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第一章

第十四話 笑顔だけど、おこなんですかね

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 ……昨日の失敗を詫びる為、俺は時葉の授業が始まる二時間ほど前に自室を出た。

 メイドさんの佳那を通じて、時葉には早めに行く旨を伝えてある。

 時葉の部屋の前に到着し、少し息と身なりを整えて、こんこんとノックした。

「先生?」

「うん」

「どうぞ、入ってください」

 ドアを開けると、時葉が笑顔で迎えてくれた。

 ……笑顔だけど怒ってんのかな。どうなんだろう。表情から感情を読み取るのってすごく難しいよね。

 こういう時はすぐに謝るのが吉。

「えーと……昨日はごめん。何か要望があったら何なりと……」

「そう……ですね」

 時葉は顎に手を当てて僅かに首を傾けた。その知的な印象を受ける仕草が、彼女には良く似合う。

「今日の授業の時間をちょっと延ばしてもらえればそれで」

「……そんなことでいいのか?」

 早めに部屋を訪れたのは、時間がかかる要望だったらこの時間に何とかしようと思っていたからだったのだが、授業の延長を希望されるとは思ってもいなかった。

「はい。でも、内容は指定させてもらってもいいですか?」

「ど、どうぞ」

「先生の研究について――古代魔法について、増えた時間で教えてください」

「古代魔法を?」

「はい。ずっと興味があったんです」

「……じゃあ、それでいくか。今から授業でいい?」

「もちろんです」

 ○
「まず、古代魔法の定義は知ってる?

「……流石の時葉でも古代魔法の事は良く知らないか。

「古代魔法ってのは、一般的な魔法と比較した時に特異な構造や効果を持つ魔法の事なんだ。

「それを何故古代魔法と言うのかと言えば――現在一般的に使われる魔法が、ヴァルシュヴィが改良した魔法だから――つまり、最近できた魔法だから。

「と言っても出来てから二百年経ってるけどね。

「そんな最近の魔法に対しての呼称として、古代魔法。そう名付けられた。

「……ええと、そうだな。まとめると、定義は、ヴァルシュヴィが手を加えた後の魔法が一般的な魔法。手を加える前の魔法が古代魔法。そんな感じ」

「……先生、では何故、ヴァルシュヴィが手を加える前の魔法を研究されているのですか?」

「ああ……それは、改良される前の方が使い勝手が良かった魔法も存在するからだ」

「……どういう?」

「ヴァルシュヴィは確かに天才だった。彼の作った詠唱魔法陣変換の技術は魔法を体系的に理解することを可能にした。

「ここの構成がこうだから……こんな属性を持つ。反対側の構成がこうだから……こんな性質を持つ。

「そういう風に、ルールに沿って魔法を整理することが出来るようになった。

「……何となく分かった?

「全体としてみれば、ヴァルシュヴィの構成は最高の効率を誇る。

「しかし――彼はルールに沿った構成を追究したため、例外的な構成を持つ魔法を多少効果を変える形で体系に組み入れたんだ。

「そこで生じたちょっとした差が――俺の研究の肝だ」
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