【本編完結】婚約者を守ろうとしたら寧ろ盾にされました。腹が立ったので記憶を失ったふりをして婚約解消を目指します。

しろねこ。

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第40話 幸せも束の間

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 跡継ぎにはならずとも、ブルックリン侯爵家の事を学ぶためにリヴィオは私の家で過ごしている。

 将来的には兄の補佐をする予定で色々と領地の事を教わっているが、慣れない勉強と生活は大変そうだわ。

 元々は騎士として雇うのだろうと思っていたお父様だが、私が配偶者として望んでいると知ってから色々と画策してくれている。

 記憶を失った私と二人で過ごすのも、一から勤め先を探すのも大変だろうと、半ば強制的にお父様が決めたのだけれど、リヴィオもこれからの事を考えて了承してくれた。

 私を守るためとお父様に言われれば、反対も出来ないものね。

 私に傷を負わせたことについてもずっと責任を感じているし、侯爵家の守りは堅いから襲われる心配は少ないと条件を飲んだみたい。

 まぁそれは口実で、本当はお父様が私を手元に置いておきたかったのでしょう。
 もうどこにも行かせたくないと言っていたのをポエットと共に聞いたわよ。

 私の為に色々な事を頑張ってくれるお父様やお兄様、そしてリヴィオの為に私ももっと頑張りたい。

 早く慣れるようにと私もリヴィオの側にいるようにしているが、それがさらに重圧をかけているようで、彼はより頑張るようになってしまった。
 倒れることがないといいのだけど、心配だわ。

「早くこの生活が落ち着いて、リヴィオとゆっくりしたいものだわ」
 同じ屋根の下と言っても適切な距離でのお付き合いだし、この状況ではイチャイチャも出来ない。

 何かしようと思ってもリヴィオの方がガードが固くて手が出せないのもある、単純に忙しくて構ってくれないのもあるようだけど。

(何だか寂しいわ)
 以前よりも一緒にいる時間は増えたし、話も沢山するようになった。
 けれどそれでももっと触れ合いたい。

 贅沢な希望だともわかっているが、一度手に入れてしまうとあっという間に次が欲しくなるものね。
 もっとリヴィオと近づきたいと願ってしまうわ。

 我慢を止めたからその反動もあるのかしら。

 そうしてリヴィオが側にいる楽しくも切ない生活を送る毎日だったのだけれど、ついに平穏が崩れてしまったわ。






 お父様に呼ばれ、二人で話をした後から、リヴィオは時々険しい表情をするようになったの。

 私には何も言わないけれど、深刻な事が起きたのは間違いない。

 婚約者に隠し事をしてはいけないと思うわ。私は別だけどね。

「リヴィオ、一体何の話をしたのです」
 痺れを切らし、とうとう私はリヴィオの部屋に突撃して直接話を聞くことにしたわ。

 ポエットも止めることなく付いてきてくれたが、もしかしたら彼女も何があったのか聞きたいのかも。

 お父様は頑として教えてくれないけれど、リヴィオなら押せば行けると踏んだのだ。
 しかし、なかなか話してくれない。

「すみません、エカテリーナ様。内密の話の為話すわけには……」
 何度も同じことを繰り返され、私は不貞腐れる。

「あら、酷いわ。リヴィオは私よりもお父様が大事なのね」
 ツンと唇を尖らせてそんな事を言うと、困ったように眉を寄せる。

「そうではありません。ですが少々酷な話でして、エカテリーナ様の御心を傷つけてしまう可能性があります。それを考えると、話をするのはまだ早いと侯爵様と共に判断しました」
 明確な内容は避けているものの、ちらほらとヒントをくれるとはなんて優しいのでしょう。

 お父様なら絶対に頑として、一言も教えてはくれません。

 リヴィオの名誉のためを言うならば、普段の彼も決して話す事はないのですよ。
 私が聞いたから可能な限り教えてくれているだけで、他の者には秘密をばらすなんてしないわ。

(私には言えない話ね)
 そんなのあったかしら? 大体の話は聞いた気がするけど。

 幼い頃からローシュの婚約者であったなどの嫌な話とか、魔法が使えたけれど今は無理だとか、ごろつきに襲われて死にかけた話など様々な事を聞いている。これ以上内緒にされるような話なんて、想像がつかないわね。

「出来れば全てを話してもらいたいの」

(そんな断片的な内容では満足できないわよ)
 私は先程の拗ねた顔から一転して真摯にリヴィオを見つめ顔を近づけた。

 顔を赤らめ、後ろに下がるリヴィオの手を逃がさないように握る。そうしたら体を震わせて硬直してしまった。

 まるで蛇に睨まれた蛙のようだけれど、赤い顔は怖がっている素振りなどない。

 そんなに他の人の前で感情を露わにしては駄目よ?
 私の前だけなら許してあげるけど。

「お願い、教えて頂戴、いつまでも守られてばかりではいたくないの」

「しかし……」
 躊躇うリヴィオだが、視線はしっかりと私を見てくれている。

 あと一息だと更に近づいて、下から見上げるようにして懇願をした。

「お願いリヴィオ。私、自分の記憶がない事がとても不安なの。昔の私の話は色々と教えてもらったけれど、でもどこか実感がなくて……本当に自分の事なのか信じられないの。過去がない、思い出せないって事は、宙に浮いているようなどこか落ち着かない、ふわふわした感覚なの。だからどんな事でもいいから話して欲しい。もしかしたら昔の私を取り戻せるかもしれないから」
 真剣な頼みにリヴィオの顔からは赤みが消え、真面目な顔で頷いてくれる。

「……わかりました」
 私、女優になれるんじゃない?

 こんなにもすらすらとこのような言葉が出るなんて。

 嘘はいっていないわ。
 記憶がないならきっとそう感じるだろうと思った事を話しただけだもの。

「ですが今は話せません」
 あら、まだガードが解けていなかったわ。

 でも今はって……いつならいいのかしら。あまり遅いのは嫌ね。

「明日の夜、侯爵様に呼ばれております。前回の話の確証が得られたと。だからポエット、君も同席するといい」
 待機していたポエットも頷いた。

 本当に気配を隠すのが上手だわ、凄い。

 今の今まで一緒に来ていたのに忘れてしまったいたわ。
 後で赤面し、恥ずかしがっていたリヴィオについて忘れるように言わないと。

 あの表情を見るのは私の特権なのだから。

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