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第9話 困惑(北杜視点)
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弟の西輝は俺達の結婚について無関心どころか、相当気にしていたようで、入籍についての話が進んでいない事にかなり不満らしい。
「全然結婚式についても話してないって聞いたぞ。どうするつもりだよ」
まさか西輝にまでそんな事を言われるとは思っていなかった。
「これから話し合って決めるから心配するな」
そう宥めるも納得のいかない顔をしている。
「静夏に聞いた。全く話をしていないどころか、深春さんはまだ愛のない結婚だって思っているって」
「お前、そんな話を静夏ちゃんとしているのか」
驚いた。
てっきり犬猿の仲だと思っていた二人がそのような話をしているなんて。
顔を合わせればお互い文句を言いあっているのに。
「俺の事はどうでもいい。それよりも早いところ誤解を解かないと、このまま入籍したんではいつまでもしこりが残る。兄貴はそれで良いのか?」
良いわけがない。ただなかなか言い出せないだけだ。
「タイミングを見ているだけだ、後日伝える」
西輝は大きなため息をつく。
「六年も側にいるくせに告白の一つも出来ないなんて、とんだ腰抜けだな」
「何?」
さすがに聞き捨てならない。
「そうじゃないならさっさとしろよ。兄貴以外はもう準備万端なのに、いつまでも深春さんを待たせるんじゃねぇ」
弟に胸倉を掴まれる日が来るとは思わなかった。
「深春が俺を待っているわけないだろう……彼女はこの結婚を嫌がっているのに」
「嫌なのは兄貴がはっきり好きだと伝えないからだよ」
呆れたような声と表情をされるが、そんな言葉を聞いても信じられない。
「だって深春はいつも俺といると暗い顔をしているんだぞ。それなのに俺からの言葉を待つなんて、そんな事はない」
「自分の存在が兄貴を縛り付けたと思っているんだ。周囲がいくら言っても納得しないんだから、兄貴が言うしかない。深春さんは兄貴が好きなんだ、だから早く伝えろよ」
深春が俺を好き? 俺から言われるのを待っている?
戯言と跳ねのけるのは簡単だろうけど、こうまでして言いに来たという事は無視できないものだ。
「親父や母さんは兄貴が気づくまで言うななんて言うけど、それじゃ俺が困るんだよ」
「?」
西輝が困る? 何かあるのだろうか。
それはともかく、弟のいう事が本当であれば、俺はずっと深春を待たせていたことになるのか。
あの暗い顔は俺がはっきりと伝えていなかったから、不安に思っていたという事なのだろうか。
もしも自分のせいであのような顔をさせていたというのなら申し訳ない。
自分が嫌いと言われるよりも、深春が辛い思いをしている方が余程嫌だ。
「わかった。今度こそ深春に伝えてくるからな」
それを聞いて、ようやく西輝は手を離してくれた。
「早くしろよ。俺も静夏も二人の衣装を作るのを楽しみにしているんだからな」
「それは初耳だ」
確かに二人ともデザイン系の勉強をしているがそんな話は今まで言われた事がない。
「話が固まってからと思ったが一向にないから打診すら出来なかったんだよ。俺の方はいいが、静夏の方が困る。ウェディングドレスの方が工程が多いからな」
静夏ちゃんの作るドレスなんて、きっとどのブランドのものよりも深春は喜ぶだろう。
そしてそれはきっと天羽生家の妹皆の願いだ、ずっと頑張ってきた姉への最大のお祝い。
(それを聞いたら、このまま暗い顔で居させるわけにはいかないな)
何としても笑顔で着て貰わないと。
そして絶対に幸せにする。
「全然結婚式についても話してないって聞いたぞ。どうするつもりだよ」
まさか西輝にまでそんな事を言われるとは思っていなかった。
「これから話し合って決めるから心配するな」
そう宥めるも納得のいかない顔をしている。
「静夏に聞いた。全く話をしていないどころか、深春さんはまだ愛のない結婚だって思っているって」
「お前、そんな話を静夏ちゃんとしているのか」
驚いた。
てっきり犬猿の仲だと思っていた二人がそのような話をしているなんて。
顔を合わせればお互い文句を言いあっているのに。
「俺の事はどうでもいい。それよりも早いところ誤解を解かないと、このまま入籍したんではいつまでもしこりが残る。兄貴はそれで良いのか?」
良いわけがない。ただなかなか言い出せないだけだ。
「タイミングを見ているだけだ、後日伝える」
西輝は大きなため息をつく。
「六年も側にいるくせに告白の一つも出来ないなんて、とんだ腰抜けだな」
「何?」
さすがに聞き捨てならない。
「そうじゃないならさっさとしろよ。兄貴以外はもう準備万端なのに、いつまでも深春さんを待たせるんじゃねぇ」
弟に胸倉を掴まれる日が来るとは思わなかった。
「深春が俺を待っているわけないだろう……彼女はこの結婚を嫌がっているのに」
「嫌なのは兄貴がはっきり好きだと伝えないからだよ」
呆れたような声と表情をされるが、そんな言葉を聞いても信じられない。
「だって深春はいつも俺といると暗い顔をしているんだぞ。それなのに俺からの言葉を待つなんて、そんな事はない」
「自分の存在が兄貴を縛り付けたと思っているんだ。周囲がいくら言っても納得しないんだから、兄貴が言うしかない。深春さんは兄貴が好きなんだ、だから早く伝えろよ」
深春が俺を好き? 俺から言われるのを待っている?
戯言と跳ねのけるのは簡単だろうけど、こうまでして言いに来たという事は無視できないものだ。
「親父や母さんは兄貴が気づくまで言うななんて言うけど、それじゃ俺が困るんだよ」
「?」
西輝が困る? 何かあるのだろうか。
それはともかく、弟のいう事が本当であれば、俺はずっと深春を待たせていたことになるのか。
あの暗い顔は俺がはっきりと伝えていなかったから、不安に思っていたという事なのだろうか。
もしも自分のせいであのような顔をさせていたというのなら申し訳ない。
自分が嫌いと言われるよりも、深春が辛い思いをしている方が余程嫌だ。
「わかった。今度こそ深春に伝えてくるからな」
それを聞いて、ようやく西輝は手を離してくれた。
「早くしろよ。俺も静夏も二人の衣装を作るのを楽しみにしているんだからな」
「それは初耳だ」
確かに二人ともデザイン系の勉強をしているがそんな話は今まで言われた事がない。
「話が固まってからと思ったが一向にないから打診すら出来なかったんだよ。俺の方はいいが、静夏の方が困る。ウェディングドレスの方が工程が多いからな」
静夏ちゃんの作るドレスなんて、きっとどのブランドのものよりも深春は喜ぶだろう。
そしてそれはきっと天羽生家の妹皆の願いだ、ずっと頑張ってきた姉への最大のお祝い。
(それを聞いたら、このまま暗い顔で居させるわけにはいかないな)
何としても笑顔で着て貰わないと。
そして絶対に幸せにする。
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