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2 海の国の聖人候補
356 メイロード式魔法コンチング
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356
今日からは、収穫せずに残しておいた分のカカオの実を採った後、中身を取り出して発酵させる準備をするまでの過程を、ザネの集落からやってきた人たちに教えながら、人力で行う。時間はかかるが、作業自体は難しくないため、一度教えれば、今後は任せても問題はなさそうだ。
同時に発酵用の小屋も集落の人たちに建設してもらうことになった。
(これは、どうしてもお礼として受け取ってもらいたいと、頑として費用は受け取ってくれなかった)
それにしても、ここは今カカオを作る場所として完璧だ。
これからの工程が上手くいき、私が美味しいチョコレートを作り上げた場合、間違いなくタガローサは高レベルの《鑑定》を持つ人間を雇って素材を手に入れる方法を探ってくるだろう。
そして、おそらく〝カカオ〟という植物であること、産地とされる場所までは《鑑定》で知るだろうけれど、タガローサに知り得るのはそこまでだ。
カカオが、今に至るまで僻地のジャングルで少量しか見つかっていないことは〝仙鏡院〟の倉庫で確認済みだし、しかも大陸に持ち込まれているものは全て加熱処理されていて種も手には入らなかった。私が手に入れられたこの〝カカオ〟も、セイリュウが何ヶ月も気に掛けながら世界中を回っていたから手に入ったものだ。
(セイリュウが見つけた場所も、こことは全く別の場所の人も住まない火山付近だったと言うし、タガローサがいくらお金にあかせたって発見は難しいと思うな……)
できればそこで諦めて欲しいが、人の邪魔をすることには金も時間も惜しまないタガローサは、今までのことからして必ず店やサイデム商会の周りを張って、入手経路を突き止めようとするだろう。
だが、まさか沿海州のしかも〝武器の国〟ザインの更に奥地のこのジャングルまでは、たどり着けはしまい。
このチョコレートそして製菓事業が軌道に乗り認知されるまで、ここで生産したカカオは全て《無限回廊の扉》経由で運び、輸出入の記録は残さないつもりだ。役人に鼻薬を嗅がせて、不正に情報を引き出すぐらいのことはなんとも思わない相手だと分かっているので、こちらも真っ正直に正規ルートを使ったりはしない。
これならば、情報を持つのが誰なのか相手も判断しようがないので、誰も従業員や関係者が狙われることはないだろう。イスの〝蛇男事件〟のマルコたちのように危険な目に合う人がいてはいけないのだ。
(深く静かに、そして慎重にしなくちゃね。彼らを守るためならばいくらだって魔法を使うし、それをためらうつもりはない!)
そんなことを考えながらも、手は休めず、私は《風魔法》と《火魔法》を併用して、発酵が終わったカカオ豆の乾燥作業に入った。
風を受けて空中に舞い上がり回転する大量のカカオでできた竜巻に、最初はあっけにとられたようにポカンと私の作業を見ていた集落の人たちも、なんの苦もなく平然と作業を続ける私の姿を見て〝魔法使いのやることだから……〟と認識してくれたようで、すぐに慣れてくれた。
最後は木枠にゴザを張り、その上に豆を広げて天日乾燥、やっとこれで第一段階終了だ。
この乾燥させたカカオは集落の皆さんに手伝ってもらい、選別作業をしてから袋に詰め《無限回廊の扉》経由で、おじさまに探してもらい、イスの郊外に作った秘密の工場へ輸送する。
今はまだ色々な機材が間に合わないので、全て私の魔法を使った作業で行うが、発注している機械が出来上がれば、それが作業を代行してくれるはずだ。
まず私は、まだほとんど何もない空っぽの工場の周囲に、牧場警備の折に培った技術を応用し、《風の魔石》を使った香りの流出を防ぐ防壁を施した。
コレは、ここで何をしているのか、香りから分かってしまうのを恐れてのことだ。
うちの技術を盗みたくてたまらない人がいるので、用心の上にも用心を重ねる必要がある。
周囲への対策が済んだところで、まずは《火魔法》と《風魔法》でカカオ豆を焙煎した後、今度はカカオ豆を魔法で軽く砕いていく。ここでは殻を取り去るのだ。
そして取り出したチョコレートの素となる〝カカオニブ〟を更に砕いていく。ここでは、二つの回転する空気の層の間にカカオ豆を通すことで生まれるグラインダーのような効果を応用。石臼ならぬ空気臼というところ。テンションのかけ方がちょっと難しかったがやっているうちに慣れ、均一化した綺麗な粉末となった。
後は砂糖とミルクなどを足して味を整えて準備完了。
そして、ここからが大変な作業になる。いよいよ〝コンチング〟の開始だ。
チョコレートの滑らかさを作り出すためには不可欠の作業。
まずは、大きなエアバブルの中に、粉砕し味を整えたカカオ豆を流し込む。更にそのバブルの内側にふたつのエアバブルを作り回転させ、撹拌し練り続ける……24時間。
(徹夜はしたくないんだけど……でもやるしかない!)
継続して回転させることは《ループ》という魔法を使えばある程度可能なので少しは目を離せるが、初めての試みなのでどうなるのか私にも予測がつかない。それに《ループ》で繰り返させるためには、繰り返しのために必要な魔法力の注入が必要で切れるとガス欠状態になってしまう。魔石で補う方法も考えられるが、それも初めての今回は加減が分からない。
ということで、この大掛かりな魔法攪拌器をずっと動かすには定期的なメンテナンスと魔法力補充が必要なのだ。
(私の魔法力があればいくらでも注入できるけど《ループ》に蓄積できる魔法量は数時間が限界なんだよね、ここ規模の装置を動かすとなると……)
蓄積できる魔法力の量を増やしたり、逆に効率化したり、そういったことは残念だがすぐには無理。まだまだ私の魔法は洗練には程遠い力技なのだ、残念。
(ああ、やっぱり魔法をもっと勉強しないと……)
というわけで、魔法力の消費状態の確認とか、緊急時の対応の備えるため〝魔法コンチング装置〟の動作を確認しながら寝ずの番だ。どちらも私にしかできないので、今日はここにお泊まりする。
私は気合いを入れて《ループ》を起動。巨大な空気の球を動かし始めた。
滑らかなチョコレートを目指して《メイロード式魔法コンチング》のスタートだ。
今日からは、収穫せずに残しておいた分のカカオの実を採った後、中身を取り出して発酵させる準備をするまでの過程を、ザネの集落からやってきた人たちに教えながら、人力で行う。時間はかかるが、作業自体は難しくないため、一度教えれば、今後は任せても問題はなさそうだ。
同時に発酵用の小屋も集落の人たちに建設してもらうことになった。
(これは、どうしてもお礼として受け取ってもらいたいと、頑として費用は受け取ってくれなかった)
それにしても、ここは今カカオを作る場所として完璧だ。
これからの工程が上手くいき、私が美味しいチョコレートを作り上げた場合、間違いなくタガローサは高レベルの《鑑定》を持つ人間を雇って素材を手に入れる方法を探ってくるだろう。
そして、おそらく〝カカオ〟という植物であること、産地とされる場所までは《鑑定》で知るだろうけれど、タガローサに知り得るのはそこまでだ。
カカオが、今に至るまで僻地のジャングルで少量しか見つかっていないことは〝仙鏡院〟の倉庫で確認済みだし、しかも大陸に持ち込まれているものは全て加熱処理されていて種も手には入らなかった。私が手に入れられたこの〝カカオ〟も、セイリュウが何ヶ月も気に掛けながら世界中を回っていたから手に入ったものだ。
(セイリュウが見つけた場所も、こことは全く別の場所の人も住まない火山付近だったと言うし、タガローサがいくらお金にあかせたって発見は難しいと思うな……)
できればそこで諦めて欲しいが、人の邪魔をすることには金も時間も惜しまないタガローサは、今までのことからして必ず店やサイデム商会の周りを張って、入手経路を突き止めようとするだろう。
だが、まさか沿海州のしかも〝武器の国〟ザインの更に奥地のこのジャングルまでは、たどり着けはしまい。
このチョコレートそして製菓事業が軌道に乗り認知されるまで、ここで生産したカカオは全て《無限回廊の扉》経由で運び、輸出入の記録は残さないつもりだ。役人に鼻薬を嗅がせて、不正に情報を引き出すぐらいのことはなんとも思わない相手だと分かっているので、こちらも真っ正直に正規ルートを使ったりはしない。
これならば、情報を持つのが誰なのか相手も判断しようがないので、誰も従業員や関係者が狙われることはないだろう。イスの〝蛇男事件〟のマルコたちのように危険な目に合う人がいてはいけないのだ。
(深く静かに、そして慎重にしなくちゃね。彼らを守るためならばいくらだって魔法を使うし、それをためらうつもりはない!)
そんなことを考えながらも、手は休めず、私は《風魔法》と《火魔法》を併用して、発酵が終わったカカオ豆の乾燥作業に入った。
風を受けて空中に舞い上がり回転する大量のカカオでできた竜巻に、最初はあっけにとられたようにポカンと私の作業を見ていた集落の人たちも、なんの苦もなく平然と作業を続ける私の姿を見て〝魔法使いのやることだから……〟と認識してくれたようで、すぐに慣れてくれた。
最後は木枠にゴザを張り、その上に豆を広げて天日乾燥、やっとこれで第一段階終了だ。
この乾燥させたカカオは集落の皆さんに手伝ってもらい、選別作業をしてから袋に詰め《無限回廊の扉》経由で、おじさまに探してもらい、イスの郊外に作った秘密の工場へ輸送する。
今はまだ色々な機材が間に合わないので、全て私の魔法を使った作業で行うが、発注している機械が出来上がれば、それが作業を代行してくれるはずだ。
まず私は、まだほとんど何もない空っぽの工場の周囲に、牧場警備の折に培った技術を応用し、《風の魔石》を使った香りの流出を防ぐ防壁を施した。
コレは、ここで何をしているのか、香りから分かってしまうのを恐れてのことだ。
うちの技術を盗みたくてたまらない人がいるので、用心の上にも用心を重ねる必要がある。
周囲への対策が済んだところで、まずは《火魔法》と《風魔法》でカカオ豆を焙煎した後、今度はカカオ豆を魔法で軽く砕いていく。ここでは殻を取り去るのだ。
そして取り出したチョコレートの素となる〝カカオニブ〟を更に砕いていく。ここでは、二つの回転する空気の層の間にカカオ豆を通すことで生まれるグラインダーのような効果を応用。石臼ならぬ空気臼というところ。テンションのかけ方がちょっと難しかったがやっているうちに慣れ、均一化した綺麗な粉末となった。
後は砂糖とミルクなどを足して味を整えて準備完了。
そして、ここからが大変な作業になる。いよいよ〝コンチング〟の開始だ。
チョコレートの滑らかさを作り出すためには不可欠の作業。
まずは、大きなエアバブルの中に、粉砕し味を整えたカカオ豆を流し込む。更にそのバブルの内側にふたつのエアバブルを作り回転させ、撹拌し練り続ける……24時間。
(徹夜はしたくないんだけど……でもやるしかない!)
継続して回転させることは《ループ》という魔法を使えばある程度可能なので少しは目を離せるが、初めての試みなのでどうなるのか私にも予測がつかない。それに《ループ》で繰り返させるためには、繰り返しのために必要な魔法力の注入が必要で切れるとガス欠状態になってしまう。魔石で補う方法も考えられるが、それも初めての今回は加減が分からない。
ということで、この大掛かりな魔法攪拌器をずっと動かすには定期的なメンテナンスと魔法力補充が必要なのだ。
(私の魔法力があればいくらでも注入できるけど《ループ》に蓄積できる魔法量は数時間が限界なんだよね、ここ規模の装置を動かすとなると……)
蓄積できる魔法力の量を増やしたり、逆に効率化したり、そういったことは残念だがすぐには無理。まだまだ私の魔法は洗練には程遠い力技なのだ、残念。
(ああ、やっぱり魔法をもっと勉強しないと……)
というわけで、魔法力の消費状態の確認とか、緊急時の対応の備えるため〝魔法コンチング装置〟の動作を確認しながら寝ずの番だ。どちらも私にしかできないので、今日はここにお泊まりする。
私は気合いを入れて《ループ》を起動。巨大な空気の球を動かし始めた。
滑らかなチョコレートを目指して《メイロード式魔法コンチング》のスタートだ。
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