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4 聖人候補の領地経営
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楽しい夕食をしながらも、業務連絡は欠かせない。
実は今回の潜入調査をするにあたり、ドール参謀を悩ませていたことがあった。それはどうやって隔離された〝孤児院〟内にいる私とコンタクトを取るか、という点だ。《伝令》に制限がかけられていることは間違いないだろうし、その発動は探知系の魔法が使える者がいれば〝孤児院〟側にすぐ気づかれてしまう。
とはいえ、ドール参謀に《無限回廊の扉》のことを知らせれば、今回のミッションに関わった多くの人たちへと、芋づる式に私が世にも珍しい〝回廊持ち〟であると伝わってしまう可能性が高く、とても伝える気にはなれない。そこで、今後のことを考え、博士と相談の上、ある嘘を考え、それを伝えることにした。
私と博士は〝先生と弟子で契約を結んだ者同士の間でしか使えない特殊な魔法による通信手段〟で、いつでもというわけにはいかないが連絡は取り合える、とドール参謀に話してあるのだ。なので、こうして《無限回廊の扉》を使って時々帰宅しながら、グッケンス博士にそれまでに得られた情報を伝え、それを〝メイロードから連絡があった〟ということで、ドール参謀へ伝えていただくという手順になっている。
(魔法使いの秘術ってたくさんあるらしくて、案外この秘密通信の話もすぐ納得してもらえたんだよね。まぁ、ドール参謀のことだから、何か変だと思っても突っ込まないでいてくれるだけかもしれないけど……)
「位置情報については《輝鳴玉》が示してくれていると思いますが、視認できにくくするための《迷彩魔法》で、建物周辺はすべて隠されていました。博士の魔法のように洗練されたものではないので、相手の混乱を招き、敷地内に立ち入れなくするほどの威力ではないですが、目からの情報だけだと一般の方は撹乱されるでしょうね」
「ふむ……」
《地形把握》や《索敵》といった魔法が使える者であれば、十分見破れる程度の魔法ではあるが、そうした手段を持たない一般人が隠されたこの〝孤児院〟を見つけるのはまず無理だろう。国境沿いの何もない深い森の中は、もともと人が少なく地理的にわざわざ魔法使いが通るような場所でもない。このぐらいの偽装が施してあれば、問題なく存在を隠しておけたのだろう。
「子供たちの数はどうだった」
「かなりの人数が暮らしているようです。まだ正確には把握できていませんが、下は五、六歳から上は十八歳ぐらいまででしょうか……少なくとも五から六百人はいると思います。もしかしたら千人を超えるかもしれません」
「呆れた〝孤児院〟だな。それだけの子供たちを長年誘拐し続けているのか」
「まったくだね。ひどいものだ」
セイリュウも盃を傾けながら眉を顰める。
そこから私は彼らが用いているアーティファクトを悪用した暗示について話した。
「その五角形のペンダントを使い、子供たちの記憶をねじ曲げてしまうのか……そうすることで、子供たちの逃げる意思を消し、従順に従うよう洗脳する……なるほど、サンクたちの〝孤児院〟に対する疑いのない妄信的な態度はそのせいだったのだな」
「ええ、あの環境でずっと暮らすことで、より洗脳は強化されていくのではないでしょうか。あれにはキャサリナの腕輪のような速効性や強烈さはありませんでしたが、その分広範囲に効果があるようです。おそらく子供たちは定期的に暗示をかけ続けられているのでしょうね」
博士はぐい呑みでクイっとお酒を飲み干すと、厳しい顔で言った。
「それはまったくもって厄介だのぉ……なんとも面倒なことをしてくれる連中だわ」
「ええ、本当に……」
〝孤児院〟の現状については、まだこれから調査しなければならないことだらけなのは間違いない。そして現時点までの情報で最も憂慮されるのは、この洗脳状態にある子供たちだ。仮にこの段階で、私たちが彼らを助けるために〝孤児院〟を攻撃した場合、洗脳されている子供たちは私たちを〝敵〟とみなし攻撃してくる可能性が極めて高い。
たとえ能力が低くとも千人近い魔術師からの攻撃を受け、しかも相手が保護対象者ではこちらの手がいくらあっても足りないだろう。
「まだ孤児院内部の〝先生〟や〝お母様〟についての詳しい情報はあまり得られていないので、敵の全貌は不明です。セーヤとソーヤに隠密活動を続けてもらいつつ、確実に奴らを捕らえられるようしばらくはいい子を演じていきますね」
「うむ、すまんがそうして信用を得るしか隠された真実へと近づく手段はないだろう。だがな、お前がひとりで背負うにはあまりにも危険な任務でもある。決して油断せず、そして無理をするな。こうして回廊も繋がったいま、わしもセイリュウもいつでも駆けつけられるのだ。危険と判断したら、躊躇せず頼るのだぞ!」
博士の横でセイリュウも優しい笑顔でうなづいている。セイリュウは私の危険を知覚できるので、危なくなれば有無を言わさず助けにくきてくれるのだろう。
「ありがとうございます。心しておきます」
本日のご飯ものも京風にしてみた。湯葉と油揚げを使った卵とじの小さな丼だ。
(まぁ、ソーヤだけはガッツリ丼で食べているけど……)
グッケンス博士もセイリュウも気に入ってくれたようなので、これもいくつか《無限回廊の扉》の中にいつでも食べられるように作ってから帰ることにしようと思う。
ゆっくり楽しみながらの夕食は、私に活力をくれる。美味しいご飯を楽しみ、熱いほうじ茶を啜りながら、私はすっかり気分を良くしていた。これで明日からも頑張れる。
そしてその日は、セーヤによる久しぶりの長ーいフルコースのヘアケアタイムをこなしてから寮の部屋へ戻り、ぐっすりと眠ったのだった。
楽しい夕食をしながらも、業務連絡は欠かせない。
実は今回の潜入調査をするにあたり、ドール参謀を悩ませていたことがあった。それはどうやって隔離された〝孤児院〟内にいる私とコンタクトを取るか、という点だ。《伝令》に制限がかけられていることは間違いないだろうし、その発動は探知系の魔法が使える者がいれば〝孤児院〟側にすぐ気づかれてしまう。
とはいえ、ドール参謀に《無限回廊の扉》のことを知らせれば、今回のミッションに関わった多くの人たちへと、芋づる式に私が世にも珍しい〝回廊持ち〟であると伝わってしまう可能性が高く、とても伝える気にはなれない。そこで、今後のことを考え、博士と相談の上、ある嘘を考え、それを伝えることにした。
私と博士は〝先生と弟子で契約を結んだ者同士の間でしか使えない特殊な魔法による通信手段〟で、いつでもというわけにはいかないが連絡は取り合える、とドール参謀に話してあるのだ。なので、こうして《無限回廊の扉》を使って時々帰宅しながら、グッケンス博士にそれまでに得られた情報を伝え、それを〝メイロードから連絡があった〟ということで、ドール参謀へ伝えていただくという手順になっている。
(魔法使いの秘術ってたくさんあるらしくて、案外この秘密通信の話もすぐ納得してもらえたんだよね。まぁ、ドール参謀のことだから、何か変だと思っても突っ込まないでいてくれるだけかもしれないけど……)
「位置情報については《輝鳴玉》が示してくれていると思いますが、視認できにくくするための《迷彩魔法》で、建物周辺はすべて隠されていました。博士の魔法のように洗練されたものではないので、相手の混乱を招き、敷地内に立ち入れなくするほどの威力ではないですが、目からの情報だけだと一般の方は撹乱されるでしょうね」
「ふむ……」
《地形把握》や《索敵》といった魔法が使える者であれば、十分見破れる程度の魔法ではあるが、そうした手段を持たない一般人が隠されたこの〝孤児院〟を見つけるのはまず無理だろう。国境沿いの何もない深い森の中は、もともと人が少なく地理的にわざわざ魔法使いが通るような場所でもない。このぐらいの偽装が施してあれば、問題なく存在を隠しておけたのだろう。
「子供たちの数はどうだった」
「かなりの人数が暮らしているようです。まだ正確には把握できていませんが、下は五、六歳から上は十八歳ぐらいまででしょうか……少なくとも五から六百人はいると思います。もしかしたら千人を超えるかもしれません」
「呆れた〝孤児院〟だな。それだけの子供たちを長年誘拐し続けているのか」
「まったくだね。ひどいものだ」
セイリュウも盃を傾けながら眉を顰める。
そこから私は彼らが用いているアーティファクトを悪用した暗示について話した。
「その五角形のペンダントを使い、子供たちの記憶をねじ曲げてしまうのか……そうすることで、子供たちの逃げる意思を消し、従順に従うよう洗脳する……なるほど、サンクたちの〝孤児院〟に対する疑いのない妄信的な態度はそのせいだったのだな」
「ええ、あの環境でずっと暮らすことで、より洗脳は強化されていくのではないでしょうか。あれにはキャサリナの腕輪のような速効性や強烈さはありませんでしたが、その分広範囲に効果があるようです。おそらく子供たちは定期的に暗示をかけ続けられているのでしょうね」
博士はぐい呑みでクイっとお酒を飲み干すと、厳しい顔で言った。
「それはまったくもって厄介だのぉ……なんとも面倒なことをしてくれる連中だわ」
「ええ、本当に……」
〝孤児院〟の現状については、まだこれから調査しなければならないことだらけなのは間違いない。そして現時点までの情報で最も憂慮されるのは、この洗脳状態にある子供たちだ。仮にこの段階で、私たちが彼らを助けるために〝孤児院〟を攻撃した場合、洗脳されている子供たちは私たちを〝敵〟とみなし攻撃してくる可能性が極めて高い。
たとえ能力が低くとも千人近い魔術師からの攻撃を受け、しかも相手が保護対象者ではこちらの手がいくらあっても足りないだろう。
「まだ孤児院内部の〝先生〟や〝お母様〟についての詳しい情報はあまり得られていないので、敵の全貌は不明です。セーヤとソーヤに隠密活動を続けてもらいつつ、確実に奴らを捕らえられるようしばらくはいい子を演じていきますね」
「うむ、すまんがそうして信用を得るしか隠された真実へと近づく手段はないだろう。だがな、お前がひとりで背負うにはあまりにも危険な任務でもある。決して油断せず、そして無理をするな。こうして回廊も繋がったいま、わしもセイリュウもいつでも駆けつけられるのだ。危険と判断したら、躊躇せず頼るのだぞ!」
博士の横でセイリュウも優しい笑顔でうなづいている。セイリュウは私の危険を知覚できるので、危なくなれば有無を言わさず助けにくきてくれるのだろう。
「ありがとうございます。心しておきます」
本日のご飯ものも京風にしてみた。湯葉と油揚げを使った卵とじの小さな丼だ。
(まぁ、ソーヤだけはガッツリ丼で食べているけど……)
グッケンス博士もセイリュウも気に入ってくれたようなので、これもいくつか《無限回廊の扉》の中にいつでも食べられるように作ってから帰ることにしようと思う。
ゆっくり楽しみながらの夕食は、私に活力をくれる。美味しいご飯を楽しみ、熱いほうじ茶を啜りながら、私はすっかり気分を良くしていた。これで明日からも頑張れる。
そしてその日は、セーヤによる久しぶりの長ーいフルコースのヘアケアタイムをこなしてから寮の部屋へ戻り、ぐっすりと眠ったのだった。
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