利己的な聖人候補~とりあえず異世界でワガママさせてもらいます

やまなぎ

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3 魔法学校の聖人候補

452 冬休み

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452

「貴族の中にだって、たくさん普通に寮生活を送っている人はいるんですから、そこまで悲観的にならなくてもいい気はするんですけどねぇ」

相変わらず間断なく届き続けている大量の贈り物との格闘を続けながら、今日の顛末をグッケンス博士から聞いた私は、素直にそう思った。

博士に今回のペナルティを提案した私は、彼らの感覚の是正がされればいいな、という気持ちだったのだが、彼らにとってはこの罰、思った以上にキツイものに感じられているらしい。

今回の処分対象となった子たちは全員第一寮にいた子たちだ。そのため彼らは入学以来実家となんら変わらない貴族生活をすることが許されてきた。それだけにその特権を失う恐怖は思った以上に大きいようだ。第一寮に居られなくなった彼らは、プライドとかライフスタイルとか、すべてをイチから立て直さなければならないわけで、それは大変で当たり前だし、じゃなきゃ罰にもならない。

実はひとりだけ、第一寮には、今回の罰を受ける必要のない人物がいる。そう、彼らの権力争いから逃れるため私たちと組んだクローナだ。

なので、今回の処分の前に彼女にはひとり残ってもいいと伝えられたのだが、クローナはあっさりと第二寮への移動を決めた。

「今回のことは、もしかしたら私も関わっていたかもしれないことです。それにグッケンス博士がそうせよとご命じになるのであれば、きっとそれは意味のあること、自分の成長につながることなのだと思うのです。
でも、お掃除すらしたことがないので、わからないことだらけなのです。いろいろ教えてくださいね」

博士の名代で、クローナに会いに行った私に、彼女は一瞬の躊躇も見せずにそう言ったのだ。

クローナは実に男らしかった……じゃない雄々しかった……違うか……毅然としていた、うん、これだ!

それに、クローナがそういう覚悟なら喜んで家事指南をさせてもらう。

(ふふ、クローナに魔法を使ったお掃除伝授しちゃおうかなぁ)

当然のように、この裁定に関しては彼らの過保護な親たちから様々な形でのクレームがあったそうだ。だが、この問題はすでに軍部から皇帝陛下の耳にも入っていた。陛下は命を賭して子供たちを守ったグッケンス博士を讃えられた上、学生たちの無謀を叱責された、という情報が出たところで、外野からのクレームはピタリと止んだ。まったくもって貴族とはわかりやすい人たちだ。

クローナ・サンス嬢に対しては、特別の計らいで第二寮への移動となったが、元々空きはないので、今回懲罰対象となった学生たちは次の成績考査が発表になる春まで、二人部屋の第三寮以降の部屋への移動となる。

女子のひとりは、自分が住む部屋を見に行き、そこで泣きわめき始めたそうで、その寮に住む女子から早々に引かれていたそうだ。第一寮で使っていた大量の高級家具を持ち込もうとした生徒が、備え付けのベッドと机以外置く場所がない部屋を見て、絶句した後肩を落としてすべて持ち帰ったとか、勝手に模様替えしようとしたり、同室の子を金で買収して追い出そうとしたりとか、もう

「お前たち、本当に反省してるのかい!」

と、言いたくなるような諸々がありつつも、結局誰ひとり停学を選択する者はいなかった。

当然、問題行動を起こしたその子たちはめちゃくちゃ怒られた上、要監視処分となり、毎日その行動を事務局に報告されるという、プライバシーのかけらもない処分が下された。さらに自分で自分の首を締めるという、なんともお粗末な展開だった。

誰も自分の世話をしてくれないという生活に慣れていないので、しばらくはかなり苦労すると思うが、それもいい経験だ。

(ま、頑張れ!)

冬休みの間、家に戻っているクローナからは、三学期に備えて家の者から生活に必要な家事を習っていると手紙が来た。

〝洗濯や掃除は《清浄》があれば大丈夫だと思っていましたのに、洗濯したものは畳まないといけないし、掃除の後はゴミを捨てないといけないのです。その場で燃やそうとして、メイド長に怒られてしまいました。ああ、それからボタンをつけるための魔法はございませんでしょうか。指が針穴だらけです。ちっともうまくできません〟

といった微笑ましい泣き言が書かれていて、笑ってしまう。お裁縫は、戻ってきたら一緒にやってみよう。

冬の休暇中はほとんどの生徒が帰宅するので、学校の中はとても静かだ。いくつかの大きな都市までは学校所有と軍所有の〝天舟アマフネ〟が一気に運び、そこからそれぞれの故郷へと帰っていく。帰りも同様だそうだ。

静かなこの冬休みの間、私はいよいよ近づいてきた〝エリクサー〟作成のための準備と、治癒の《白魔法》の勉強に勤しもうと思う。

(でも、新年会ぐらいはみんなでやろうかな)

年末の大掃除のため、ソーヤと高価そうな贈り物をぞんざいに《無限回廊の中》の中に放り込みながら、私はみんなの好きそうなお酒のことを考えていた。

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