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2 海の国の聖人候補

355 集落での宴

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355

しっかり実った赤いカカオは信頼と実績の《緑の手》品質、さすがの出来だ。全体の半分ほどを、サクッと魔法で収穫。

今回収穫したのは同一品種から取った種だからか全て赤い。他にも黄色っぽいものなど、カカオにもいくつか種類がある。産地によって味もいろいろなのだけど、今は一種類しか見つかっていないので、これでいくしかない。できればバランスのいい味のカカオであってほしいが、コレばかりは出来上がるまで分からないので、賭けではある。

見つかれば、また違う品種も試してみたいところだ。研究所の温室で品種改良もお願いしているから、そのうち色々な味のカカオも採れる日がくるだろう。

さてここからも魔法全開の収穫作業。
空気を圧縮してカカオの実をプレスし、中からパルプと呼ばれる白い果肉に包まれたカカオの種を取り出して、箱に入れていく。この状態で発酵させるために1週間ほど置いておくのだが、のんびり待ってもいられないので、ソーヤたちに無限回廊の時短部屋へ運んでもらった。

これで、明日には次の工程が行える。

ここまで作業したところで、夕暮れが近づいてきたので暗くならないうちに、ザネの集落へと向かう。

お土産には〝西ノ森味噌〟と草団子風の餅菓子。
この草団子は完全異世界素材で作ることができた、嬉しい一品だ。豆は小豆に似たものをいくつか試したところ、とても赤い〝カロコロ豆〟というモノがドンピシャの味だった。甘みは蜂蜜を使用、香りと色のための草も《鑑定》で可食と出た薬の材料とされる香りの良い〝ニギ草〟というのを使ってみたところ、素晴らしい出来になった。餡がかなり赤い色なことを除けば見た目も味もほぼ完璧な草餅だ。

〝カロコロ豆〟も〝ニギ草〟も沿海州原産で馴染みのありそうな素材なので、きっと気に入ってくれるだろう。

完成した出来上がったばかりの温かい〝ニギ餅〟は、ソーヤが気に入って大量に食べてしまったので、今日お持ちする分は《生産の陣》での複製品。味に違いはないので、ソーヤもご機嫌だし、まぁ良し。

ザネの大森林と呼ばれるこの辺りには、集落はここだけのようで《地形把握》をしながら《索敵》をしても、彼ら以外の人の姿は全く見えない。

「それは……この場所が最も安全だからでございます」

食事に招待してくれたバイオンさんによれば、魔物や畑を荒らす動物は〝ザネの眼〟の届く範囲には滅多に入ってこないのだそうだ。
そのため、最も安全とされるこの巨木に近接した集落が作られたのだという。

(そうなると、私の畑周辺にも柵や結界が必要かも……)

「〝ザネの眼〟ヒト、守るよ。ヒト、ザネを守るから!」

早速〝ニギ餅〟を頬張りながら、ネネが教えてくれる。

巨木が長い年月生きるためには、人の世話が必要だ。剪定し、病気から守り、日々様子を見る代わりに〝ザネの眼〟は周囲に結界のようなものを作り出し、人々の安全を保っているのだ。

(なかなかいい関係だね)

ご馳走になった食事は、お世辞にも贅沢とは言えなかったが、地野菜と貴重な干し肉や鳥などを使ったもので、きっと最上級のもてなしなのだろうと感じられた。

「エーデのために使って頂いた高価な魔法薬には及びもつきませんが、せめてものお礼と思ってお召し上がりになって下さい」

バイオンさんは、あれが魔法薬であることを知っている様子で、それが沿海州では大陸より更に貴重品であることも分かっていた。だから、とても恐縮して困っている。

「私はあの時申し上げたはずですよ。見返りなど求めないと……
お気を使わないで下さい。困っている方を見ると、助けたくなるのは私の性分なのです。私のワガママなんですよ」

私は持ってきた味噌と木の実から採ったオイルそれに少しの酢を合わせて即席の味噌ドレッシングを作り、野菜と一緒に食べることを勧めてみた。アキツと違い味噌が流通していないザインでは、かなり珍しい食材かもしれない。最初は、恐る恐る食べていたが、すぐ味が気に入った様子で、皆喜んで食べてくれている。

「この味噌というもの。大変美味しいですな。マホロでこのようなものが作られているのですか」

私はついでとばかり、焚き火を竃がわりに大鍋をマジックバッグから取り出し、野菜をもらって刻み入れ、干したキノコからとった出汁を使って味噌汁を作り振舞った。

内陸に住む彼らは魚介の出汁は生臭く感じられるかもしれないし、この方法なら彼らも出汁をとることを実践できるだろう。

「メイロードさまは美味しいものをご存知なのですね。干したキノコにこんな味があるとは知りませんでした。味噌と一緒に食べると、野菜が美味しいです!」

エーデはお椀を大事そうに抱えて、ネネと分け合うようにお味噌汁を幸せそうに食べている。
もうすっかり体調も戻った様子だ。

「ああ、そうだ!大事なご相談があるのですが、よろしいですか?l」

私の言葉にバイオンさんは茶碗を置いて私の方へ向き直る。

「もし、この村の方に余力があるようならば、私の作った畑をこれから管理しては頂けないでしょうか。これはお仕事ですので、もちろん対価はお支払い致します。

畑にあるのはカカオという木の実です。タネを取り発酵させた後、乾燥するところまでお願いしたいのですが……」

ここでの農業で1日働いて得られるのは大体1ポルから2ポルだというので、その2倍4ポルを確約し、取れ高と質に応じてボーナスも支給すると伝えた。

「そ、そんな条件で大丈夫なのですか、メイロードさま。
2ポルでもかなり良い稼ぎなのですよ、我々には」

「問題ありません。これはそれだけの価値を生むモノですから。もし、お引き受け頂けるようなら、明日から手入れと収穫の方法をお教えしますので、やってみたい方を募ってみて下さい。
あ、もちろんカカオ専業にして頂く必要はありません、年2回の収穫期以外は、見回りや木の剪定をして頂ければ、他の農作業と並行して行って頂いて構いませんので……」

どうやら、破格の好条件だったらしく、バイオンさんはこの仕事を村として受け、きっちり責任者を置き希望者全てが仕事に携われるよう考えてくれるそうだ。

今のカカオ農園の規模を伝えたところ、普段は30人、収穫期は100人ぐらいいれば、十分な世話ができるだろうとバイオンさんが言うので、それで日当を計算し、私は半期分として5万ポルを用意すると告げた。

「ご、五万……」

絶句するバイオンさんに、私はにっこり笑って言った。

「出来上がったチョコレートを食べて頂いたら、その価値もきっと分かって頂けると思います。
皆さんの努力を無駄にしないよう、私も頑張らないといけませんね」
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