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第一章
第五十八話 ひまわり色の髪の乙女
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上陸。帰国。
船の操縦士さんにお礼を言ってから、これから歩むべき方向を見据えた。
王城は果てしなく遠くに――見えるような……見えないような。
距離は固定されているのだから遠くかそうでもないかの状態も固定されている訳だが、あやふやで曖昧な感覚はつまり、俺の精神状態に由来するものなのかもしれなかった。
「……んじゃあ、出発しましょう」
そう声を掛けて二人の方を向くと――二人は何かを興味深げに見ているようだった。
「……どうし……」
そう訊こうとしたが、二人の視線を辿ると、何を見ているかは明らかだった。
王城の方向に伸びている道。その向こう側から、フードを目深にかぶった一人の――辛うじて女性だと分かる――少女が歩いてきていた。
少しずつ近付いてくるその人物に――しかし俺は警戒を抱くことはなかった。いや、そんな暇はなかった――或いは余裕がなかったというべきかもしれない。
少女は俺たちの前で立ち止まって、フードを取る。
鮮烈なる輝きを持つ金色の髪が、ふわりと広がった。
言葉を失った俺に代わり、弥生さんが「初めまして」と挨拶を口にした。
「初めまして――王女殿下」
そういうことだった。
今日帰る旨を電報で王城に伝えたので――彩希が俺を迎えに来てくれたのだ。
「初めまして、凪初様。そして、華雅様。ようこそ極星国へお出で下さいました」
「お会いできて光栄です」
「滞在を快諾していただきありがとうございます」
「いえいえ」
そんな風に挨拶を交わす少女達を見て若干混乱状態が解けた俺は、核心に迫るというか――少なくとも俺にとって最も大きな意味を持つ事柄について触れることにした。
「……え、えーと。その、電報に書けなかった詳しい事情は城に着いてから説明するから……」
俺がそう言うと、彩希は予想通りに、底知れない美しさを持つ微笑を浮かべて、「はい。後でお聞きしますね。みんな楽しみにしているので」と言った。
ふむ。みんな、ね。
…………これから俺はどうなってしまうのだろう。
○
三人は道中でそれぞれの呼称について話し合い、最終的には殿下とか様とか取っ払って呼び合うことになったみたいだった。その方が距離を感じさせないし、いい感じだよね。うん。
さてさて。
段々と夜の気配が満ちてきて、空は既に茜色に染まっていた。鴉の鳴く声が辺りに響き、時折その姿が太陽に影を落とすように見えた。
世界の終わりはこんな風に訪れて、今目の前に広がるのと似たような景色をもたらすのかもしれない。
何となくそう思った。それもやはり、俺の中の何かしらの感覚を反映したものであるのかもしれなかった。
船の操縦士さんにお礼を言ってから、これから歩むべき方向を見据えた。
王城は果てしなく遠くに――見えるような……見えないような。
距離は固定されているのだから遠くかそうでもないかの状態も固定されている訳だが、あやふやで曖昧な感覚はつまり、俺の精神状態に由来するものなのかもしれなかった。
「……んじゃあ、出発しましょう」
そう声を掛けて二人の方を向くと――二人は何かを興味深げに見ているようだった。
「……どうし……」
そう訊こうとしたが、二人の視線を辿ると、何を見ているかは明らかだった。
王城の方向に伸びている道。その向こう側から、フードを目深にかぶった一人の――辛うじて女性だと分かる――少女が歩いてきていた。
少しずつ近付いてくるその人物に――しかし俺は警戒を抱くことはなかった。いや、そんな暇はなかった――或いは余裕がなかったというべきかもしれない。
少女は俺たちの前で立ち止まって、フードを取る。
鮮烈なる輝きを持つ金色の髪が、ふわりと広がった。
言葉を失った俺に代わり、弥生さんが「初めまして」と挨拶を口にした。
「初めまして――王女殿下」
そういうことだった。
今日帰る旨を電報で王城に伝えたので――彩希が俺を迎えに来てくれたのだ。
「初めまして、凪初様。そして、華雅様。ようこそ極星国へお出で下さいました」
「お会いできて光栄です」
「滞在を快諾していただきありがとうございます」
「いえいえ」
そんな風に挨拶を交わす少女達を見て若干混乱状態が解けた俺は、核心に迫るというか――少なくとも俺にとって最も大きな意味を持つ事柄について触れることにした。
「……え、えーと。その、電報に書けなかった詳しい事情は城に着いてから説明するから……」
俺がそう言うと、彩希は予想通りに、底知れない美しさを持つ微笑を浮かべて、「はい。後でお聞きしますね。みんな楽しみにしているので」と言った。
ふむ。みんな、ね。
…………これから俺はどうなってしまうのだろう。
○
三人は道中でそれぞれの呼称について話し合い、最終的には殿下とか様とか取っ払って呼び合うことになったみたいだった。その方が距離を感じさせないし、いい感じだよね。うん。
さてさて。
段々と夜の気配が満ちてきて、空は既に茜色に染まっていた。鴉の鳴く声が辺りに響き、時折その姿が太陽に影を落とすように見えた。
世界の終わりはこんな風に訪れて、今目の前に広がるのと似たような景色をもたらすのかもしれない。
何となくそう思った。それもやはり、俺の中の何かしらの感覚を反映したものであるのかもしれなかった。
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