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6 謎の事件と聖人候補
867 合同演習での模擬戦決定
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867
「演習……ですか?」
「ああ、シド帝国の全軍での合同演習が行われることが急遽決まった」
マレク・エンヴィーをはじめとする新入隊の〝魔術師〟たちは、困惑した顔で彼らの上官である第三部隊長ノースの言葉を聞いた。〝魔術師〟たちは攻守の要と言われながらも、人数的には圧倒的に少なく、その力を温存するため戦場でも背後に位置する布陣がほとんどだ。
歩兵や騎士たちの部隊とは直接訓練を行う機会も少なく、指揮に関わる上官以外はほとんど接点もない。さらに、軍部の精鋭である〝魔法騎士〟たちと〝魔術師〟部隊はライバル関係にあり、彼らが兵士たちの尊敬を集めていることが、さらに〝魔術師〟たちの兵士嫌いを助長していた。
それは有事の際に先頭に立ち、勇猛に戦いつつ兵士たちを守る〝魔法騎士〟という立場と、常に戦場の後方から支援を行いつつ攻撃を仕掛ける〝魔術師〟という軍隊内での仕事の性質上致し方ないことだったが、危険の少ない後衛である〝魔術師〟のポジションを軽く見る兵士はどうしても多い。
もちろん演習の機会はいままでにもあったが、〝魔術師〟部隊は作戦通りにほぼ定位置で動くだけなので、合同演習でも動きの大きい歩兵部隊中心だった。
「だが、今回は違うぞ。ハンス・グッケンス様もいらっしゃる〝魔術師〟の戦闘技術を磨くための本格的なものだ」
その言葉にその場にいた〝魔術師〟たちが沸き立つ。
「グッケンス博士に認められれば、それはすなわち〝超一流の魔術師〟と認められるのと同義だ。是非とも我らの実力を見ていただかねばな!」
「ああ、魔法学校では基礎課程でしかお目にかかれなかったからな。上位で卒業した我らのいまの力、しっかりとご覧いただこう」
「静粛に!」
ノース部隊長づきの隊員が声を上げる。部隊長は続けた。
「君たちにはこの演習において模擬戦を行なってもらう。君らが望んだ通り、君らの直属の上司となる先輩隊員との模擬戦だ」
再び色めき立つ若き〝魔術師〟たち。
「ただし、この演習には〝国立魔法学校〟の生徒も参加する。この模擬戦のひと組は二十五名。君たちの中から選抜した五名と魔法学校の生徒五名、そして騎士団から五名、陸軍の歩兵から精鋭十名が参加する。君らと試合を行うもうひと組の〝魔術師〟五名は先輩というわけだ」
「騎士と学生の質に差はないのでしょうね」
マレクの言葉に、叱責が飛ぶ。
「失礼極まりないぞ! 衆人環視の中で行われる帝国軍の模擬戦でそのような明らかな実力差のある状況を作る意味がないだろう! もちろん望むなら、参加者の一覧は配布する。調べたければ勝手に調べたが良い!」
当然、公平となるよう実力を調整した人選が行われていることを確認していた部隊長は、若い〝魔術師〟のいらぬ心配をたしなめ、その傍若無人な態度に顔をしかめた。
だが、そんな上官の心の動きもわかっていないのか、マレクは顔色を変える様子もなく笑顔のままだ。
「これは、大変失礼を申し上げました。ノース部隊長のお言葉、もちろん信頼しております。このような晴れがましい場で、模擬戦を戦えますこと、大変光栄に存じます。みんな! 我らが実力を見ていただく機会だ! 力の限り戦おう!」
「おー!」
「そうだ、そうだ!」
まったく負けることなど考えていないのだろう若き〝魔術師〟たちは、特級魔術師の前で行われる試合で、どれだけ見事な勝ちをおさめられるかしか、もう考えていない。
「この演習は、ニ時間が予定されている。その間に、相手が全員戦闘不能になれば、そこで終わりだ。演習区域には魔法や攻撃の威力を減衰させる特殊な魔術と正確な威力判定機能が展開されるため、お前たちがどんな魔法を使おうと相手が死ぬことはない。お前たちが魔法や刃を受けた場合も同様だ。相応の攻撃を受ければどちらもそこで死亡扱いを受け、戦線から離脱する。試合終了まで戦闘が続いた場合は、残り人数で勝敗を決める」
「はは、そんなにもつれるなんてあり得ませんよ」
「ええ、魔法力ではわれわれが上なんですから、長引けばジリ貧になるのは向こうでしょう?」
「それは、やってみなければわかるまい。それが戦場というものだ」
ノース部隊長はそう若き部下たちに告げる。だが、その忠告がどれだけ響いているかは、はなはだ疑問だった。
ひとつため息をついたノース部隊長は以上だと告げでその場を去った。
(グッケンス博士がこの〝魔術師〟部隊の不和をみかねて、今回の演習を考えてくださったとは聞いているが、果たしてあの尊大な連中を改心させられるのだろうか……これでもし先輩〝魔術師〟たちが負けを喫するような事態になれば、この部隊はもう統制が取れなくなってしまうかもしれん。ああ、困ったことだ)
楽しげに当日の作戦を話し合う若き〝魔術師〟たちの声を背に、部隊長の苦悩は続くのだった。
(頼みましたよ、グッケンス様)
「演習……ですか?」
「ああ、シド帝国の全軍での合同演習が行われることが急遽決まった」
マレク・エンヴィーをはじめとする新入隊の〝魔術師〟たちは、困惑した顔で彼らの上官である第三部隊長ノースの言葉を聞いた。〝魔術師〟たちは攻守の要と言われながらも、人数的には圧倒的に少なく、その力を温存するため戦場でも背後に位置する布陣がほとんどだ。
歩兵や騎士たちの部隊とは直接訓練を行う機会も少なく、指揮に関わる上官以外はほとんど接点もない。さらに、軍部の精鋭である〝魔法騎士〟たちと〝魔術師〟部隊はライバル関係にあり、彼らが兵士たちの尊敬を集めていることが、さらに〝魔術師〟たちの兵士嫌いを助長していた。
それは有事の際に先頭に立ち、勇猛に戦いつつ兵士たちを守る〝魔法騎士〟という立場と、常に戦場の後方から支援を行いつつ攻撃を仕掛ける〝魔術師〟という軍隊内での仕事の性質上致し方ないことだったが、危険の少ない後衛である〝魔術師〟のポジションを軽く見る兵士はどうしても多い。
もちろん演習の機会はいままでにもあったが、〝魔術師〟部隊は作戦通りにほぼ定位置で動くだけなので、合同演習でも動きの大きい歩兵部隊中心だった。
「だが、今回は違うぞ。ハンス・グッケンス様もいらっしゃる〝魔術師〟の戦闘技術を磨くための本格的なものだ」
その言葉にその場にいた〝魔術師〟たちが沸き立つ。
「グッケンス博士に認められれば、それはすなわち〝超一流の魔術師〟と認められるのと同義だ。是非とも我らの実力を見ていただかねばな!」
「ああ、魔法学校では基礎課程でしかお目にかかれなかったからな。上位で卒業した我らのいまの力、しっかりとご覧いただこう」
「静粛に!」
ノース部隊長づきの隊員が声を上げる。部隊長は続けた。
「君たちにはこの演習において模擬戦を行なってもらう。君らが望んだ通り、君らの直属の上司となる先輩隊員との模擬戦だ」
再び色めき立つ若き〝魔術師〟たち。
「ただし、この演習には〝国立魔法学校〟の生徒も参加する。この模擬戦のひと組は二十五名。君たちの中から選抜した五名と魔法学校の生徒五名、そして騎士団から五名、陸軍の歩兵から精鋭十名が参加する。君らと試合を行うもうひと組の〝魔術師〟五名は先輩というわけだ」
「騎士と学生の質に差はないのでしょうね」
マレクの言葉に、叱責が飛ぶ。
「失礼極まりないぞ! 衆人環視の中で行われる帝国軍の模擬戦でそのような明らかな実力差のある状況を作る意味がないだろう! もちろん望むなら、参加者の一覧は配布する。調べたければ勝手に調べたが良い!」
当然、公平となるよう実力を調整した人選が行われていることを確認していた部隊長は、若い〝魔術師〟のいらぬ心配をたしなめ、その傍若無人な態度に顔をしかめた。
だが、そんな上官の心の動きもわかっていないのか、マレクは顔色を変える様子もなく笑顔のままだ。
「これは、大変失礼を申し上げました。ノース部隊長のお言葉、もちろん信頼しております。このような晴れがましい場で、模擬戦を戦えますこと、大変光栄に存じます。みんな! 我らが実力を見ていただく機会だ! 力の限り戦おう!」
「おー!」
「そうだ、そうだ!」
まったく負けることなど考えていないのだろう若き〝魔術師〟たちは、特級魔術師の前で行われる試合で、どれだけ見事な勝ちをおさめられるかしか、もう考えていない。
「この演習は、ニ時間が予定されている。その間に、相手が全員戦闘不能になれば、そこで終わりだ。演習区域には魔法や攻撃の威力を減衰させる特殊な魔術と正確な威力判定機能が展開されるため、お前たちがどんな魔法を使おうと相手が死ぬことはない。お前たちが魔法や刃を受けた場合も同様だ。相応の攻撃を受ければどちらもそこで死亡扱いを受け、戦線から離脱する。試合終了まで戦闘が続いた場合は、残り人数で勝敗を決める」
「はは、そんなにもつれるなんてあり得ませんよ」
「ええ、魔法力ではわれわれが上なんですから、長引けばジリ貧になるのは向こうでしょう?」
「それは、やってみなければわかるまい。それが戦場というものだ」
ノース部隊長はそう若き部下たちに告げる。だが、その忠告がどれだけ響いているかは、はなはだ疑問だった。
ひとつため息をついたノース部隊長は以上だと告げでその場を去った。
(グッケンス博士がこの〝魔術師〟部隊の不和をみかねて、今回の演習を考えてくださったとは聞いているが、果たしてあの尊大な連中を改心させられるのだろうか……これでもし先輩〝魔術師〟たちが負けを喫するような事態になれば、この部隊はもう統制が取れなくなってしまうかもしれん。ああ、困ったことだ)
楽しげに当日の作戦を話し合う若き〝魔術師〟たちの声を背に、部隊長の苦悩は続くのだった。
(頼みましたよ、グッケンス様)
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