上 下
101 / 245
第四章『輝宗の死』

伊達輝宗、走馬灯を見るのは伊達じゃない その陸

しおりを挟む
 アーティネスのお陰で、俺が自殺した理由も甲太郎を裏切った理由も思い出した。ただ、あまり思い出したくない記憶だ。心臓が痛くなり、胸に手を当てた。
「思い出しましたね」
「ああ、完全に思い出した」
「いえ、まだ完全ではありません。死亡後の記憶も、鮮明せんめいに思い出していただかねばなりません」
「死亡後? ......確かに、記憶はないな」
「ええ。体に負荷を掛けて、また記憶を思い出させましょう。では」
「待てっ! 心の準備をさせろ」
「わかりました。もう十分を差し上げます」
 死亡後、つまり神界に来てから転生した後ということか。俺は会社の屋上から身を投げて死んだんだ。
「その前に聞きたいことがある」
「どうしました?」
「俺が死んだ後の秋山先輩や周囲の変化が知りたい」
「......あまり聞かない方が良いですよ」
「知りたいんだ」
 アーティネスは右手を挙げると、小型の薄っぺらいモニターが現れた。「このモニターに、あなたが前世で死んだ後の状況を映し出します」
「わかった」
 モニターは俺の目の前まで移動してきて、映像が流れる。その映像には、屋上から落ちて血を流して倒れている俺が映っていた。
 俺が落ちた瞬間を見た人々は、気持ち悪そうにその場を去って行った。通報するような奴は存在せず、心配そうに駆け寄ってくる人物もいない。これはかなり傷付く。
 ずっと待っていると、俺に駆け寄ってきた人物がいた。秋山先輩だ。
 秋山先輩は俺の脈を確認し、それから電話を掛けた。
「秋山先輩は誰に連絡しているんだ?」
「救急車を呼んでいます」
 良かった。秋山先輩は優しかった。そう思ってモニターを眺めていると、秋山先輩は俺の死体に向かって何かを言っていた。
「音声はないのか?」
「音声を出しましょう」
 音声が出てから、秋山先輩が俺に何を言ったのかわかった。秋山先輩は『やっと死んだか。足手まといの後輩がっ』と言っていた。目の前が真っ暗になる。
「だから知らない方が良いと言ったんですよ」
 先輩に裏切られたことに、俺は絶望し、肩の力が抜けた。アーティネスは、やれやれとため息をついた。
「俺の死に悲しんだ奴はいたのか?」
「いません」
「いない......のか」
 俺はもう一度飛び降りたい気持ちになったが、すでに二度目の人生でも死んで今に至っていたことに気付く。
「わかった。もうわかったから。体に負荷を掛けていいから、早く死亡後の記憶を思い出させてくれ」
 アーティネスが何かを唱えたら、また俺の体に激痛が走る。

 俺は死亡後、アーティネスと会ったんだ。そして、試練を与えられた。
「重岡十吉。あなたに試練を与えます。この試練を乗り越えることが出来れば、転生することが出来ます」
 転生。唐突過ぎる。ただ、重岡十吉の人生は酷すぎた。新たな人生をスタートするには、これしかない。
「その試練、受ける!」
「良いですね。では、試練の内容を説明します。井原甲太郎を裏切ったことをつぐなってください」
「甲太郎を裏切ったこと」
 俺はあいつを殴り飛ばしてしまった。償うのは当然のことだ。
「わかった。償う」
「では、償いのために強制的に伊達輝宗に転生させます」
「はぁ!? 伊達輝宗? 誰だよ!」
「伊達政宗の父親です」
 伊達政宗。そいつは知っている。伊達政宗は日本の戦国武将だ。
「戦国時代に行けってか!?」
「それが償いとなります」
「仕方ねぇ。やってやるよ。俺を伊達輝宗に転生させやがれ」
「では、転生の儀式を行います」
 アーティネスによって伊達輝宗に転生を果たした俺は、まず周囲の状況を見極めた。
 俺が転生して生まれてきた時代は天文13年(1544年)。父親は伊達晴宗はるむねという名前らしい。まったく知らない人物だ。生まれた場所は桑折こおり西山にしやまじょう陸奥国むつのくにという国に桑折西山城があるらしく、陸奥国はどうやら東北地方のことだということがわかった。
 母親は久保姫くぼひめ。俺は彦太郎ひこたろうと呼ばれている。輝宗に転生したはずなのにおかしい、と思ったら幼名とのこと。その後、総次郎そうじろうとも呼ばれた。十一歳には輝宗と名乗る。
 俺は次男らしいが、兄が養子にいったから伊達家を継いで当主となる。が、実権はくそ晴宗に握られていて、俺は名ばかりということだ。腹が立つ。
 転生してから、ボーと空ばかり見ていた。そんな時に、異邦いほうの者が現れたと騒ぎになっていた。何だ何だと顔を覗かせると、そこには甲太郎がいた。姿は前世での時と変わりなく、俺と違って転移をしたに違いない。
 アーティネスが言っていた、償い、の意味がわかった気がした。
「甲太郎!」
「はい? 誰ですか?」
「すまなかったな。重岡十吉だ」
「へ? 十吉?」
「そうだ。転生した。ここは戦国時代。まあ、部屋に行こう」
 甲太郎を部屋に入れて、俺の身の回りに起きたことを事細かに話してみた。そして最後に、甲太郎に謝った。
「まさかお前を裏切ってしまうことになって、悪かった」
「ハハハ。別に大丈夫だよ。それより、お前は大丈夫だったのか?」
「俺は大丈夫だった」
 まずは晴宗に甲太郎のことを報告し、怪しい人物ではなかったと話した。すると、晴宗は俺に甲太郎のことを丸投げしてきた。まあ、下手に詮索せんさくされるよりは良かったと言うべきか。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

GAME CHANGER 日本帝国1945からの逆襲

俊也
歴史・時代
時は1945年3月、敗色濃厚の日本軍。 今まさに沖縄に侵攻せんとする圧倒的戦力のアメリカ陸海軍を前に、日本の指導者達は若者達による航空機の自爆攻撃…特攻 で事態を打開しようとしていた。 「バカかお前ら、本当に戦争に勝つ気があるのか!?」 その男はただの学徒兵にも関わらず、平然とそう言い放ち特攻出撃を拒否した。 当初は困惑し怒り狂う日本海軍上層部であったが…!? 姉妹作「新訳 零戦戦記」共々宜しくお願い致します。 共に 第8回歴史時代小説参加しました!

勇者に闇討ちされ婚約者を寝取られた俺がざまあするまで。

飴色玉葱
ファンタジー
王都にて結成された魔王討伐隊はその任を全うした。 隊を率いたのは勇者として名を挙げたキサラギ、英雄として誉れ高いジークバルト、さらにその二人を支えるようにその婚約者や凄腕の魔法使いが名を連ねた。 だがあろうことに勇者キサラギはジークバルトを闇討ちし行方知れずとなってしまう。 そして、恐るものがいなくなった勇者はその本性を現す……。

冤罪をかけられ、彼女まで寝取られた俺。潔白が証明され、皆は後悔しても戻れない事を知ったらしい

一本橋
恋愛
痴漢という犯罪者のレッテルを張られた鈴木正俊は、周りの信用を失った。 しかし、その実態は私人逮捕による冤罪だった。 家族をはじめ、友人やクラスメイトまでもが見限り、ひとり孤独へとなってしまう。 そんな正俊を慰めようと現れた彼女だったが、そこへ私人逮捕の首謀者である“山本”の姿が。 そこで、唯一の頼みだった彼女にさえも裏切られていたことを知ることになる。 ……絶望し、身を投げようとする正俊だったが、そこに学校一の美少女と呼ばれている幼馴染みが現れて──

魅了だったら良かったのに

豆狸
ファンタジー
「だったらなにか変わるんですか?」

Another World〜自衛隊 まだ見ぬ世界へ〜

華厳 秋
ファンタジー
───2025年1月1日  この日、日本国は大きな歴史の転換点を迎えた。  札幌、渋谷、博多の3箇所に突如として『異界への門』──アナザーゲート──が出現した。  渋谷に現れた『門』から、異界の軍勢が押し寄せ、無抵抗の民間人を虐殺。緊急出動した自衛隊が到着した頃には、敵軍の姿はもうなく、スクランブル交差点は無惨に殺された民間人の亡骸と血で赤く染まっていた。  この緊急事態に、日本政府は『門』内部を調査するべく自衛隊を『異界』──アナザーワールド──へと派遣する事となった。  一方地球では、日本の急激な軍備拡大や『異界』内部の資源を巡って、極東での緊張感は日に日に増して行く。  そして、自衛隊は国や国民の安全のため『門』内外問わず奮闘するのであった。 この作品は、小説家になろう様カクヨム様にも投稿しています。 この作品はフィクションです。 実在する国、団体、人物とは関係ありません。ご注意ください。

私の代わりが見つかったから契約破棄ですか……その代わりの人……私の勘が正しければ……結界詐欺師ですよ

Ryo-k
ファンタジー
「リリーナ! 貴様との契約を破棄する!」 結界魔術師リリーナにそう仰るのは、ライオネル・ウォルツ侯爵。 「彼女は結界魔術師1級を所持している。だから貴様はもう不要だ」 とシュナ・ファールと名乗る別の女性を部屋に呼んで宣言する。 リリーナは結界魔術師2級を所持している。 ライオネルの言葉が本当なら確かにすごいことだ。 ……本当なら……ね。 ※完結まで執筆済み

【新訳】帝国の海~大日本帝国海軍よ、世界に平和をもたらせ!第一部

山本 双六
歴史・時代
たくさんの人が亡くなった太平洋戦争。では、もし日本が勝てば原爆が落とされず、何万人の人が助かったかもしれないそう思い執筆しました。(一部史実と異なることがあるためご了承ください)初投稿ということで俊也さんの『re:太平洋戦争・大東亜の旭日となれ』を参考にさせて頂きました。 これからどうかよろしくお願い致します! ちなみに、作品の表紙は、AIで生成しております。

錆びた剣(鈴木さん)と少年

へたまろ
ファンタジー
鈴木は気が付いたら剣だった。 誰にも気づかれず何十年……いや、何百年土の中に。 そこに、偶然通りかかった不運な少年ニコに拾われて、異世界で諸国漫遊の旅に。 剣になった鈴木が、気弱なニコに憑依してあれこれする話です。 そして、鈴木はなんと! 斬った相手の血からスキルを習得する魔剣だった。 チートキタコレ! いや、錆びた鉄のような剣ですが ちょっとアレな性格で、愉快な鈴木。 不幸な生い立ちで、対人恐怖症発症中のニコ。 凸凹コンビの珍道中。 お楽しみください。

処理中です...