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4 聖人候補の領地経営
798 懐石重
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798
「え!? 本当に?」
翌日の朝食の席に、エラ・クヴィレイド伯爵令嬢、カラリナ・ラーゼン男爵令嬢、シュリーノ・ファレーズ男爵令嬢の姿は見えなかったと、お昼近くに宿へと赴いた私は聞いて驚くしかなかった。しかも三人はもう〝天舟〟に乗ったということだ。見合いの継続を断念した彼女たちには、まだお見合いの続いているここは、もはや居ずらい場所でしかないのだろう。
(それにしても一気に三名も脱落!? やっぱりおじさまが〝家なしっ子〟だっていうのはショックが大きいかったのかな。家すら簡単に手放してしまえる人との幸せな家庭生活が想像つかないのは当然といえば当然だもんね。大事にしてもらえる気がしなくて当たり前かな。実際、おじさまは家庭を持つには忙しすぎるよ)
もちろんおじさまは今日も朝からお仕事で、それでも昼食の時間になんとか時間を作り再び令嬢方とお会いする予定だ。
この会食でおじさまとのお見合いは終了となり、明日には皆さまパレスへお戻りになる。
最初は三泊の予定だったこのお見合いツアーだが、この一日で、お嬢様方全員がサガン・サイデムの多忙さを理解されたらしい。それで、朝食時に話し合いがもたれ、結論としてサイデム男爵にこれ以上の時間を割いていただくわけにはいかないということになったという。
(さすがに家にいる時間もないほど忙しい男だというのはインパクトがあったんだろうなぁ。まぁ、そのほうがおじさまに好印象を与えられるかもしれないという判断もあるのかな……たぶんだけど)
イングリット・ベルジュ子爵令嬢、アナトゥーラ・フォンス子爵令嬢、アイヒェ・インフィリス男爵令嬢、残られているのはこの三名。このお見合いから撤退されたのはいずれも若い方々で、現在いらっしゃるのはいずれも妙齢の方々だ。とはいえ皆さんまだ二十代、どの方も美しく気品があり、淑女としての教育も十分に受けられている方々だ。
(おじさまと釣り合いが取れて話も合うのは、こういう年齢の方々かもしれないしね)
私は気を取り直して、お昼の会食の準備を始めた。お昼は私プロデュースで、この宿のレストランでの昼食のお料理をセッティングする。
まだ新しいこの宿だが、ここの食事はとても評判が高い。実はここの厨房の料理人たちには定期的に〝大地の恵み〟亭での研修が義務付けられており、必ずひとりは〝大地の恵み〟亭から派遣された料理人が監修のために派遣されている。ここはいわば〝大地の恵み〟亭の姉妹店のような店なのだ。
この〝眠りの森迎賓館〟は、おじさまが行うパーティーや接待の場でもあるため、食事にはこだわっている。きっとこの宿でいろいろなパーティーの依頼を受ければもっと儲かるはずなのだが、常におじさまの予定を優先するため、いまのところそれはなく、レストランは宿泊客のみが使えるようになっている。この宿泊者しか使えない極上のレストランもまた、この宿のセールスポイントになっているようで、高価な宿にもかかわらず、宿の稼働率はあり得ないほど高いらしい。
(まぁ、現状でも十分黒字らしいからいいんだけどね)
今日のお昼はマルコとロッコのふたりがやってきている。私が来るということを聞きつけたふたりはかなり強引に今日の監修役をもぎ取ってきたらしい。
「厨房の皆さんに迷惑をかけてはダメよ、マルコ、ロッコ」
私は呆れ気味に小言を言ってみたが、ふたりはどこ吹く風。私と仕事ができることが、ふたりには何より大切らしい。
(なんだか懐かれちゃったなぁ)
私は苦笑しながらもソーヤも交えて楽しく会食の準備を進める。
今日のお昼はミニ懐石風の松花堂弁当仕立てを予定している。お品書きも用意し、準備万端だ。ルミナーレ様たちのお料理の三分の二はこちらの料理人に指示して用意してもらい、三分の一は私が作ったものを持ち込んだ。盛り付けは私がひとつ見本を作り、あとはそれにならって厨房の皆さんで準備してもらう。
(お昼だし、食後のお茶が美味しくなるような素材を生かした料理がいいよね)
「この細かく仕切られた木箱の三段重という形は美しいですね。木箱の外側に彫られた草花の意匠も華やかで女性に好まれそうです」
マルコがしつらえを褒めてくれる。
「それに品数の多さも女性向きで、実に華やかです。どれもほんの一口づつというのがあとを引かせますね」
重箱の中を点検しながらロッコも今日の趣向を気に入ってくれている様子だ。
「ありがとう。あとは汁物と飲み物を添えれば完成かな。あ、おじさまの分はこれだから間違えないでね」
女性の箱には赤い紐が結ばれているが、おじさま様の箱には青い紐が結んである。
(お嬢様たちのお食事には、私が調理したごく一部の料理の調味料以外、異世界素材は使っていないんだけど、おじさまの分はほぼ私が作った異世界素材満載のお重だから間違えたら大変)
「心得ておりますよ。サイデム様のご健康はひとえにメイロードさまにかかっているのですから」
マルコとロッコは私の作る料理に特別な健康効果があるということに気がついているようだ。それがどうしてなのかまではわかっていないが、どうも私の魔法ぐらいに思っている様子で、それも私への崇拝につながっているらしい。
「メイロードさまは、常人には想像もつかない誠に素晴らしい御技をお持ちでございますねぇ……」
少しうらやましげな声でマルコたちはそう言うが、これは私の固有スキルに関連することなので伝授できるような性質のものではなく、ただ笑って誤魔化すしかない。
さて、テーブルにはきっちりと人数分の重箱が配膳された。そろそろ、皆さんがやってくる時刻だ。お見合いツアーの最後の面会時間を有意義に過ごしてもらえるよう、私たちは慌ただしくテーブルセッティングの最終チェックをしながらそのときを待った。
「え!? 本当に?」
翌日の朝食の席に、エラ・クヴィレイド伯爵令嬢、カラリナ・ラーゼン男爵令嬢、シュリーノ・ファレーズ男爵令嬢の姿は見えなかったと、お昼近くに宿へと赴いた私は聞いて驚くしかなかった。しかも三人はもう〝天舟〟に乗ったということだ。見合いの継続を断念した彼女たちには、まだお見合いの続いているここは、もはや居ずらい場所でしかないのだろう。
(それにしても一気に三名も脱落!? やっぱりおじさまが〝家なしっ子〟だっていうのはショックが大きいかったのかな。家すら簡単に手放してしまえる人との幸せな家庭生活が想像つかないのは当然といえば当然だもんね。大事にしてもらえる気がしなくて当たり前かな。実際、おじさまは家庭を持つには忙しすぎるよ)
もちろんおじさまは今日も朝からお仕事で、それでも昼食の時間になんとか時間を作り再び令嬢方とお会いする予定だ。
この会食でおじさまとのお見合いは終了となり、明日には皆さまパレスへお戻りになる。
最初は三泊の予定だったこのお見合いツアーだが、この一日で、お嬢様方全員がサガン・サイデムの多忙さを理解されたらしい。それで、朝食時に話し合いがもたれ、結論としてサイデム男爵にこれ以上の時間を割いていただくわけにはいかないということになったという。
(さすがに家にいる時間もないほど忙しい男だというのはインパクトがあったんだろうなぁ。まぁ、そのほうがおじさまに好印象を与えられるかもしれないという判断もあるのかな……たぶんだけど)
イングリット・ベルジュ子爵令嬢、アナトゥーラ・フォンス子爵令嬢、アイヒェ・インフィリス男爵令嬢、残られているのはこの三名。このお見合いから撤退されたのはいずれも若い方々で、現在いらっしゃるのはいずれも妙齢の方々だ。とはいえ皆さんまだ二十代、どの方も美しく気品があり、淑女としての教育も十分に受けられている方々だ。
(おじさまと釣り合いが取れて話も合うのは、こういう年齢の方々かもしれないしね)
私は気を取り直して、お昼の会食の準備を始めた。お昼は私プロデュースで、この宿のレストランでの昼食のお料理をセッティングする。
まだ新しいこの宿だが、ここの食事はとても評判が高い。実はここの厨房の料理人たちには定期的に〝大地の恵み〟亭での研修が義務付けられており、必ずひとりは〝大地の恵み〟亭から派遣された料理人が監修のために派遣されている。ここはいわば〝大地の恵み〟亭の姉妹店のような店なのだ。
この〝眠りの森迎賓館〟は、おじさまが行うパーティーや接待の場でもあるため、食事にはこだわっている。きっとこの宿でいろいろなパーティーの依頼を受ければもっと儲かるはずなのだが、常におじさまの予定を優先するため、いまのところそれはなく、レストランは宿泊客のみが使えるようになっている。この宿泊者しか使えない極上のレストランもまた、この宿のセールスポイントになっているようで、高価な宿にもかかわらず、宿の稼働率はあり得ないほど高いらしい。
(まぁ、現状でも十分黒字らしいからいいんだけどね)
今日のお昼はマルコとロッコのふたりがやってきている。私が来るということを聞きつけたふたりはかなり強引に今日の監修役をもぎ取ってきたらしい。
「厨房の皆さんに迷惑をかけてはダメよ、マルコ、ロッコ」
私は呆れ気味に小言を言ってみたが、ふたりはどこ吹く風。私と仕事ができることが、ふたりには何より大切らしい。
(なんだか懐かれちゃったなぁ)
私は苦笑しながらもソーヤも交えて楽しく会食の準備を進める。
今日のお昼はミニ懐石風の松花堂弁当仕立てを予定している。お品書きも用意し、準備万端だ。ルミナーレ様たちのお料理の三分の二はこちらの料理人に指示して用意してもらい、三分の一は私が作ったものを持ち込んだ。盛り付けは私がひとつ見本を作り、あとはそれにならって厨房の皆さんで準備してもらう。
(お昼だし、食後のお茶が美味しくなるような素材を生かした料理がいいよね)
「この細かく仕切られた木箱の三段重という形は美しいですね。木箱の外側に彫られた草花の意匠も華やかで女性に好まれそうです」
マルコがしつらえを褒めてくれる。
「それに品数の多さも女性向きで、実に華やかです。どれもほんの一口づつというのがあとを引かせますね」
重箱の中を点検しながらロッコも今日の趣向を気に入ってくれている様子だ。
「ありがとう。あとは汁物と飲み物を添えれば完成かな。あ、おじさまの分はこれだから間違えないでね」
女性の箱には赤い紐が結ばれているが、おじさま様の箱には青い紐が結んである。
(お嬢様たちのお食事には、私が調理したごく一部の料理の調味料以外、異世界素材は使っていないんだけど、おじさまの分はほぼ私が作った異世界素材満載のお重だから間違えたら大変)
「心得ておりますよ。サイデム様のご健康はひとえにメイロードさまにかかっているのですから」
マルコとロッコは私の作る料理に特別な健康効果があるということに気がついているようだ。それがどうしてなのかまではわかっていないが、どうも私の魔法ぐらいに思っている様子で、それも私への崇拝につながっているらしい。
「メイロードさまは、常人には想像もつかない誠に素晴らしい御技をお持ちでございますねぇ……」
少しうらやましげな声でマルコたちはそう言うが、これは私の固有スキルに関連することなので伝授できるような性質のものではなく、ただ笑って誤魔化すしかない。
さて、テーブルにはきっちりと人数分の重箱が配膳された。そろそろ、皆さんがやってくる時刻だ。お見合いツアーの最後の面会時間を有意義に過ごしてもらえるよう、私たちは慌ただしくテーブルセッティングの最終チェックをしながらそのときを待った。
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