揮官マレク。

「こんな……バカな! あんな卑怯なやり方で……」

そこでグッケンス博士の大音声が響き渡った。魔法で声を響かせているとはいえ、ビリビリと響くような声だ。

「マレク・エンヴィー‼︎ ことここに至ってまだそんなことを思うか、この馬鹿者!
いま倒れ伏している者たちは、殺してしまったかも知れぬ同胞じゃ。それを見て、まだ自らの愚かさに気づかんのか!」

マレクは博士の声に周囲を見渡し、訓練とはいえそれなりにダメージを受けている自軍の兵士たちを見て、青ざめていた。

「戦場の敵にお前は卑怯だと叫ぶのか⁉︎  魔物にそれが通じるか? 敵にそんな慈悲の心があると思うのか! お前たちは確かに優秀な魔術師かもしれんが、実戦経験もなく、戦場での立ち回りも知らぬことを自覚せよ! そうでなくば、お前は仲間を殺すだけの存在じゃ! 〝国家魔術師〟などいますぐ辞めい!」

真っ青な顔で言葉もなく立ち尽くすマレクの背後で、勝負が決したことが告げられ、怪我をした者から引き上げていく。もう他の魔術師たちも気まずそうで、マレクの顔を見ようともしないまま、帰っていく。

ひとり残されたマレクは、兵士たちが去った演習場に、ただ立ち尽くしていた。

しおりを挟む
感想 3,006

あなたにおすすめの小説

貴族令嬢、転生十秒で家出します。目指せ、おひとり様スローライフ

ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞にて奨励賞を頂きました。ありがとうございます! 貴族令嬢に転生したリルは、前世の記憶に混乱しつつも今世で恵まれていない環境なことに気が付き、突発で家出してしまう。 前世の社畜生活で疲れていたため、山奥で魔法の才能を生かしスローライフを目指すことにした。しかししょっぱなから魔物に襲われ、元王宮魔法士と出会ったり、はては皇子までやってきてと、なんだかスローライフとは違う毎日で……?

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

3歳で捨てられた件

玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。 それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。 キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。

ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。

旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。 前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。 ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。 「この家は、もうすぐ潰れます」 家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。 手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

婚約破棄から50年後

あんど もあ
ファンタジー
王立学園の卒業パーティーで、王子が婚約者に婚約破棄を宣言した。王子は真に愛する女性と結ばれ、めでたしめでたし。 そして50年後、王子の孫の王子は、婚約破棄された女性の孫と婚約する事に。そこで明かされた婚約破棄の真実とは。

【完結】旦那様、どうぞ王女様とお幸せに!~転生妻は離婚してもふもふライフをエンジョイしようと思います~

魯恒凛
恋愛
地味で気弱なクラリスは夫とは結婚して二年経つのにいまだに触れられることもなく、会話もない。伯爵夫人とは思えないほど使用人たちにいびられ冷遇される日々。魔獣騎士として人気の高い夫と国民の妹として愛される王女の仲を引き裂いたとして、巷では悪女クラリスへの風当たりがきついのだ。 ある日前世の記憶が甦ったクラリスは悟る。若いクラリスにこんな状況はもったいない。白い結婚を理由に円満離婚をして、夫には王女と幸せになってもらおうと決意する。そして、離婚後は田舎でもふもふカフェを開こうと……!  そのためにこっそり仕事を始めたものの、ひょんなことから夫と友達に!? 「好きな相手とどうやったらうまくいくか教えてほしい」 初恋だった夫。胸が痛むけど、お互いの幸せのために王女との仲を応援することに。 でもなんだか様子がおかしくて……? 不器用で一途な夫と前世の記憶が甦ったサバサバ妻の、すれ違い両片思いのラブコメディ。 ※5/19〜5/21 HOTランキング1位!たくさんの方にお読みいただきありがとうございます ※他サイトでも公開しています。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。