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2 海の国の聖人候補

361 進路相談?

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361

今の私は、なんだか気が抜けている。

怒涛のチョコレート騒動が終わり、マホロの別荘に戻った私は、ここ数日、なんだかぼんやりして、頭にも躰にも力が入っていないように感じられる。

とは言っても、動いていないわけではなく、しっかりみんなの食事を作り、掃除をし、歌の練習にも通い、家のリビングをリメイクするため大量のクッションを作ったりもしているのだが……やっぱり、なんだか、ぼんやり……

(この歳で、燃え尽き症候群でもないと思うんだけど……)

このぼんやりの原因、実は自分でもなんとなくわかっている。

直接的には、おじさまと話したチョコレート事業の今後の話が原因だ。

広い視野で長期的な展望を持ち計画を立て、商売の未来を見据えながら仕事をしているサイデムおじさまの話を聞いて、本当にすごい人だと再認識した。

翻って自分を考えると、いつも場当たり的な短期決戦。魔法力とスキルに頼りきりの場当たり的なゴリ押し……
何も持たない子供の私には、それしか解決する方法もなく、それを良しとするしかなく今までやってきた。

でも、今の私は自分に与えられた能力の篦棒ベラボウさについても、自分の危険さ危うさについても、よく分かってしまった。

(このままで、いつまでいられるのだろう。いや、いていいんだろうか……)

美味しそうに私の作ったふわふわのオムライスを食べるセーヤとソーヤを見ながら、私はまた、自らの来し方行く末について、モヤモヤと考え始めてしまう……

(そろそろ13歳を迎える私……以前の世界では全く自分の時間を持つことが叶わなかったこの思春期を、私はどう過ごしたいのだろう?)

考え始めたら仕事のこと村のこと、関わった事業のこと、関わってきたたくさんの人たちのこと……
いろいろ思い出しては、頭の中は更に収拾がつかない。
どうにも取り留めのない物思いに占領されている毎日だ。

最初は辺境の小さな村の雑貨屋に残された孤児でしかなかった私。

だが、その生活は楽しかった。本当に楽しかったのだ。
私の一番の望みは、今も変わらず、静かな場所でこんな風に、平和にのどかに過ごしていたい……それだけだ。

だけど、前世からは考えられない自由さの13歳を生きられている今の私が、こんなに老成した生活でいいのかという罪悪感にも似た気持ちが出てきて、ふたつの気持ちがせめぎ合い、心が定まらない。

そして、無心になれるもの作りに没頭して、新たな保存食作りや家のリフォームをやたらとしている毎日。

(……でも、なんだか落ち着かないんだよね、はぁ、どうしよ……)

今の私は、本当に自由だ。お金にも時間にも縛られず、行きたいところに行け、買いたいものが買える。
家族のような楽しい人たちと食卓を囲み、日々大好きなことだけに打ち込める。

それでいい、とも思うのだが、このままを極めずに放置すべきでない、という気持ちも日に日に強くなっている。
そう、このままにはしておけないと思っている勉強……それは魔法だ。

基礎魔法こそ出来はするが、私の魔法は莫大な魔法力頼りの力技だと自分でも分かっている。
今まではグッケンス博士の力を借りて、その場凌ぎでなんとかなってきたが、このままじゃダメなオトナになる気がするのだ。

ぬか漬けをかき回しながら、私はため息をつく。

何度もこんな時グッケンス博士なら、もっと勉強していれば、と思う局面があった私は、 有り余る魔法力と自分の未熟さが釣り合わないことに、言いようのない気持ち悪さを感じているのだ。

(もっとしたい!もっと、しっかり勉強したい!)

元来、きちんとしたことが好きで、学ぶことが好きな私は、今の宙ぶらりんでいい加減な状態が、どうにも居心地が悪い。

本格的に魔法使いになりたい、というわけではないのだが、ちゃんと勉強がしたい。
それに、以前から懸念していたように、魔法を学ぶなら今のうちに行動しないと〝魔術師選別〟の網に間違いなく掛かり、今度は魔法使いになる道以外が閉ざされてしまう可能性が高い。

夕食を食べながら、晩酌を楽しんでいるグッケンス博士にそんな話をしてみた。

「頃合いだの。メイロードの考えは正しい。お前さんの天賦の才は無駄にしていいものではないと思うぞ。それに、過ぎた力を持つお前には、しっかり学ぶことが身を守ることになるじゃろう。私の弟子として魔法学校へ来るといい。今の年なら魔法学校へ入るのに魔法力を測られることもないしの。そうじゃな……まずは、世話係兼任でどうだ?」

「世話係ですか?」

「うむ。世話係兼任の内弟子として、わしが推薦しよう。そうすれば、私の研究棟住みになるからな」

博士が言うには、この世話係を兼ねた内弟子というのは、苦学生救済を兼ねた助手が必要な教授陣のための制度で、寮に住む必要もなく、研究費や生活費も教授持ち、勉強の自由度も高いと言う。

魔法学校では基本的な衣食住は国により保証されているが、勉強のためにいい道具が必要だったり、特殊な材料が必要なこともあり、お金に余裕のない生徒は、それなりに我慢を強いられる。それが解消される上、聴講も自由にでき、師匠の信用があるため、貴族の子弟にないがしろにされることが少ない点も魅力的らしい。

「一応、内弟子になる者には実技試験があるが、まぁ、お前なら問題ないだろう」

上記のような理由で、非常にいい待遇と言える世話係兼任の内弟子。

だが見込みのない学生は不可だし、基本的に教授が受け入れる気がなければ、なることができない狭き門だ。

「ありがとうございます。
1から勉強するつもりで頑張りますので、よろしくお願い致します」

沿海州の主だった国は見てきた。
多くの人と知り合い、いろいろなものを見ることができたと思う。
この国では、楽しいこともたくさんあった。この別荘も大好きだ。

沿海州の商人ギルドでは私の名前は有名になってしまったが、どこの方も私が名を広めないようにしていることは心得てくれているし、とっても私に親切にしてくれる。

どこに行っても〝メイロードさまに危険が及ぶようなことは絶対に許さない〟という雰囲気なので、情報漏洩に関しては、あまり心配しなくて良さそうだ。

(恩は売っておくものね)

グッケンス博士の研究棟に住むことができるので《無限回廊の扉》も自由に使えるから、特に今までと生活を変える必要もない。気になるカカオの木も見に行けるし、エジン先生の味噌蔵にだっていつでも訪ねていける。

ならば、今すべきなのは勉強だ!

私は自分にできることを見極めるため、魔法学校へ行くことに決めた。
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