利己的な聖人候補~とりあえず異世界でワガママさせてもらいます

やまなぎ

文字の大きさ
上 下
107 / 837
2 海の国の聖人候補

296 御宣託

しおりを挟む
296

微動だにしない光り輝く鳥から聞こえてくる、これは神の声……なんだろうか?

ともかく、膝を折り最高の敬意を表す礼をとるセイリュウを真似、私も慌てて礼をとった。

バンハランは何が起こっているのか判ってはいないようだが、が起こっていることはさすがに察したようで、私たちに合わせてくれている。

〔そこの武人にも説明しておやりなさい〕

と神様が言うので、私はバンハランに、いま舞台上に〝神宣鳳〟が舞い降りてきたこと。私と〝セイ〟(ミゼルにも)その姿が見えているし、声も聞こえていることを告げた。

「なっ……」

と言ったきり絶句したバンハランは、何か悟ったようで、

「状況は理解しました。今はヌノビキの神のお言葉に集中なさって下さい。そして、できれば後で内容をお聞かせ下さいますよう、お願い致します」

そう言って、深く礼をする体勢に入った。
見えないとはいえ、直接〝神宣鳳〟の降りている場所を見るのは不敬と思ったようだ。

〔これもよい男なのだが、思慮がまだまだ浅くてな。許してやっておくれ〕

どうやらヌノビキの神は私たちのドタバタも、すべてご存知の様子だ。

〔改めて礼を言う。聖龍よ、祝福を受けし娘よ、神の楽師よ。お前たちの力を持って、この美しい衣も、我に使えし巫女も救われた。神事は滞りなく遂げられ、この街の守りも続いていこう……ご苦労だった〕

神様との約束というのは〝契約〟に近いものらしく、守れなかった事情については基本的に斟酌しないものらしい。元々、神様が守ってくれるということが〝稀有な恩恵〟であって、それを守るために努力を続けることを課している。
それが守れないのであれば、恩恵もそれまで……ということのようだ。

考えてみれば、元々ひとりの少女の願いで与えた恩恵に過ぎない、この街の護り。
街にも人も、それを忘れず大事にしていく気持ちがなければ、神も離れるということなのだろう。

この世での不幸や不運は人の世のことなので、神様は全てを見知っても基本ノータッチらしいが、この世界と神の世界の間に立つ青龍のような存在は容認している。それの助けが得られるかどうかも、また人の世の運という態度だ。

(結構ドライだよね、神様って……)

〔今回のお前たちの働きにヌノビキヒメがとても感謝している。ふたりにこれを渡すよう預かってきたよ〕

そういうと、青と白二反の反物が宙に現れた。

〔青は青龍へ、白はメイロードへ。ご苦労だった〕

セイリュウがその反物をありがたく受け取る。

〔今年の祭りもつつがなく完了した。この街の守護は叶った、と皆に伝えるがよい〕

そう言い残すと〝神宣鳳〟はその美しい羽を光り輝かせながら、再び飛び立っていった。

「〝神宣鳳〟は帰られましたよ」

私が告げると、ホッとしたようバンハランが顔を上げた。

セイリュウが舞台の上からバンハランに告げる。

「ヌノビキヒメの願いは、新しい年も続くと神は約束された。今年のようなことがなきよう、より精進されよ」

セイリュウの言葉に、バンハランが真剣に頷く。

「はい!今回の失態は全て公にし、二度とこのようなことがなきよう、全ての者たちに伝えます。
神の加護があることに、決して慣れてはいけないことも。

それを忘れた、愚かな私と妹が、その罪を贖うために、どのような罰を受けようとも、謹んで全うするつもりです。

ご助力、ありがとうございました。心より感謝致します」

バンハランの表情は清々しく、妹と街が救えたことに心底安堵しているようだった。

「ああ、そういえば、もうひとつ御宣託がございました」

セイリュウの言葉に私は驚いた。

(え、他に何か言ってたかな?)

「あなたの罪の贖い方を指示されたのですよ。実行なさいませね」

そして、ちょっと楽しげな顔で舞台上の美女はちょっといたずらっぽく微笑んだ。
しおりを挟む
感想 2,991

あなたにおすすめの小説

若奥様は緑の手 ~ お世話した花壇が聖域化してました。嫁入り先でめいっぱい役立てます!

古森真朝
恋愛
意地悪な遠縁のおばの邸で暮らすユーフェミアは、ある日いきなり『明後日に輿入れが決まったから荷物をまとめろ』と言い渡される。いろいろ思うところはありつつ、これは邸から出て自立するチャンス!と大急ぎで支度して出立することに。嫁入り道具兼手土産として、唯一の財産でもある裏庭の花壇(四畳サイズ)を『持参』したのだが――実はこのプチ庭園、長年手塩にかけた彼女の魔力によって、神域霊域レベルのレア植物生息地となっていた。 そうとは知らないまま、輿入れ初日にボロボロになって帰ってきた結婚相手・クライヴを救ったのを皮切りに、彼の実家エヴァンス邸、勤め先である王城、さらにお世話になっている賢者様が司る大神殿と、次々に起こる事件を『あ、それならありますよ!』とプチ庭園でしれっと解決していくユーフェミア。果たして嫁ぎ先で平穏を手に入れられるのか。そして根っから世話好きで、何くれとなく構ってくれるクライヴVS自立したい甘えベタの若奥様の勝負の行方は? *カクヨム様で先行掲載しております

聖女の私が追放されたらお父さんも一緒についてきちゃいました。

重田いの
ファンタジー
聖女である私が追放されたらお父さんも一緒についてきちゃいました。 あのお、私はともかくお父さんがいなくなるのは国としてマズイと思うのですが……。 よくある聖女追放ものです。

【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました

ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。

今さら言われても・・・私は趣味に生きてますので

sherry
ファンタジー
ある日森に置き去りにされた少女はひょんな事から自分が前世の記憶を持ち、この世界に生まれ変わったことを思い出す。 早々に今世の家族に見切りをつけた少女は色んな出会いもあり、周りに呆れられながらも成長していく。 なのに・・・今更そんなこと言われても・・・出来ればそのまま放置しといてくれません?私は私で気楽にやってますので。 ※魔法と剣の世界です。 ※所々ご都合設定かもしれません。初ジャンルなので、暖かく見守っていただけたら幸いです。

メインをはれない私は、普通に令嬢やってます

かぜかおる
ファンタジー
ヒロインが引き取られてきたことで、自分がラノベの悪役令嬢だったことに気が付いたシルヴェール けど、メインをはれるだけの実力はないや・・・ だから、この世界での普通の令嬢になります! ↑本文と大分テンションの違う説明になってます・・・

あなた方はよく「平民のくせに」とおっしゃいますが…誰がいつ平民だと言ったのですか?

水姫
ファンタジー
頭の足りない王子とその婚約者はよく「これだから平民は…」「平民のくせに…」とおっしゃられるのですが… 私が平民だとどこで知ったのですか?

妹だけを可愛がるなら私はいらないでしょう。だから消えます……。何でもねだる妹と溺愛する両親に私は見切りをつける。

しげむろ ゆうき
ファンタジー
誕生日に買ってもらったドレスを欲しがる妹 そんな妹を溺愛する両親は、笑顔であげなさいと言ってくる もう限界がきた私はあることを決心するのだった

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。