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第四章『輝宗の死』
伊達輝宗、走馬灯を見るのは伊達じゃない その陸
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アーティネスのお陰で、俺が自殺した理由も甲太郎を裏切った理由も思い出した。ただ、あまり思い出したくない記憶だ。心臓が痛くなり、胸に手を当てた。
「思い出しましたね」
「ああ、完全に思い出した」
「いえ、まだ完全ではありません。死亡後の記憶も、鮮明に思い出していただかねばなりません」
「死亡後? ......確かに、記憶はないな」
「ええ。体に負荷を掛けて、また記憶を思い出させましょう。では」
「待てっ! 心の準備をさせろ」
「わかりました。もう十分を差し上げます」
死亡後、つまり神界に来てから転生した後ということか。俺は会社の屋上から身を投げて死んだんだ。
「その前に聞きたいことがある」
「どうしました?」
「俺が死んだ後の秋山先輩や周囲の変化が知りたい」
「......あまり聞かない方が良いですよ」
「知りたいんだ」
アーティネスは右手を挙げると、小型の薄っぺらいモニターが現れた。「このモニターに、あなたが前世で死んだ後の状況を映し出します」
「わかった」
モニターは俺の目の前まで移動してきて、映像が流れる。その映像には、屋上から落ちて血を流して倒れている俺が映っていた。
俺が落ちた瞬間を見た人々は、気持ち悪そうにその場を去って行った。通報するような奴は存在せず、心配そうに駆け寄ってくる人物もいない。これはかなり傷付く。
ずっと待っていると、俺に駆け寄ってきた人物がいた。秋山先輩だ。
秋山先輩は俺の脈を確認し、それから電話を掛けた。
「秋山先輩は誰に連絡しているんだ?」
「救急車を呼んでいます」
良かった。秋山先輩は優しかった。そう思ってモニターを眺めていると、秋山先輩は俺の死体に向かって何かを言っていた。
「音声はないのか?」
「音声を出しましょう」
音声が出てから、秋山先輩が俺に何を言ったのかわかった。秋山先輩は『やっと死んだか。足手まといの後輩がっ』と言っていた。目の前が真っ暗になる。
「だから知らない方が良いと言ったんですよ」
先輩に裏切られたことに、俺は絶望し、肩の力が抜けた。アーティネスは、やれやれとため息をついた。
「俺の死に悲しんだ奴はいたのか?」
「いません」
「いない......のか」
俺はもう一度飛び降りたい気持ちになったが、すでに二度目の人生でも死んで今に至っていたことに気付く。
「わかった。もうわかったから。体に負荷を掛けていいから、早く死亡後の記憶を思い出させてくれ」
アーティネスが何かを唱えたら、また俺の体に激痛が走る。
俺は死亡後、アーティネスと会ったんだ。そして、試練を与えられた。
「重岡十吉。あなたに試練を与えます。この試練を乗り越えることが出来れば、転生することが出来ます」
転生。唐突過ぎる。ただ、重岡十吉の人生は酷すぎた。新たな人生をスタートするには、これしかない。
「その試練、受ける!」
「良いですね。では、試練の内容を説明します。井原甲太郎を裏切ったことを償ってください」
「甲太郎を裏切ったこと」
俺はあいつを殴り飛ばしてしまった。償うのは当然のことだ。
「わかった。償う」
「では、償いのために強制的に伊達輝宗に転生させます」
「はぁ!? 伊達輝宗? 誰だよ!」
「伊達政宗の父親です」
伊達政宗。そいつは知っている。伊達政宗は日本の戦国武将だ。
「戦国時代に行けってか!?」
「それが償いとなります」
「仕方ねぇ。やってやるよ。俺を伊達輝宗に転生させやがれ」
「では、転生の儀式を行います」
アーティネスによって伊達輝宗に転生を果たした俺は、まず周囲の状況を見極めた。
俺が転生して生まれてきた時代は天文13年(1544年)。父親は伊達晴宗という名前らしい。まったく知らない人物だ。生まれた場所は桑折西山城。陸奥国という国に桑折西山城があるらしく、陸奥国はどうやら東北地方のことだということがわかった。
母親は久保姫。俺は彦太郎と呼ばれている。輝宗に転生したはずなのにおかしい、と思ったら幼名とのこと。その後、総次郎とも呼ばれた。十一歳には輝宗と名乗る。
俺は次男らしいが、兄が養子にいったから伊達家を継いで当主となる。が、実権はくそ晴宗に握られていて、俺は名ばかりということだ。腹が立つ。
転生してから、ボーと空ばかり見ていた。そんな時に、異邦の者が現れたと騒ぎになっていた。何だ何だと顔を覗かせると、そこには甲太郎がいた。姿は前世での時と変わりなく、俺と違って転移をしたに違いない。
アーティネスが言っていた、償い、の意味がわかった気がした。
「甲太郎!」
「はい? 誰ですか?」
「すまなかったな。重岡十吉だ」
「へ? 十吉?」
「そうだ。転生した。ここは戦国時代。まあ、部屋に行こう」
甲太郎を部屋に入れて、俺の身の回りに起きたことを事細かに話してみた。そして最後に、甲太郎に謝った。
「まさかお前を裏切ってしまうことになって、悪かった」
「ハハハ。別に大丈夫だよ。それより、お前は大丈夫だったのか?」
「俺は大丈夫だった」
まずは晴宗に甲太郎のことを報告し、怪しい人物ではなかったと話した。すると、晴宗は俺に甲太郎のことを丸投げしてきた。まあ、下手に詮索されるよりは良かったと言うべきか。
「思い出しましたね」
「ああ、完全に思い出した」
「いえ、まだ完全ではありません。死亡後の記憶も、鮮明に思い出していただかねばなりません」
「死亡後? ......確かに、記憶はないな」
「ええ。体に負荷を掛けて、また記憶を思い出させましょう。では」
「待てっ! 心の準備をさせろ」
「わかりました。もう十分を差し上げます」
死亡後、つまり神界に来てから転生した後ということか。俺は会社の屋上から身を投げて死んだんだ。
「その前に聞きたいことがある」
「どうしました?」
「俺が死んだ後の秋山先輩や周囲の変化が知りたい」
「......あまり聞かない方が良いですよ」
「知りたいんだ」
アーティネスは右手を挙げると、小型の薄っぺらいモニターが現れた。「このモニターに、あなたが前世で死んだ後の状況を映し出します」
「わかった」
モニターは俺の目の前まで移動してきて、映像が流れる。その映像には、屋上から落ちて血を流して倒れている俺が映っていた。
俺が落ちた瞬間を見た人々は、気持ち悪そうにその場を去って行った。通報するような奴は存在せず、心配そうに駆け寄ってくる人物もいない。これはかなり傷付く。
ずっと待っていると、俺に駆け寄ってきた人物がいた。秋山先輩だ。
秋山先輩は俺の脈を確認し、それから電話を掛けた。
「秋山先輩は誰に連絡しているんだ?」
「救急車を呼んでいます」
良かった。秋山先輩は優しかった。そう思ってモニターを眺めていると、秋山先輩は俺の死体に向かって何かを言っていた。
「音声はないのか?」
「音声を出しましょう」
音声が出てから、秋山先輩が俺に何を言ったのかわかった。秋山先輩は『やっと死んだか。足手まといの後輩がっ』と言っていた。目の前が真っ暗になる。
「だから知らない方が良いと言ったんですよ」
先輩に裏切られたことに、俺は絶望し、肩の力が抜けた。アーティネスは、やれやれとため息をついた。
「俺の死に悲しんだ奴はいたのか?」
「いません」
「いない......のか」
俺はもう一度飛び降りたい気持ちになったが、すでに二度目の人生でも死んで今に至っていたことに気付く。
「わかった。もうわかったから。体に負荷を掛けていいから、早く死亡後の記憶を思い出させてくれ」
アーティネスが何かを唱えたら、また俺の体に激痛が走る。
俺は死亡後、アーティネスと会ったんだ。そして、試練を与えられた。
「重岡十吉。あなたに試練を与えます。この試練を乗り越えることが出来れば、転生することが出来ます」
転生。唐突過ぎる。ただ、重岡十吉の人生は酷すぎた。新たな人生をスタートするには、これしかない。
「その試練、受ける!」
「良いですね。では、試練の内容を説明します。井原甲太郎を裏切ったことを償ってください」
「甲太郎を裏切ったこと」
俺はあいつを殴り飛ばしてしまった。償うのは当然のことだ。
「わかった。償う」
「では、償いのために強制的に伊達輝宗に転生させます」
「はぁ!? 伊達輝宗? 誰だよ!」
「伊達政宗の父親です」
伊達政宗。そいつは知っている。伊達政宗は日本の戦国武将だ。
「戦国時代に行けってか!?」
「それが償いとなります」
「仕方ねぇ。やってやるよ。俺を伊達輝宗に転生させやがれ」
「では、転生の儀式を行います」
アーティネスによって伊達輝宗に転生を果たした俺は、まず周囲の状況を見極めた。
俺が転生して生まれてきた時代は天文13年(1544年)。父親は伊達晴宗という名前らしい。まったく知らない人物だ。生まれた場所は桑折西山城。陸奥国という国に桑折西山城があるらしく、陸奥国はどうやら東北地方のことだということがわかった。
母親は久保姫。俺は彦太郎と呼ばれている。輝宗に転生したはずなのにおかしい、と思ったら幼名とのこと。その後、総次郎とも呼ばれた。十一歳には輝宗と名乗る。
俺は次男らしいが、兄が養子にいったから伊達家を継いで当主となる。が、実権はくそ晴宗に握られていて、俺は名ばかりということだ。腹が立つ。
転生してから、ボーと空ばかり見ていた。そんな時に、異邦の者が現れたと騒ぎになっていた。何だ何だと顔を覗かせると、そこには甲太郎がいた。姿は前世での時と変わりなく、俺と違って転移をしたに違いない。
アーティネスが言っていた、償い、の意味がわかった気がした。
「甲太郎!」
「はい? 誰ですか?」
「すまなかったな。重岡十吉だ」
「へ? 十吉?」
「そうだ。転生した。ここは戦国時代。まあ、部屋に行こう」
甲太郎を部屋に入れて、俺の身の回りに起きたことを事細かに話してみた。そして最後に、甲太郎に謝った。
「まさかお前を裏切ってしまうことになって、悪かった」
「ハハハ。別に大丈夫だよ。それより、お前は大丈夫だったのか?」
「俺は大丈夫だった」
まずは晴宗に甲太郎のことを報告し、怪しい人物ではなかったと話した。すると、晴宗は俺に甲太郎のことを丸投げしてきた。まあ、下手に詮索されるよりは良かったと言うべきか。
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