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4 聖人候補の領地経営
599 個別面談
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599
「どう? 皆さんくつろいでくれてる?」
領内からこのムルコ村に集まってくれた代表者とは、村に到着した方から順番に個別で面談をする予定になっている。
個別のご挨拶と、その地域についての説明をしてもらうことが目的だ。現在大きな問題を抱えているようなら、それも聞いておきたい。
それぞれの地域は一区から十区と名前をつけた。愛想のない名前だが、その土地にあった素敵な名前は後から付け直してもらうとして、便宜上つけた名前だ。シラン村は四区の端っこ、カングンは五区、ここムルコ村は六区に当たる。それぞれに地域性があって、環境も問題も違うだろうから、これからの施策を考える前に、できるだけ知識を得ておこうという判断だ。
(もちろん、事前ヒアリングを税務局の人たちから受けてはいるんだけどね。それとの照合の意味もあるし、現地の人の声を直接聞きたかったんだ)
到着した皆さんには、旅の疲れを癒しつつティーパーティーを楽しんでもらうことにした。代表同士の親睦にもきっといいだろう。パーティーのための軽食は、私が気合を入れて準備して持ち込んだので、決して足りなくなることはないと思う。
会場の状況にはソーヤが目を光らせてくれているし、我が領地の新しい名産として育てていく予定の乳製品を使ったメニューも好評だと《念話》が入ってきている。特にたくさんのフルーツと生クリームを盛り付けたパンケーキは、老若男女に好評で、遠くからずーっとパーティーの様子を見ていた村の子供たちにも急遽振る舞うことに決めたため、会場はさらに和気藹々としたムードで、いい感じのようだ。
私はパーティーの様子を聞きつつ、まずはイスに一番近い場所にあり、主要街道も通る三区の代表者から話を聞くことになった。地元の豪農だという代表者は、非常に礼儀正しい方で、話もとても明晰だった。
この地区にはすでに〝北東部式酪農術〟による牧場が多く点在している。私たちが最初に立ち上げたものだけでなく、別の出資者におじさまがノウハウを提供した、いわばフランチャイズの牧場もだいぶ増えてきている。もちろん安易に北東部なら牛が育てられると考えた後発の中には〝北東部式酪農術〟を真似た独自の牧場を試みるものも現れたが、残念ながらどこもあっという間に魔物の餌食となっている。
(ノウハウの肝はしっかりおじさまが握っているからね。それにちゃんとした魔法使いを最初に使わないと、牛たちは守れないのに、このシステムをよく知らない人にはそれがわかってないみたいだ)
もちろん牧場運営は新たな雇用やいままでない仕事を増やした。牧場があるエリアの人たちもそのことには喜んでいるそうだが、思ったほどの地元への利益がないとも感じているという。
それは当然で〝北東部式酪農術〟による牧場運営は、人を極力減らすことを主眼として最初から設計している。多くの兵士に守らせず、牧草と博士の配合した特殊な飼料、それに魔法と魔石を利用した防衛……できるだけ人を使わずに手間をかけずに育てられる牧場だ。それは、万が一、牧場が野盗や魔物に襲われた場合の人的被害を最小限にしたいという意図もあってのやり方だった。
元々の運営思想がそういうもののため、当然雇用を大きく増やすことにはなかなかならず、期待外れに見えている……ということだ。
私はこれからは雇用を考えて、加工食品に力を入れていくつもりだと話した。実際、やっと加工に回せそうな量の牛乳が確保できそうになってきたところで、本格的な商品化はこれからという時期だ。
その時には区も出来る限り協力するという話をして、これからの展望を示した。牧場のある地域はこれからは連携して、牧場関連事業を推し進めていくことになりそうだ。
続いて話し合いをした二区も、この牧場エリアなので、概ね三区と同じような話で終わった。
他のエリアの代表の大きな悩みも突き詰めればやはり収入の不足だ。寒冷地である北東部州は、自然豊かではあるが、土地の力が弱いらしく作付面積に対する収穫量がとても低い。労働力に見合うだけの収穫が得られることは多くなく、かといってそれを補えるだけの別の仕事もない、といった状況だ。
特にロームバルトに近い八区は、山に囲まれた場所が広い上、魔物の数が多く、農業に適さない上、森林資源の有効利用も難しいという地域だ。それでも、現状は命がけで山に入ることしか大きな収入を得る手段がないため、毎年犠牲を出しながらも、森へ入る人が絶えないという。
「もう少しだけ山を切り開き、農地が増やせればいいのでしょうが、そのための討伐隊を編成するような余裕はとてもないのでございます……」
八区の悩みは深そうだ。
それぞれの区の代表者の話を聞いてわかったことは、やはり雇用と収入の不足だ。これはなるべく早く施策を打たなければならない。
(それと並行して、個々の区の抱える問題も解決して行かなくちゃね。忙しくなりそうね……)
最後の面談を終えた私は、楽しげに語らう人たちの姿を見ながら、明日の本会議のための原稿を読み返し、それをさらに修正していった。
「どう? 皆さんくつろいでくれてる?」
領内からこのムルコ村に集まってくれた代表者とは、村に到着した方から順番に個別で面談をする予定になっている。
個別のご挨拶と、その地域についての説明をしてもらうことが目的だ。現在大きな問題を抱えているようなら、それも聞いておきたい。
それぞれの地域は一区から十区と名前をつけた。愛想のない名前だが、その土地にあった素敵な名前は後から付け直してもらうとして、便宜上つけた名前だ。シラン村は四区の端っこ、カングンは五区、ここムルコ村は六区に当たる。それぞれに地域性があって、環境も問題も違うだろうから、これからの施策を考える前に、できるだけ知識を得ておこうという判断だ。
(もちろん、事前ヒアリングを税務局の人たちから受けてはいるんだけどね。それとの照合の意味もあるし、現地の人の声を直接聞きたかったんだ)
到着した皆さんには、旅の疲れを癒しつつティーパーティーを楽しんでもらうことにした。代表同士の親睦にもきっといいだろう。パーティーのための軽食は、私が気合を入れて準備して持ち込んだので、決して足りなくなることはないと思う。
会場の状況にはソーヤが目を光らせてくれているし、我が領地の新しい名産として育てていく予定の乳製品を使ったメニューも好評だと《念話》が入ってきている。特にたくさんのフルーツと生クリームを盛り付けたパンケーキは、老若男女に好評で、遠くからずーっとパーティーの様子を見ていた村の子供たちにも急遽振る舞うことに決めたため、会場はさらに和気藹々としたムードで、いい感じのようだ。
私はパーティーの様子を聞きつつ、まずはイスに一番近い場所にあり、主要街道も通る三区の代表者から話を聞くことになった。地元の豪農だという代表者は、非常に礼儀正しい方で、話もとても明晰だった。
この地区にはすでに〝北東部式酪農術〟による牧場が多く点在している。私たちが最初に立ち上げたものだけでなく、別の出資者におじさまがノウハウを提供した、いわばフランチャイズの牧場もだいぶ増えてきている。もちろん安易に北東部なら牛が育てられると考えた後発の中には〝北東部式酪農術〟を真似た独自の牧場を試みるものも現れたが、残念ながらどこもあっという間に魔物の餌食となっている。
(ノウハウの肝はしっかりおじさまが握っているからね。それにちゃんとした魔法使いを最初に使わないと、牛たちは守れないのに、このシステムをよく知らない人にはそれがわかってないみたいだ)
もちろん牧場運営は新たな雇用やいままでない仕事を増やした。牧場があるエリアの人たちもそのことには喜んでいるそうだが、思ったほどの地元への利益がないとも感じているという。
それは当然で〝北東部式酪農術〟による牧場運営は、人を極力減らすことを主眼として最初から設計している。多くの兵士に守らせず、牧草と博士の配合した特殊な飼料、それに魔法と魔石を利用した防衛……できるだけ人を使わずに手間をかけずに育てられる牧場だ。それは、万が一、牧場が野盗や魔物に襲われた場合の人的被害を最小限にしたいという意図もあってのやり方だった。
元々の運営思想がそういうもののため、当然雇用を大きく増やすことにはなかなかならず、期待外れに見えている……ということだ。
私はこれからは雇用を考えて、加工食品に力を入れていくつもりだと話した。実際、やっと加工に回せそうな量の牛乳が確保できそうになってきたところで、本格的な商品化はこれからという時期だ。
その時には区も出来る限り協力するという話をして、これからの展望を示した。牧場のある地域はこれからは連携して、牧場関連事業を推し進めていくことになりそうだ。
続いて話し合いをした二区も、この牧場エリアなので、概ね三区と同じような話で終わった。
他のエリアの代表の大きな悩みも突き詰めればやはり収入の不足だ。寒冷地である北東部州は、自然豊かではあるが、土地の力が弱いらしく作付面積に対する収穫量がとても低い。労働力に見合うだけの収穫が得られることは多くなく、かといってそれを補えるだけの別の仕事もない、といった状況だ。
特にロームバルトに近い八区は、山に囲まれた場所が広い上、魔物の数が多く、農業に適さない上、森林資源の有効利用も難しいという地域だ。それでも、現状は命がけで山に入ることしか大きな収入を得る手段がないため、毎年犠牲を出しながらも、森へ入る人が絶えないという。
「もう少しだけ山を切り開き、農地が増やせればいいのでしょうが、そのための討伐隊を編成するような余裕はとてもないのでございます……」
八区の悩みは深そうだ。
それぞれの区の代表者の話を聞いてわかったことは、やはり雇用と収入の不足だ。これはなるべく早く施策を打たなければならない。
(それと並行して、個々の区の抱える問題も解決して行かなくちゃね。忙しくなりそうね……)
最後の面談を終えた私は、楽しげに語らう人たちの姿を見ながら、明日の本会議のための原稿を読み返し、それをさらに修正していった。
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