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4 聖人候補の領地経営
600 領主メイロードの挨拶
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600
「それではこれより、シド帝国北東部シルベスター領を引き継がれ、新たな領主となられたメイロード・マリス伯爵さまから、就任のご挨拶をいただだきます」
ムルコ村の人たちが突貫工事で会議が開けるよう増築してくれた村の集会所に集まった、〝マリス領〟十区の代表者たちは大きなテーブルの左右に神妙な顔をして座っている。
紹介された後は、平伏する皆さんの前に、私はこの日のために新調した、貴族らしい非常に高価な錦糸・銀糸の刺繍の入った、重くて威圧感のある衣装を身につけて、厳かに登場し、中央のやや高い場所に設えられた椅子に座ることになっている。
動きにくいし窮屈だし、着るのが辛い衣装だが、領主として初めて公式に挨拶するのであれば、こういった形式は守ったほうが良いというセイツェさんの忠告に従い、イスにある最高級の仕立て屋に注文したものだ。
この衣装、本当は最低でも完成まで三か月かかりますと言われたのだが、そこはサイデムおじさま直伝のゴリ押しと五割増しの報酬でなんとかしてもらった。いつも急で申し訳ないが、さすがにこれは私には作れないので助かった。
私のための一段高い王様みたいな席も領主という立場をはっきりさせるために必要な設えだそうだ。
(まぁ、この方が背の低い私にはちょうど良かったかもね)
リハーサル通りに私が部屋に現れると、全員が立ち上がり、緊張した面持ちでちょっとギクシャクしてはいたが丁寧に礼をとって迎えてくれた。この辺りの作法も事前に何度か予行練習をしてきっちりできるよう仕上げたそうだ。
あまり威厳のないちびっ子領主の就任式でもあるので、きちんとすることで正式に領主として活動するということを領内にはっきり知らしめる、という意味もあるので、今回だけは手を抜かず仰々しくしようとセイツェさんに提案されたのだ。
(こうして代表者に集まってもらったり、公式行事の予行練習をしたりすることで、立場をはっきりさせておくことが、お互いにとって重要なんだそうだ。上下関係の厳しい世界らしいよね)
私を紹介するキッペイに促され、その一段高い場所の椅子へとゆっくりと歩を進めた私は、できるだけ優雅に見えるよう裾捌きに気をつけながら席につき、笑顔で話し始めた。
「皆さま初めまして、メイロード・マリスです。
不思議なご縁で、若輩ながらこの領地を治めることとなりました。
私はこれまでこの地を所有していたシルベスター公爵家とは違い、この領地を良くするために、みなさんの生活に関わっていくつもりです。今日は、私の方針とこれからの主な改革の内容について、情報を共有し、ご意見もいただきたいと考えお集まりいただきました」
私のこの挨拶に一同が不思議な物を見るような顔になっている。
もちろん彼らの戸惑いの理由はわかっている。彼らが混乱するは当然だ。
なぜなら私の姿や形式は、しっかり領主就任のフォーマットに従ったものだが、言っていることは、新任の領主の言いそうな内容ではなく、かなり違和感のある言葉だからだ。
この世界の常識では、領主は領民と情報交換などしないし、意見を聞いたりもしない。
この世界の領主は命令を下す存在、領民に拒否権などない。今日ここにきてくれたそれぞれの地区の代表である彼らも私の下す命令を聞きにきただけなのだ。
きっと彼らにはわざわざ個別面談をした、という事実だけでも相当違和感があっただろう。大概の領主は領地の管理を部下にやらせるもので、就任の挨拶が終われば、後は部下に任せて座っているだけ、もしくは退室してしまうぐらい、領民とは遠い存在なのだ。
だが、私はそういった領主ではない。そのこともしっかり覚えてもらうため、笑顔を絶やさずに話を続けた。
「私はこの北東部の小さな村で育ちました。この土地のことは少しは知っています。それに愛着もあるのです。こうして領主という立場になった以上、皆さんとともに、少しでもここを暮らしやすい場所にしていきたい、そう考えているのです」
「おお……聖女さま……」
声を上げたのはシラン村のある四区の代表者だった。
四区の代表にはタルク村長が推されていたのだが、あまりシラン村との距離を詰め過ぎるのは良くないと考え、今回は別に村の方に代表をお願いした。それでも私の話はしっかり〝聖女伝説〟(笑)とともに伝わっているようだ。
だが今回はそれをあえて否定しないでおくことに決めている。
こんな頼りなげな、ちびっ子領主には何某かの信用が必要だ。〝聖女〟(笑)という肩書が彼らの信用を強めてくれるならば、いまはそれを最大限利用させてもらおう。
(こ、こんな感じ……かな?)
私はセーヤとソーヤ相手に試行錯誤した〝聖女風余裕スマイル〟を維持することを意識しながら話を進めた。
「私の望みは皆さんの協力なしには叶いません。私がいなくなるその時まで、どうかご協力をお願いいたします」
私の低姿勢にも驚いたようだが、それよりも私の言葉にみんな困惑し、ざわつき始めた。
「い、いなくなるって、なんという不吉なことをおっしゃるのですか。就任のご挨拶だというのに……」
「それではこれより、シド帝国北東部シルベスター領を引き継がれ、新たな領主となられたメイロード・マリス伯爵さまから、就任のご挨拶をいただだきます」
ムルコ村の人たちが突貫工事で会議が開けるよう増築してくれた村の集会所に集まった、〝マリス領〟十区の代表者たちは大きなテーブルの左右に神妙な顔をして座っている。
紹介された後は、平伏する皆さんの前に、私はこの日のために新調した、貴族らしい非常に高価な錦糸・銀糸の刺繍の入った、重くて威圧感のある衣装を身につけて、厳かに登場し、中央のやや高い場所に設えられた椅子に座ることになっている。
動きにくいし窮屈だし、着るのが辛い衣装だが、領主として初めて公式に挨拶するのであれば、こういった形式は守ったほうが良いというセイツェさんの忠告に従い、イスにある最高級の仕立て屋に注文したものだ。
この衣装、本当は最低でも完成まで三か月かかりますと言われたのだが、そこはサイデムおじさま直伝のゴリ押しと五割増しの報酬でなんとかしてもらった。いつも急で申し訳ないが、さすがにこれは私には作れないので助かった。
私のための一段高い王様みたいな席も領主という立場をはっきりさせるために必要な設えだそうだ。
(まぁ、この方が背の低い私にはちょうど良かったかもね)
リハーサル通りに私が部屋に現れると、全員が立ち上がり、緊張した面持ちでちょっとギクシャクしてはいたが丁寧に礼をとって迎えてくれた。この辺りの作法も事前に何度か予行練習をしてきっちりできるよう仕上げたそうだ。
あまり威厳のないちびっ子領主の就任式でもあるので、きちんとすることで正式に領主として活動するということを領内にはっきり知らしめる、という意味もあるので、今回だけは手を抜かず仰々しくしようとセイツェさんに提案されたのだ。
(こうして代表者に集まってもらったり、公式行事の予行練習をしたりすることで、立場をはっきりさせておくことが、お互いにとって重要なんだそうだ。上下関係の厳しい世界らしいよね)
私を紹介するキッペイに促され、その一段高い場所の椅子へとゆっくりと歩を進めた私は、できるだけ優雅に見えるよう裾捌きに気をつけながら席につき、笑顔で話し始めた。
「皆さま初めまして、メイロード・マリスです。
不思議なご縁で、若輩ながらこの領地を治めることとなりました。
私はこれまでこの地を所有していたシルベスター公爵家とは違い、この領地を良くするために、みなさんの生活に関わっていくつもりです。今日は、私の方針とこれからの主な改革の内容について、情報を共有し、ご意見もいただきたいと考えお集まりいただきました」
私のこの挨拶に一同が不思議な物を見るような顔になっている。
もちろん彼らの戸惑いの理由はわかっている。彼らが混乱するは当然だ。
なぜなら私の姿や形式は、しっかり領主就任のフォーマットに従ったものだが、言っていることは、新任の領主の言いそうな内容ではなく、かなり違和感のある言葉だからだ。
この世界の常識では、領主は領民と情報交換などしないし、意見を聞いたりもしない。
この世界の領主は命令を下す存在、領民に拒否権などない。今日ここにきてくれたそれぞれの地区の代表である彼らも私の下す命令を聞きにきただけなのだ。
きっと彼らにはわざわざ個別面談をした、という事実だけでも相当違和感があっただろう。大概の領主は領地の管理を部下にやらせるもので、就任の挨拶が終われば、後は部下に任せて座っているだけ、もしくは退室してしまうぐらい、領民とは遠い存在なのだ。
だが、私はそういった領主ではない。そのこともしっかり覚えてもらうため、笑顔を絶やさずに話を続けた。
「私はこの北東部の小さな村で育ちました。この土地のことは少しは知っています。それに愛着もあるのです。こうして領主という立場になった以上、皆さんとともに、少しでもここを暮らしやすい場所にしていきたい、そう考えているのです」
「おお……聖女さま……」
声を上げたのはシラン村のある四区の代表者だった。
四区の代表にはタルク村長が推されていたのだが、あまりシラン村との距離を詰め過ぎるのは良くないと考え、今回は別に村の方に代表をお願いした。それでも私の話はしっかり〝聖女伝説〟(笑)とともに伝わっているようだ。
だが今回はそれをあえて否定しないでおくことに決めている。
こんな頼りなげな、ちびっ子領主には何某かの信用が必要だ。〝聖女〟(笑)という肩書が彼らの信用を強めてくれるならば、いまはそれを最大限利用させてもらおう。
(こ、こんな感じ……かな?)
私はセーヤとソーヤ相手に試行錯誤した〝聖女風余裕スマイル〟を維持することを意識しながら話を進めた。
「私の望みは皆さんの協力なしには叶いません。私がいなくなるその時まで、どうかご協力をお願いいたします」
私の低姿勢にも驚いたようだが、それよりも私の言葉にみんな困惑し、ざわつき始めた。
「い、いなくなるって、なんという不吉なことをおっしゃるのですか。就任のご挨拶だというのに……」
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