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2 海の国の聖人候補
306 実験開始の朝
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306
気合いを入れたい時にはこれと決めている、割烹着に三角巾で、私は早朝からエジンさんの研究所のやってきた。
早速作業を開始し、今は持ち込んだコメと麦を蒸し上げている。
昨日の話し合いで、エジンさんに共同研究の申し出をし、快く了承してもらうことができた。
という訳で、本日、いよいよ味噌蔵での実験スタートだ。
エジンさんは、今日は手を出さず基本的に私の研究や行動を見ているそうだ。
「最初から2人で好き勝手に進めると混乱しそうだから、今日は君のやり方を見せてよ」
エジンさんは私の様子を面白そうに観察しながら、私が朝食にと持ち込んだ、自家製のやや硬めの細長いパンを割って、スパイスを利かせた脂の乗った魚のフライとトマトにオニオンや葉野菜、それにビネガーソースを振りかけたさっぱり味のフィッシュサンドにかぶりついている。
「朝からご馳走さま。いや、旨いねこれ!君のうちの料理人はいい腕だなぁ」
観察眼が鋭すぎる故なのか、服装や立ち居振る舞い、そして商人ギルドでの皆の態度などから、エジンさんは私を〝風変わりなお金持ちの商家のご令嬢〟だと思っているようだ。
この世界では人手が安いので、少し余裕がある家では人を雇うことが当たり前だし、お嬢様は料理などしない。だから、エジンさんがそう思うのは分かる。だが、味噌作りの話もし、今も台所仕事のような作業をしているのに、なぜ私が作ったと思わないのだろう。不思議だ。
「そういえば、今日の作業の記録を取らなくていいんですか?
一応、使った材料などは、私が書き留めてはいますけど……」
仮にも実験なので、私は出来るだけ状況を記録しようと努めていた。
異世界からかなり高い値段で取り寄せた(でも、安い簡易タイプだけど)温度・湿度計も使い、計りはこの世界のできるだけ精密なものを選び、取れる記録は全て取るつもりで望んでいる。
だが研究を仕切るはずのエジンさんは、全く記録しようとしていないのだ。
「ああ、見てるから大丈夫だよ~」
相変わらず美味しそうにフィッシュサンドを頬張りながら、ニコニコとこちらを見ているだけ。
不思議そうな私の顔に、エジンさんは苦笑しながら、彼の持つ能力について説明してくれた。
「僕は見たこと聞いたことを忘れないんだ。全ては頭の中に記録される。だから、君のこともすぐ分かったでしょ?」
どうやらエジンさんは〝完全記憶能力〟の持ち主らしい。
全ては写真のように正確に記憶され、決して忘れることはないそうだ。
「じゃ、あの板紙の記録は何のために?」
「ああ、あれは、以前助成金の申請の時記録を出せって言われたんで書いたやつと、最近〝魔石冷蔵庫〟の申請をするとき添付しようかなと思って、書き起こしたやつだね。結局、どっちも使わなかったけど……
僕だけ分かればいいことは、記録に残す癖が付いてなくて、手伝いをしてくれる人達に、よく怒られるんだけどさ」
昨日見た、積み上げられた味噌樽に何の記録も添付されていなかったのも、全て覚えているかららしい。
(すごいけど、なんだかなぁ)
エジンさんはこの能力を生かし、手に入る資料を求めて沿海州中を回りながら、その全ての記録を脳内に収め、その合間にはアイテムハンターをしてお金を貯めた。
最近になって、やっと資金の目処がついたので、この廃墟になっていた元味噌蔵を買い、販売と研究を兼ねたこの場所を作ったのだそうだ。
「僕の能力があれば、アイテムハンターの方が断然儲かるけど、研究が好きなんだよね。〝豆の妖精〟はものすごく面白いよ。なかなかいうことを聞いてくれないけどね。でもそれがいい!」
大概のことが苦もなくできてしまうエジンさんは、自分ではどうにもならない未知の世界が大好きなようだ。
「それにしても君の従者は力持ちだねぇ。助かるよ」
私の横で、重い大量の豆の入った袋や樽をヒョイヒョイっと動かしているソーヤを見て、驚くエジンさん。
なんでも、大量の豆の煮炊きと移動が必要な時は、この周辺の村の女性を雇っているそうだが、皆それほど力は強くないので、荷運びは数人がかりだそうだ。
「この辺りは、女性が数時間だけ働けるところがないから、彼女たちの助けになれば、と思ってね。まぁ、安い値段で来てくれるっていうのもあるけど……」
エジンさんは笑っているが、それは素晴らしい志だと思う。
確かに、町から少し距離があり、通勤に不便なこの場所では、街で短時間の仕事をするのは難しい。
子供や家の事を優先せざるを得ない女性は、働きたくても働く場所がないのだろう。
「エジンさんには、色々なことが見えているですね。素晴らしいです。先生と呼ばせてください!」
エジン先生はいたずらっぽく笑いながら、2個目のお魚のサンドウィッチにかぶりつく。
どうやら相当お気に召したようだ。
そろそろ、こちらも準備完了。
〝豆の妖精〟をたくさん呼ぶ方法をエジン先生に教えよう。
気合いを入れたい時にはこれと決めている、割烹着に三角巾で、私は早朝からエジンさんの研究所のやってきた。
早速作業を開始し、今は持ち込んだコメと麦を蒸し上げている。
昨日の話し合いで、エジンさんに共同研究の申し出をし、快く了承してもらうことができた。
という訳で、本日、いよいよ味噌蔵での実験スタートだ。
エジンさんは、今日は手を出さず基本的に私の研究や行動を見ているそうだ。
「最初から2人で好き勝手に進めると混乱しそうだから、今日は君のやり方を見せてよ」
エジンさんは私の様子を面白そうに観察しながら、私が朝食にと持ち込んだ、自家製のやや硬めの細長いパンを割って、スパイスを利かせた脂の乗った魚のフライとトマトにオニオンや葉野菜、それにビネガーソースを振りかけたさっぱり味のフィッシュサンドにかぶりついている。
「朝からご馳走さま。いや、旨いねこれ!君のうちの料理人はいい腕だなぁ」
観察眼が鋭すぎる故なのか、服装や立ち居振る舞い、そして商人ギルドでの皆の態度などから、エジンさんは私を〝風変わりなお金持ちの商家のご令嬢〟だと思っているようだ。
この世界では人手が安いので、少し余裕がある家では人を雇うことが当たり前だし、お嬢様は料理などしない。だから、エジンさんがそう思うのは分かる。だが、味噌作りの話もし、今も台所仕事のような作業をしているのに、なぜ私が作ったと思わないのだろう。不思議だ。
「そういえば、今日の作業の記録を取らなくていいんですか?
一応、使った材料などは、私が書き留めてはいますけど……」
仮にも実験なので、私は出来るだけ状況を記録しようと努めていた。
異世界からかなり高い値段で取り寄せた(でも、安い簡易タイプだけど)温度・湿度計も使い、計りはこの世界のできるだけ精密なものを選び、取れる記録は全て取るつもりで望んでいる。
だが研究を仕切るはずのエジンさんは、全く記録しようとしていないのだ。
「ああ、見てるから大丈夫だよ~」
相変わらず美味しそうにフィッシュサンドを頬張りながら、ニコニコとこちらを見ているだけ。
不思議そうな私の顔に、エジンさんは苦笑しながら、彼の持つ能力について説明してくれた。
「僕は見たこと聞いたことを忘れないんだ。全ては頭の中に記録される。だから、君のこともすぐ分かったでしょ?」
どうやらエジンさんは〝完全記憶能力〟の持ち主らしい。
全ては写真のように正確に記憶され、決して忘れることはないそうだ。
「じゃ、あの板紙の記録は何のために?」
「ああ、あれは、以前助成金の申請の時記録を出せって言われたんで書いたやつと、最近〝魔石冷蔵庫〟の申請をするとき添付しようかなと思って、書き起こしたやつだね。結局、どっちも使わなかったけど……
僕だけ分かればいいことは、記録に残す癖が付いてなくて、手伝いをしてくれる人達に、よく怒られるんだけどさ」
昨日見た、積み上げられた味噌樽に何の記録も添付されていなかったのも、全て覚えているかららしい。
(すごいけど、なんだかなぁ)
エジンさんはこの能力を生かし、手に入る資料を求めて沿海州中を回りながら、その全ての記録を脳内に収め、その合間にはアイテムハンターをしてお金を貯めた。
最近になって、やっと資金の目処がついたので、この廃墟になっていた元味噌蔵を買い、販売と研究を兼ねたこの場所を作ったのだそうだ。
「僕の能力があれば、アイテムハンターの方が断然儲かるけど、研究が好きなんだよね。〝豆の妖精〟はものすごく面白いよ。なかなかいうことを聞いてくれないけどね。でもそれがいい!」
大概のことが苦もなくできてしまうエジンさんは、自分ではどうにもならない未知の世界が大好きなようだ。
「それにしても君の従者は力持ちだねぇ。助かるよ」
私の横で、重い大量の豆の入った袋や樽をヒョイヒョイっと動かしているソーヤを見て、驚くエジンさん。
なんでも、大量の豆の煮炊きと移動が必要な時は、この周辺の村の女性を雇っているそうだが、皆それほど力は強くないので、荷運びは数人がかりだそうだ。
「この辺りは、女性が数時間だけ働けるところがないから、彼女たちの助けになれば、と思ってね。まぁ、安い値段で来てくれるっていうのもあるけど……」
エジンさんは笑っているが、それは素晴らしい志だと思う。
確かに、町から少し距離があり、通勤に不便なこの場所では、街で短時間の仕事をするのは難しい。
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「エジンさんには、色々なことが見えているですね。素晴らしいです。先生と呼ばせてください!」
エジン先生はいたずらっぽく笑いながら、2個目のお魚のサンドウィッチにかぶりつく。
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